ヴァイオリン科特別講師による新春座談会を開催
1月5日(火)15時〜17時にかけて開催されたヴァイオリン科主催の新春座談会では、2020年よりヴァイオリン科特別講師に就任された竹澤恭子先生、江口有香先生、荻原尚子先生がオンラインで出席。この日のテーマは、
音「音に命あり」きく「聴く、聞く」。日頃から音を追求される三者三様のアプローチとご経験談を伺うことができました。スズキの根幹でもある「音」についての意見交換は、とても有意義な時間となりました。司会は、ヴァイオリン科の末廣悦子先生が担当されました。
早野会長のご挨拶、そして特別講師の皆様からのご挨拶の後、2020年8月に開催した「おうち夏祭り」で一部が上映された特別講師の皆さんの小さい頃の演奏を、今回は全編見ていただきました。
・荻原尚子(12歳)ヴィエニヤフスキ:華麗なるポロネーズ
・江口有香(9歳) ヴィターリ:シャコンヌ
・竹澤恭子(9歳) ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲 第1番より第2楽章
素晴らしい演奏の様子は、当時の少々粗い画像でもオンラインでよく伝わってきました。10歳前後でこれだけ高い音楽性を持ってステージで堂々と演奏される姿は、皆さんの現在に至るご活躍を想起させるに十分なものでした。
座談会はおよそ90分にわたり、行なわれました。ここでは各先生方のお話のダイジェストをご紹介します。詳しい内容は2月下旬発行の機関誌209号で特集します。
竹澤恭子先生のお話
鈴木先生が常日頃おっしゃっていた「音に命あり」という言葉が大好きです。今も演奏する上で、モットーとしていることの一つです。演奏家にとって音は大切ですし、音楽を通してメッセージなり、何かを伝える時に、音は人の声と同じで大切なことです。幼少の頃から音を大切にすることを学んできましたが、それは今も現在進行形です。また、音を大切にする、音を磨く上で最も大切なのは「聴く」ことです。音の良し悪し、音楽的に生きているかどうかを聴き分ける耳を持つことは、本当にとても大切なことです。
幼少の頃の記憶ですので断片的ですが、とにかく習っていた山村晶一先生は、毎週のレッスンが音の追求でした。レッスンの80%を占めていたと思います。
幼心にも音というのは簡単に出せるものではなく、本当に植え付けられたと思います。よく聴いたレコードは、クライスラー、カザルス、オイストラフ、スターン、そしてパールマンでした。毎日、バックグラウンドのように聴いていたのですが、母がある時からレッスンの後に、そのとき勉強している曲のレコードをかけて、「毎日何か一つ気づいたことを挙げなさい」と言われました。それで、何か発見するために、集中して聴く姿勢になりました。
スズキ・メソードのおかげで、自分の出している音を聴くこと、そして子どもなりに生きた音を求める姿勢は、体のどこかに染み付いていると思います。そして、テン・チルドレン(海外演奏旅行)で体験した舞台での演奏は、とても衝撃的な体験でした。「あ、これ、好きだ!」という快感を覚えたのです。それが今も生きている支えになっているし、エネルギー源になっています。
今回、生徒さんたちの卒業検定の録音を聴かせていただきました。音作り、奏法の研究は鈴木先生の最も素晴らしいことの一つだと思いますので、引き続きその姿勢を続けられたらと思います。「聴く」にもいろいろな聴き方があって、例えば音を聴く耳、音質・音色を聴く耳、そして音楽全体を聴く耳、ハーモニーを聴く耳、美しい音を聴く耳、そしてアンサンブル全体を聴く耳、それが全部包括されるようなこと、そのいろいろな耳を育てていくことが大切だなと思いました。
江口有香先生のお話
「音に命あり」は私も大好きで、レッスンする場所に飾っています。本当にその通りで、いまだに心に持ったまま、楽器を弾くようにしています。今、様々な音がありすぎますが、何がいい音か、種類の多さを踏まえた上で、同じ方向に向かえたらいいと思います。例えばラジオを聴くように、視覚情報がないところで音を聴くことが少ないように思います。目を閉じた状態で、音だけに集中する時間が今の時代にあるといいですね。
