早野龍五会長と保護者との
「第1回ネット交流会」を開催しました!

 

 お盆明けの8月20日(土)10時から、早野龍五会長と保護者との第1回ネット交流会が開催されました。最初に事務局より、機関誌の特集記事「おうちお稽古」との連動企画であることがまず伝えられ、ネット交流会が、保護者とのコミュニケーションを築きたいという早野会長の思いから実現したわけです。

 早野会長からは、「参加者77名、事前質問47件、可能な限り質問に答えていきます」との心強いご挨拶から始まりました。
 
 まずは、早野会長の自己紹介から。
 会長になって6年。最近では、サイトウキネンの評議員に就任。国際物理オリンピックの出題委員でもある。STEAM(※)というキーワードが子どもの教育に関わる言葉であり、私自身が、STEAMが育った人間。WebマガジンFruitfulで、「調弦の理科と算数」というタイトルの記事を執筆中。
※)STEAM教育とは、Science(科学)、 Technology(技術)、 Engineering(工学)、Mathematics(数学)を統合的に学習する「STEM教育」に、 さらにArts(芸術)を統合する教育手法のこと。
 
 鈴木鎮一先生と私。
 1950年代半ばに松本に引っ越しました。父の紹介で松本音楽院へ。1日3回ヴァイオリンを練習。親子で真面目に練習。ご飯を食べたら練習するのが日課でした。幼稚園に行かずに、練習していましたね。

 鈴木先生は、よく「下手になるやり方をして下手になり」とおっしゃっていました。「稽古」という漢字は、こう書きます。「稽」には、考えるという意味があります。古のクラシックを考えながら弾くのではないかと。

 1964年の春、海外演奏旅行(第1回テンチルドレン)でアメリカに行きました。小6から中1にかけての大きな経験となりました。
 その後、松本深志高校時代に、サイエンスに向かうか、医学の道に行くか、迷いました。「二重らせん」「物理の散歩道」が愛読書でした。
 医師であった父が人生を変えました。高校3年の秋、どこを受験するか迷っていたときに、「研究者になるなら、医師免許状はいらないんじゃないか」と言われたのです。それで、東大の理3ではなく理1へ。
 今日着ているTシャツは、勝負Tシャツです。仁科記念賞を受賞。これは文学で言えば芥川賞に値するものです。中日文化賞も受賞しました。鈴木先生も1950年に受賞しているので、ご縁を感じます。
 
 6年前に会長になってから。
 スズキ・メソードは非認知能力を高める、と折に触れて話をしてきました。「幼児の教育の経済学」という、ヘックマンが書いた有名な本では、幼児教育こそ投資効果が高いと。育てるのは、学力よりも、非認知能力。非認知能力とは、具体的には、忍耐力、やる気、協調性です。ヘックマンは、やる気を促し、人生の可能性を広げる大切な能力だと定義づけています。それを幼児期に身につけることが大切ですよと。それがOECDでも取り入れられ、日本でも昨今の幼児教育無償化につながってきました。
 鈴木先生は「愛に生きる」で、善良な市民を作りたいと書かれました。そして、スズキ・メソードによって、感受性、規律、忍耐力を発展できると書かれています。これは、先ほどのヘックマン先生と同じ視点。遥か昔に鈴木先生は気づかれ、実践されてきたのです。
 これを継続すること、これを伝えることがスズキでの私の大事なミッションです。
 東京大学との共同研究でも、母語教育の有効性を裏づける成果を出しました。詳細は、マンスリースズキの今年の1月号と6月号に書いてあります。この研究は、引き続き継続していきます。
→マンスリースズキ2022年1月号
→マンスリースズキ2022年6月号
 
 皆様からのご質問に答える前に、幾つかコメントをお伝えします。
・才能教育課程卒業は一生の宝です。
・エリクソンの1万時間の法則(諸説あり)は、ほぼ正しい。
 練習せずに上手になる方法はありません。
 世界でトップに立つ奏者は、1万時間をかけています。
 一つのことに1万時間は、3つのことに3000時間かけるより、価値があります。
・どの子も育つ
 一人ひとり違いますが、鈴木先生は人を見て説かれていました。
 早野家の事例が万人向けではないということです。
・何が向いているかは、なかなかわからない。
 最初は「ご縁」で良いと私は思います。
 私の場合、父の親友がスズキ・メソードの事務局の方だったというご縁がありました。
 
 ここからは、質問タイムです。早野会長を中心に、指導者も参加して、保護者からの質問に答えていきました。
 

  • 大人と子どもでどういう点が異なるか。お稽古で共通するところ、違うところは?

