八ヶ岳高原音楽堂でのユニークな講演会
『木彫りの熊さんと徳川さん』

 

 9月18日(日)、八ヶ岳高原音楽堂で開催された「講演会〜木彫りの熊さんと徳川さん」は、鈴木鎮一先生が終生お世話になった徳川義親侯爵に関するもの。さらに同会場は竹澤恭子先生の圧倒的な音に包まれ、緑の景色が見える中、心地よい空間となりました。
 
 標高1,500mに位置するこの場所は、残暑の蒸し暑い東京からクルマで駆けつけた身にとっては、羽織るものが欲しくなるほどの別天地。甲府あたりでの豪雨のシャワーも嘘のように、静かな佇まいにあり、おりしも「八ヶ岳森祭」が開かれていました。
 
 では、順に紹介しましょう。まずは、13時開演の講演会です。講演テーマは『 木彫りの熊さんと徳川さん』。この徳川さんというのは、尾張徳川家第19代当主の徳川義親侯爵のことで、鈴木鎮一先生は青年時代から大変親しくされました。木彫りの熊は、北海道名産品としてよく知られていますが、義親侯爵が世界旅行でスイスから持ち帰ったぺザントアート(農村芸術)をヒントに、しばしば訪れていた北海道八雲町での農閑期の町おこしにと考案されたものです。

八雲町学芸員の大谷茂之さん

 講演された八雲町学芸員の大谷(おおや)茂之さんによると、義親公爵は、実際、冬眠中の熊の生態を調べるため、そしてアイヌ文化についても記録するために、しばしば八雲町を訪れ、熊狩りをしました。20回の熊狩りで、8回しとめたという記録も残っているそうです。そして、この木彫りの熊は、アイヌ文化、尾張徳川家というコラボにより、大変な人気を博しました。

八ヶ岳高原ヒュッテ

 そもそも、八ヶ岳高原音楽堂敷地内にあり、現在はウェディング会場としても運営されている八ヶ岳高原ヒュッテは、1934年、東京目白に

講演中の大谷様

義親侯爵が建てた御用邸を、1968年、現在の地に移築したものであること。その際にはトラック60台が稼働し、元の3階建てを2階建てに変更したものの、チューダー様式をそのままに、格調の高さを残しているといいます。実際、ヒュッテ内に足を踏み入れると、至る所に木彫りの熊が形を変えて展示され、往時の義親侯爵の息吹を伝えていましたし、そのダイナミックなデフォルメと大胆な彫り方は、今に生きる我々にも新鮮で、とても目をひきました。

 昭和10年代の第1次ブーム、そして昭和30年代の第2次ブームに次いで、平成末期のアレンジを経て、現代は第3次ブームの到来だそうです。北海道らしい工芸品・美術品として人気の再来となり、各地での展示活動も活発です。講演の最後には、東京903回(くまさんかい)やBeams Japanの活動も紹介されていました。
東京903回
Beams Japan
 
 講演終了後に、ご来場されていた尾張徳川家第22代当主、徳川義崇(よしたか)様からいただいたメッセージを紹介しましょう。
「曽祖父の義親さんが今日のような講演を見たら、どんなに驚くかと思いますね。こうして熱心に広めてくださること、大変嬉しく思います」


 そして、1時間ほどのインターミッションの後、スズキ・メソードのヴァイオリン特別講師でもある竹澤恭子先生のヴァイオリンリサイタルが、同じ会場で始まりました。徳川義親侯爵→鈴木鎮一先生とつながり、竹澤恭子先生の演奏につながるという企画、大河物語のようなストーリーを感じさせます。
 
八ヶ岳高原サロンコンサート

大変な熱演が繰り広げられた竹澤先生のリサイタル

八ヶ岳高原ヒュッテ(旧徳川義親邸)
『木彫りの熊さんと徳川さん』関連講演

竹澤恭子ヴァイオリン・リサイタル

2022年9月18日(日)15:30開演
共演:加藤洋之(ピアノ)
プログラム
・バッハ:ヴァイオリンとハープシコードのためのソナタ 第4番 ハ短調BWV1017
・ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ 第1番 ト短調 Op.78「雨の歌」

・ブロッホ:ニーグン

尾張徳川家第22代当主の徳川義崇(よしたか)
様も来場されていました

・サン=サーンス:ヴァイオリン・ソナタ 第1番 Op.75
(アンコール)
・ドビュッシー:美しい夕暮れ
・シューベルト:アルペジョーネ・ソナタより第2楽章アダージョ
 
 いずれも聴衆を魅了する圧倒的なパフォーマンスの連続。精緻でありつつも温もりのあるバッハ、懐かしさも感じさせたブラームス、感性豊かな、自由な表現に包まれたブロッホ、無窮動の超絶技巧で息も切らせぬ勢いで集結するサン=サーンス、さらにはアンコールの2曲で場面転換鮮やかに、ヴァイオリン音楽の真髄をとことん聴かせていただきました。
 
 「今日は、エクササイズの後のように、ちょっと息が途切れるくらいに、時代も曲想も違う作品を聴いていただきました。鈴木鎮一先生の音作りのご指導を受けてきて、今があります。ご講演の内容は、初めて知るものでしたので、とても興味深く聞きました」と竹澤先生。ピアニストの加藤洋之さんも「「八ヶ岳が好きで、よく山登りに来ますが、今日のプログラムは八ヶ岳の四季を感じさせるくらい、色とりどりの曲が並びました。ご堪能いただけたと思います」


 
「竹澤恭子リサイタル&プレイインコンサート」のお知らせ
来たる10月9日に東海地区の主催で「竹澤恭子リサイタル&プレイインコンサート」を開催いたします。本会ヴァイオリン科特別講師の竹澤恭子先生をお招きして、リサイタルと東海地区の子どもたちへ簡単なレッスンをお願いしました。
 
10月9日(日)12時30分開演
三井住友海上しらかわホール(名古屋)
13時〜 竹澤恭子先生ヴァイオリン・リサイタル
      ・ベラチーニ:ソナタ
      ・サラサーテ:カルメン幻想曲
14時〜 プレイインコンサート
       子どもたちが先生と一緒に舞台で演奏します。