最近のお子さんは忙しいですよね。だから、「時短」でできる練習をどんどん伝えていきたいと思っています。お母さんと喧嘩して練習するのではなくて、これだけこの時間でやったら確実に良くなるというのを本人が確認できるのがいいと思っています。
すごく衝撃的に残っている師匠の言葉がありまして、それは「音程は音と音の間のことなんだよ」というものでした。音を外したとしましょう。その前の音から問題の音への運動を音程というわけです。ですので、外した音の前の音からの練習が大切になります。どうしたら正確に移動できるか、ポジション移動の運動を教えることが大切なんですね。
右手も同じで、なぜ雑音が出るのかを探るときに、自分の弓のどの部分が弱いかを探るのがおすすめです。元が弱い生徒さんの場合は、元だけの練習をします。ですので、曲を通すのは3日に1回でもいいのです。自分が弱いところだけを1日30回とか40回練習こなすだけで良くて、さらに大事なのは、それを1日に2回やることです。そうした「時短練習」が、実はとても効果的です。
スズキ・メソードにはとても感謝しています。「あの頃のゆかちゃん」は才能教育で育って本当に良かったと思いますし、すごく恵まれていました。テン・チルドレンでの海外旅行は、本当に思い出に残っています。あれがなかったらヴァイオリンをこうやって続けていたかどうか、わかりません。
私も卒業検定録音を聴かせていただきました。聴く耳を持っているかどうかで、仕上がり感が違ってきますね。誰のために弾くのかを今年はたくさん考える年にしたいのですが、世のため人のためを考えますと、音程は綺麗な方がいいですし、3度6度の和音は綺麗に響いてほしいです。ですので、皆さんの音程をきれいにしたいですね。
荻原尚子先生のお話
鈴木先生の「音に命あり」は私も大好きなお言葉ですが、それは鈴木先生が最終的に至ったところなのかなと思っております。というのは、私のような普通の人が、最初からいい音を目指していると、視点が狭くなっていくというか、鈴木先生のようにすべてを経験され、研究され、素晴らしい音楽家と交流されることで、最終的に至られたのが「音に命あり」ではないかと思います。ですので、最初から音を目指すよりは、音楽的なところからいくのが近道ではないかと。いい音のためにはいい音程が必要で、ハーモニーを聴く必要がありますし、そのためには音楽の中にいることが必要です。作曲家がどういう音楽を表すのか、どういう音を出したがっているのかを想像することが大切だと思っています。聴くことも音に直結します。聴き方もいろいろとあって、一つの音に集中する聴き方もあれば、全体に広げてボヤっとした中で聴くというのもありだと思います。私は小さい頃は狭く聴くタイプだったのですが、最近は社会の中の自分という感覚に少しずつ慣れてきて、そういう感覚で音程を取る、音楽をとらえるようになってきました。
子どもの頃の記憶に残っているのは練習をしたくなくて、お手洗いの蓋を閉じて、そこで寝ていたことくらい(笑)。とにかくたくさん音楽を聴いていました。クライスラーとかシゲティとか、ユーモアを感じさせるレコードをたくさん聴いていましたし、姉二人もヴァイオリンを習っていましたので、いつも誰かの音が流れている環境でした。それで朝1時間、夜1時間くらい練習していましたが、初めてテン・チルドレンに参加したときに、周りがみんな3時間練習していたのにはびっくりしました。
卒業録音を聴かせていただいて、改めてモーツァルトの素晴らしさを実感しました。生徒さんにとっては、忙しい中での録音でしょうから、楽器に向かう時間を集中させるあまり、その時間がコンパクトになり、音楽も小さなものになりがちかもしれません。ですのでむしろ楽器を持っていない時間に逆のことをやってみたら面白いのではないかしら。楽器なしで、たとえばモーツァルトの協奏曲第4番の出だしはこうしたらどうかなとイメージしてみるとか、ここのフレーズはイマジネーションをどんどん膨らましてみるとか、挑戦してほしいですね。すると、いざ楽器を持ったときに楽器が体の一部になったような感覚になるのではないかと思うので、おすすめです。