2025年7月6日(日)に開催された「第6回保護者とのオンライン交流会」の様子です。
日曜日の午前中、東 誠三会長からいろいろとお話をいただきました。

 

第6回保護者とのオンライン交流会
「愛に生きる」から

 

東会長 皆様、ようこそ第6回保護者とのオンライン交流会においでいただきまして、ありがとうございます。本日取り上げます鈴木鎮一先生の著書「愛に生きる」は、1966年に初版が発行されました。 発行元の講談社現代新書編集部によれば、発売以来59年間の間に、100回版を重ねてきたことが、先日のマンスリースズキや機関誌で報道されました。約60年間、一度も途絶えることなく版を重ね、販売され続けている本というのはそうたくさんあるものではありません。100刷重ねた本が、講談社現代新書の中に何タイトルかあるようです(写真参照)。そのリストの中に「愛に生きる」が入っています。スズキ・メソードの中でだけではなくて、広く教育の世界で、この本が果たしている役割というのはとても大きなものがあるということを私も客観的に知ることになり、心強いですし、鈴木先生が残された考え方が広くたくさんの方に受け入れられていることがこのように客観的に確認できたことで私もとても嬉しく思っております。

 私自身、この本を2回、3回と読み返し、部分的にも何度も読み直していきますと、鈴木先生のおっしゃっていることが、また違った意味で理解できるようになります。社会状況、人々の考え方にあわせてこの内容を現代に合わせてバージョンアップしていきますと、また違った見方もできる新しいアイディアも浮かんでくるのではないかなと思います。そこで、今日は86ページをご覧いただけますでしょうか。ちなみに電子版の「愛に生きる」ですと、私自身も購入して確かめたのですが、74ページになります。
 
 第3章「非凡への道」の3つ目の項目「くり返し、くり返せ」です。忍びの者の高飛びの術というサブタイトルがついておりますね。「非凡とは何か」平凡ではないことです。平凡ではないことでも、非凡と平凡の差はものすごく大きいものではないですね。平凡から始まって、平凡をわずかに超えたところから非凡ということが始まる。字面だけ比べるとそこには大きな差があるような印象も得てしまうかもしれませんが、今日よりほんの少し、もしくは今現在よりもほんの僅かできることが増えただけで非凡への道です。ですので、どんな小さなことでも実行することに非常に意義があります。 これを自分の能力の開発、これも割と立派な響きがする言葉だと思いますが、能力の開発、これも様々です。例えば鉛筆が持てるようになる。その鉛筆で何か丸が書けるようになる、バツが書けるようになる。立派な能力の開発です。 スマホで新しいアプリを探して、インストールして開けてみる、これもすでに能力の開発です。

 鈴木先生は、忍術の「高飛びの術」の修行法として、毎日育つ麻の上を飛び越えるという話を例にされましたが、これは、一見すると奇抜ですが、日々努力することの大切さを象徴しています。麻は成長が速いものの、毎日見ていると変化が気づきにくい。それでもその上を毎日飛んでいれば、自然と自分の跳躍力も伸びていく。これは人間の成長にも通じる話です。
 
 人も、日々接していると変化に気づきにくいですが、久しぶりに会うと驚くほど成長していることがあります。教室を離れていた生徒が数年ぶりに訪れると、ずいぶん変わって見えることがあるのと同じです。つまり、成長とは少しずつ、見えにくい形で積み重なっていくものです。
 
 植物では竹の成長は目に見えるほど早いですが、人はそうではありません。しかし、人間も毎日繰り返すことで、無意識のうちに力がついてくる。それを証明するのが、言葉の習得です。意味も目的もわからず始めた言葉の真似が、やがて自由に話せる非凡な技となります。
 
 鈴木先生は、自然な成長の流れに、意思の力を加えることで学びを深めようとされた方です。私たちが無意識に行なっている動作──例えば、箸を使う、歩くなど──も、実は習得された能力であり、「能力が育っていれば、物事は易しく感じられるようになる」という言葉が、ここでの核心になります。毎日少しずつでも続けることで、知らず知らずのうちに力が育っているということ。結果として、かつては難しかったことが、あるとき自然に「易しく」感じられるようになるのです。さらに言えば、日常生活の能力と楽器演奏の能力に本質的な違いがないことを、鈴木先生は指摘されています。
 
 私たちが「できるようになった」と感じる瞬間は、その能力を本当に身につけたときです。何回やったかではなく、自分の中で「少し楽になった」「わかった気がする」という感覚が、その証拠です。経験豊富な先生たちは、そうした変化を見つけるのがとても上手です。
 
 成長って、麻が1日にほんの数ミリずつ伸びるようなもの。目には見えにくいけど、確かに育っています。音楽でも、たとえば「キラキラ星」が弾けるようになった、今日は2つの音が弾けた──それだけでも、大きな進歩です。
 
 子どもたちは、自分の成長にあまり気づかないこともあります。だからこそ、周りの大人が「今、前より楽にできているね」と声をかけてあげることが大事です。そうして、「感じる力」も一緒に育てていきます。
 
 長く続けている人でも、難しい曲に取り組むときは、「少しずつ楽になる感覚」を感じながら練習しています。ただ、長年の経験がある分、「優しく感じる」範囲が少し広くなっているかもしれません。
 