 大人に比べて、子どもの方が練習時間が長いです。あれだけの時間を大人はかけていません。
 母語教育、耳で聴いて育つことは大切。しかし、どこかで年齢とともに学ぶ方法が変わります。年とともに、新たな学び、新たな目標ができてきます。
 

  • 寝ている時も音楽をかけて寝ると上達は早くなりますか。

 1960年代にロシアを中心に睡眠学習が流行りました。今は「寝る」ことの方が大切です。よく寝ましょう。
 

  • お稽古にさく時間のバランスは?

 うちの場合は、ご飯と同じで毎日やりました。食事の後に必ず弾くことを習慣にしていました。子どもは子どもなりにやらないと気持ち悪い。そういうところまで親がしつけること。これが大事です。小さい頃にスズキで身についたことって、今でも続けることができる人間に育っています。いやな時は、楽器を出してしまうだけでもいい。とにかく毎日。もちろん、毎日が平和ではありません。母との喧嘩も、闘いもありました。
 

  • お稽古は、朝の方がいいでしょうか?

 これは、思春期以降のお子さんには、学術的に進化があったことです。朝方の体内時計の人と、夜型の体内時計の人がいることがわかっています。思春期以降に、体内時計が動いていない人がいることがわかってきました。
 

  • モチベーションをどう維持したらいいでしょうか

 子どもの状況によって、臨機応変にやることがいいでしょう。鈴木先生のレッスンでも5分の時もあれば、1時間の時もありました。状況をよく見てあげることです。
 

  • 今後、才能教育研究会として取り組みたいことはなんですか?

 私は指導者でないし、どこかで次の方に引き継いでいく必要があります。より良い会の仕組み、若い指導者を育てる仕組みなどを作っていき、今後50年でもこの研究会が続くようにすることが、私のミッションです。
 

  • 練習したくない時、嫌になったらどうしますか

 私も嫌で仕方なかった子どもでした。やはり1日の中で習慣づけることが大切。生活の中に入れ込むことです。腹八分という言葉がありますように、ちょっと足らないくらいで、「上手だったね」と声掛けすることで、次につながると思います。
 

  • 子どもが別のことに集中しているときのお稽古への誘い方は?

やはり習慣にすることが大切。お稽古をやらないと、自分が気持ち悪くなるように持っていくといいでしょう。
 

  • 受験と楽器の両立は可能でしょうか

 私は東京大学を受験をする頃には、鈴木先生のところに通っていません。それは、自分は音楽よりも他にやりたいことがあると強く思ったからです。だから、両立しない子どもでした。がっかりさせて申し訳ありませんが、私はそうでした。先生方によると、両立されるお子さんが多いとも聞きますし、ちょっとお休みしてから再開するというお子さんもいます。自分の1万時間をどう使うか、それが判断できる年齢になっていると思います。
 

  • テン・チルドレンツアー(海外演奏旅行)での印象深い思い出は?

 ケネディ大統領が暗殺された4ヵ月後の頃です。日本との国力が圧倒的に違いました。ホームステイのホストの家族は、どこもちゃんとしていました。食事の時に、お父さんがお祈りをする、それから食事をする家庭ばかりでした。いずれ、この国に戻ってきたいと思いました。その10年後、西海岸の地に降り立ったわけです。
 
・スズキ・メソードを学んでよかったことは?
 テン・チルドレンに選んでもらったこと。これに加わることができたことは1番の思い出です。この質問は何度も聞かれます。いわゆる非認知能力は、鈴木先生のもとで育ったことを会長になって、振り返るとそれが一番大きかったと思いますね。
 
夏期学校の対面を楽しみにしていましたので、残念でした。
 1週間前に、安心して受け入れることができないと判断し、本会として大きな決定をしました。あらゆる決定が私のところにきて、今回の決定も最終的には私がし、すべてのクレームは私が受ける、ということにしました。皆さんに申し込みを1週間の間でやり直していただくというご協力をいただきました。来年こそは、松本の街を歩くお子さんたちの姿を見ることを願っています。今年の決断は、正しい判断だったと思っています。
 
子どもが自立して練習するようにするにはどうしたらいいですか。そして、よりよくするにはどうしたらいいですか。
 1曲間違えなく弾けること、これが絶対必要で、そこから鈴木先生の音のお稽古が始まりました。
 どうやって自立していくか、まずはいいお手本をたくさん聴かせることです。そして部分練習の習慣がつくように、ご家庭でそういう習慣をつけていただくことです。他の人の演奏を聴くことも、大きな刺激になります。
 

前向きになる意欲の種は、どこにありますか?

