関東地区指導者会による新年研究会を
会場からとオンラインとで「ハイブリッド」開催

 

 新年早々に毎年開催している関東地区指導者会主催による2022年新年研究会が、1月10日(月・祝)、国立オリンピック記念青少年総合センター小ホールでの会場開催と、YouTubeによるオンライン生中継の「ハイブリッド」スタイルで開催されました。
 
 冒頭、80代の鈴木鎮一先生の夏期学校での貴重なグループレッスンを収録した動画を鑑賞しました。キラキラ星変奏曲をゆっくりしたテンポでピアノ伴奏される鈴木先生が、次第に速度を上げ、子どもたちのノリノリの演奏は、今見ても素敵なシーンです。
 
 関東地区ヴァイオリン科指導者の藤谷美穂先生の司会進行で、早野龍五会長から新年のビデオメッセージがありました。
 「コロナ禍はもうじき3年目に入ろうとしています。残念ながら、日本でも再び感染者数が増加してきました。今年の全国指導者研究会、そして夏期学校をどのような形で開催するか、大変悩ましいところです。また、2023年春のグランドコンサートを生徒さんたちに安心して参加していただくために、どのようにしたら良いか、いろいろと考えなければなりません。さらに、2023年秋にはスズキの国際指導者会議の日本開催が求められています。それまでに国境を超えた自由な移動ができるようになっていることを祈ります。
 嬉しい話題もありました。マンスリースズキ1月号で紹介されましたように、東京大学の酒井邦嘉先生の研究室とスズキ・メソードの「音楽と脳」に関する最初の共同研究の成果が、イギリスの学術雑誌「大脳皮質」という専門誌に掲載されました。その詳しい内容がマンスリースズキで解説されていますので、ぜひ先生方もご覧いただき、生徒さんにもお知らせください。
  今回の研究によって、スズキ・メソードによってお子さんたちがしっかりと育つことが、脳科学的にきちんと示されました。鈴木鎮一先生もこのような研究成果が出ることを待ち望んでおられたでしょうし、私自身も大変うれしく思っています。研究の第2弾は、関東地区のピアノ科の生徒さんたちにご協力いただきます」
 

佐々木司先生による講演 

佐々木司先生

 そして、関東地区委員会委員長の小林庸男先生と副委員長の印田倫子先生からのご挨拶に続いて、東京大学教育学研究科教授で精神医の佐々木司先生による「 幼児期から思春期までのメンタルヘルスの問題と対応」をテーマにされた講演がありました。
 佐々木先生は、スズキ・メソードの大塚雪子先生のもとでヴァイオリンを学ばれましたが、あまり練習をされなかったお子さんだったそうです。少年時代の写真などを通して自己紹介される中で、ご自身の「習っているけど下手」という思春期の悩みも披露されました。そうした思春期の心理面の特徴を鈴木先生の青年期のエピソードにも触れながら、日本では、精神疾患にかかる人が5人に1人で、その発症のスタートが14歳頃にピークがあること。そして、思春期に楽器を習っていることのメリットは、たくさんあること。目覚め、練習の工夫、学校での立場作り、友だち作り、さらには演奏することでの気持ちの浄化・安定にも役立つこと、などが紹介されました。
 
 

発達障害への対応

続いて、ご専門の発達障害についてのお話もありました。発達障害のお子さんに見られやすい特徴も、実際に発達障害であったアインシュタインやモーツァルトの例を示しながら、わかりやすく説明されました。さらに発達障害のお子さんに対面することもあるレッスンの場面で役立つ対応法も明示されました。

講演の最後に紹介された鈴木先生の言葉

その日のレッスンの時間割をお教室のホワイトボードに書き出したり、宿題をノートに具体的に書くなどの可視化や、パニックやかんしゃくを起こしたときなど実際に即した対応例が紹介されました。会場では、頷かれながら熱心にメモを取られる先生方が多かったのが印象に残りました。
 

司会の藤谷美穂先生からの質問に
答える佐々木司先生

 質疑応答もありました。「子どもたちの睡眠時間が減っています。どのように考えますか?」という問いに、「スマホや学習塾の問題が影響していますね。世界的にみても、 東アジアの大人たちは、 子どもの睡眠時間は7時間で良いと思っている人が多いようですが 、それは間違いです。8時間は寝て欲しいというのが欧米の睡眠の専門家たちの意見です。睡眠時間が短いと、うつや不安のリスクが高くなります。大人も6時間未満の方は改善したほうがいいです」。また、講演の中で紹介されたレッスン中に後ろからあれこれと声をかけるお母さんへの対応についても、「 そうしたお母さんは教育熱心というだけでなく、 こだわりが強い、叱責の衝動と興奮が抑えられない、 場にふさわしい振る舞いがわからないなどの傾向があると思われますが 、これらはいずれも発達障害にみられやすい特徴でもあります。この問題を解決することは、なかなか難しいですが、そうした傾向があることをよく理解して対応されることをおすすめします」とお答えいただきました。その他にも、家庭では話ができるのに、社会不安のためにレッスン時に喋れなくなる場面緘黙(かんもく)の事例についてもお話がありました。

指導者によるアンサンブル

 後半は、指導者たちによるアンサンブル演奏です。舞台には指導歴15年未満の先生方を中心に18名の先生方および研修生と講演を終えたばかりの佐々木司先生が並びました。演奏したのは、鈴木鎮一ヴァイオリン指導曲集副教材「歌の合奏曲」から選曲された次の2曲でした。ヴァイオリン3部にフルート、チェロ、ピアノが加わっての合奏で、2番は会場の先生方も合唱で参加されました。
・アニーローリー
・埴生の宿
 「歌の合奏曲」は、昭和28年の夏期学校で、数百名のヴァイオリン4部合奏と父兄や先生たちの歌声が大きなホール一杯に広がった感動を楽譜にしたものです。原書にはなかった歌詞入りのスコア付で全音楽譜出版社から復刊されています。
→全音楽付出版社のサイト

本当に久しぶりのステージでの合奏となりました

 
 最後に、小林先生からのご挨拶と関東地区新年オンライン研究会の開催に尽力された先生方、そして録画収録・編集作業・オンライン配信を一手に引き受けられていた先生方へのお礼もありました。