気づく、分かる、できる、身に付く

 

会長 東 誠三
 
 皆さま、新年明けましておめでとうございます。

 

photo:ArigaTerasawa

 新しい年の始まりに、皆様お一人お一人が大きな期待と予感に胸を膨らませておられることと思います。昨年は、大変僭越ながら本会の会長という役を拝命し、手探りながらも4ヵ月間進んでまいりました。少しでも会員の皆様にこの会との関わりが有意義に感じていただけますよう、心を砕いてまいりたいと思います。今年も一年どうぞよろしくお願い致します。

 さて、お正月らしく大きな夢を描くのも素晴らしい事ですが、私は敢えて日々の営みについて取り上げてみたいと思います。
 
 私たちは、楽器を弾ける事を通して、音楽と親しみ、音楽と親しむ心を育む事によって、より良い人間に成長していく事を目標としている集まりでもあります。楽器を弾く、または奏でる事を習得していく事は非常に多様な人間の能力を駆使する事によって少しずつ成し遂げられていくものです。それは、身体運動とも深く関わりを持っておりますし、耳(聴覚)の働きが大きいものである事は、申すまでもありません。
 
 あまり意識する事は無いかもしれませんが、普段の生活と同じように、目の働きも未過ごせないものがあります。そして何よりも大切なのは、「美しさを感じる」という人間特有の感覚、心の働きです。五感と呼ばれている、人間の元来持つ感じ取る力、そしてさまざまな動きを体内も含めて感じ取る力、それらから生じる「美しい」という何とも説明のし難い感覚・概念の総合によって、楽器から、意味のある=人の心に届く音と音楽を奏でる、これを目標に日々それらに関係する能力を少しずつ育てている訳です。
 
 これはまさに小さな植物の種を土に埋め、毎日、少しずつ水をやり、お日様の光に当て、そしてやがて土から顔を出すであろう小さな芽、そしてその小さな芽にまた水をやり、お日様にあて、時には肥料なども加えながら少しずつ成長を見守っていく、そのような行為に他なりません。植物は土の中に種を埋めますが、人間の成長は、頭の中=脳で行われます。どちらも、実際に何が起こっているのかは、直接目で見る事はできません。土の中で育つ命を信じて、水をやり、お日様に充てる訳です。脳の中で、日々、何が育っていくのでしょうか?
 
 ある一つの能力が育っていく時に、次のようなプロセスを経ていく事を、皆様は感じておられるでしょうか?何かに「気がつき」、気づいたことが何であったか、自分なりに「理解」し、理解した事を、「やってみよう」とし、やっているうちに「できる」ようになり、できる事を、心を込めて、または気を向けて繰り返していくと、「身に付いていく」このような事は、落ち着いて日常生活を振り返ってみると、さまざまな場面で起こっている事ですね?
 
 楽器を弾くことの習得もこのプロセスを辿って行くこと、体験して行く事に他なりません。ご自分の中に、またはご家族の中に育って行く「能力」は、見ることができないだけに、それが確実に育っているかどうか不安になるものだと思います。埋めた種の生命力を信じて、土を掘り返すことなく、まずご自分自身に、そしてご家族に水をやり、太陽の光を当て続けてみませんか? 見えない芽が少しずつ地中で育って行くことを感じてみましょう。やがてそれは小さいながらも地面から顔を出して、空に向かって伸びて行くのだと思います。でも、一生懸命水をやり、お日さまの光を当てても芽が出てこなかったらどうすれば良いのでしょうか? 心配は要りません。またもう一度、新たな種を大切に地面に埋めれば良いのだと思います。2025年もおそらく日々新しくお日さまがめぐってきます。一日一日を爽快で静かで深い呼吸と共に過ごしてまいりましょう。皆様にとって、今年も多くの「気づき」が訪れます事を、心よりお祈りしております。