一緒にお答えいただいた
末廣悦子先生
永田香代野先生
上杉亮子先生


 競争ではなく、憧れを持たせること。これが大切です。
 
楽しく練習するにはどうしたらいいか?
 長時間の練習は、時として正しくないと思います。私も毎日楽しかったわけではありません。
 「できた!」という実感を持たせてください。それが喜びになり、他のことに連動できるようになります。コツコツやれば、必ずできるというのが身を持って体験したこと。必ず結果は出ます。
 
スズキ・メソードの昔と今のお稽古、時代とともに変化はありますか
 根本は変わりありません。こちらがきちんと準備していると、楽しいお稽古になります。楽しくなるまでやってほしい、ということです。きちっとできたら楽しい。できないことは楽しくありません。
 卒業制度は、遠い目標ではなくて、ちょっとステップ先のところにいずれできる目標がある、この仕組み自体は、革新的です。
 
暗譜な苦手な子に、何かアドバイスを?
 なぜ暗譜できないかというと、やはり練習量です。やればやっただけのことはあります。「この曲を聴いていますか」と聞くと、週に1回の場合があります。やはり耳からくことを毎日のように続けることです。
 
前の曲をやりたがらないので、困っています。
 グループレッスンは、まさにそれのいい場所です。みんなで一緒に弾くのは、喜びにもなります。グループレッスンを十分に活用してほしいと思います。
 
スズキ・メソードのIT化が進み始めているように感じます。これのご苦労などは?
 IT化は、会長になった6年前の翌日から着手した事業の一つです。情報システム部の責任者に会長室に来てもらって、現状、将来のことを聞くことから始めました。私自身、物理学者でコンピュータに関しては関心がありましたので、ここを近代化しないと持たないと考えました。ここ3年くらいで精力的にやってきました。大きなチャレンジでしたし、たくさんの意見もありましたが。やってきてよかったと思います。
 
継続させるためにはどうしたら?
 親御さん自身が継続させるための願いを持っていれば、十分可能です。
 
音楽と数学に何か通じるところはありますか?
 必ずしもないかもしれません。サイエンスとアートの両方を学んでいくお子さんが増えている今の状況は、大切なことです。私自身は、両方に強いお子さんが育つことを願っています。
 
自ら進んで練習しましたか?
 基本的にはしました。習慣でしたが、母とは闘いもありました。
 
別の部屋で練習をするようになりました。どうしたらいいでしょう?
 中学生くらいになると、逆に自分で練習できないと困ります。その日の練習の最初か最後に「一度だけ聴かせてね」という声かけはどうでしょう。最初に聴いて、アドバイスをすることも効果があります。
 
効果的におうちのお稽古を楽しくする方法は? 下の兄弟へのアプローチは?
 ぜひ、習慣づけをしてほしいですね。朝の時間、夜の時間、どこでもいいので時間を決めて生活の一部にしていくことで、楽しくなるんじゃないかと思います。
 下のお子さんが一緒に歌うようになるといいですね。そのためには、上の子のお稽古で一緒にお母さんが歌うといいでしょう。
 
部分練習をしません!どうしたら?
 間違えずに今日は10 回をやる、間違えたら最初に戻るというお稽古をよくしました。本人の達成感もあるし、周りも喜びになります。
 
スズキ・メソードで大切にしていることはなんでしょう?
 どこかの段階で、次の1万時間を何に使うか、それを探す日がきます。中途半端に、何かを1000時間やって、次のことを1000時間やっても意味がありません。子どもが自ら考える段階が来ることが大切。それがその後の人生の非認知能力につながります。
 
自分の音色を気にするのはどんな声かけをしたらいいでしょう?
 今なら、スマホで録音、録画して、自分の演奏を聴くことです。それをお手本と比較することで、気づくと思います。
 
以上で、すべての質問にお答えしました。

今日は第1回でした。今後、本日の皆様からのフィードバックを拝見しながら、第2回以降を考えていこうと思います。皆様と本会が少しでも近づくことができるよう、これからも開催していきます。ありがとうございました。