 「できるようになる」ことの本質は、頭の中での情報処理が、だんだん速く・確かになるということ。地図のルートを覚えるように、少しずつ道筋がわかってきます。この道を歩くには、先生や保護者のサポートが必要です。でも、急いで草や竹を引っ張っても、成長を早めることはできません。時には手を出しすぎず、太陽や水に任せることも大切です。子どもは、麻や竹のようにデリケート。無理に伸ばそうとしても逆効果になることがあります。だからこそ、子どもの変化をよく見て、「引っ張る」のではなく、「支える」姿勢が必要です。
 
 そして、難しいことに挑戦するのも、人間の自然な欲求の一つです。「できた!」という喜びは、美味しいものを食べたときと同じくらい嬉しいもの。だから、焦らず、少しずつ進めていくこと。それが人を育てるということなのだと思います。
 


 それでは、質問に答えるコーナーです。
 今回は、次の質問が事前に届いています。
 
Q1:2026年3月にグランドコンサートがあると伺っております。曲が進むごとにだんだんと難しくなるヴァイオリンの練習から逃げようとしてしまう娘と、親の私もですが、コンサートをモチベーションに繋げたいです。ぐらんどこんさーとについていろいろと教えてください。
 

2018年開催のグランドコンサート(両国・国技館)

東会長:15年ほど前までは、グランドコンサートは毎年のように行なわれていました。大変大規模なコンサートで、30年くらい前の出演者が多い時は3,000人に及んだ時もありました。日本武道館のが見えないくらい、子どもたちで埋め尽くされていました。今、マンスリースズキで過去のグランドコンサートの歴史が毎月紹介されていますので、その雰囲気を味わえると思います。
 私自身、かつてはヴァイオリン科の生徒でもありましたので、2回くらい、ヴァイオリンで参加しました。最大のメリットは、300人とか500人、1,000人という大規模な大合奏に参加できることです。その音の響き、壮大なエネルギーのなかに自分の身を置ける体験ですね。これはほかでは味わえないことです。この体験が得られることが、グランドコンサートの大きな魅力です。
 曲が進むと難しくなりますが、先ほど申し上げたようにやり続けて来たことは必ず積み重なってきています。能力も育ってきているのです。簡単に思える部分も少しずつですが、広がってきています。ですので、グランドコンサートへ参加することで得られる想像を絶した体験、これを是非味わってほしいと思います。
 
Q2:お稽古を始めるよ、という時に子どもがやりたくない、ということに、前向きな声掛けについて悩んでいます。(母もヴァイオリンを購入し、一緒に学んでいます)遊ぶことを優先したいタイミングなのだろうと思って、本人の気持ちが向くのを待っていますが、来る時もあれば、結局来ない日もあります。今は私が仕事をしておらず、ある程度時間に融通がきくのですが、今後私が仕事を始めるとそれも難しくなり、さっと切り替えたり、時間で行動してくれないとお稽古ができないな、と悩んでいます。
 
東会長:この状況は、本当にもと思いますし、察することができますね。お母様としても最大限の努力でこの状況に真正面から取り組んで対処してくださってるということがよく伝わってくるご質問ですね。ですので、100%これをやれば絶対それは解決されるだろうというお答えは私もできないですが、保護者の立場からすると、やはりご自分のメンタルを壊さないことですね。まず一番大切なそこが壊れてしまうと、悪い方向へばかり進みますので、ご自分のメンタルを壊されないことです。 逆に、お母様が好きな曲をヴァイオリンで弾かれるとか、お母様がスズキの曲のCDの中で好きなものを見つけられて、それをBGMとして聴いてみられるとか、、お母様自身が楽しまれている様子を見せるというのもあると思います。お子さんをお稽古にどう向かわせられるか、私たちにとっても本当に長年の課題ですが、これからもいろいろと皆さんのアイデアをいただきながら、研究したいですね。
 
Q3:東会長の好きな作曲家は誰ですか?
 
東会長:私自身、ピアニストですので、やはりショパンは外せません。いろいろなことを考えると、やっぱりモーツァルト、ベートーヴェンも大好きですね。 それから私はフランスの音楽が好きなので、ドビュッシーやラヴェル、これも大好きです。実のところ、作曲家による好き嫌いは、ほとんどないです。好きな度合いが多少違うかな、それだけです。 スズキの指導曲集に載っている曲は、本当に素晴らしい曲ばかりです。心を通わせながら付き合っていただければと思います。それをまた何回も繰り返していくとだんだんお友だちとも言える曲が増えてきます。
 
Q4:住宅環境の問題上、家では電子ピアノで練習しております。電子ピアノで練習する際、気をつけておくこと、ほかに何か指を鍛えるためにできることなど、教えていただけますでしょうか。
 
東会長:ご存知のように楽器には新品もあれば中古品も流通している状況ですが、電子ピアノの中でも性能は千差万別ですので、できるだけ良い性能のものを求めていただければと思います。当然良い性能のものというのは世の中ではお値段の方もそれに比例して高くなっていきますが、中古品の中でも「展示品」を探してみるというのもアイデアとしてあります。時々楽器店のフェアなんかをこまめに覗いていくと、型落ちといいますか、2年、3年ごとに性能が更新されていきますので、ちょっと前の時代の良い性能の楽器がそれなりに値段が下がって販売されることがあります。
 要点は一つだけです。 音を変化させられる機能が、手や指の力でといいますか、かける力によって音を変化させられる機能がどの程度備わってるかということなんですね。それがやはり上位機種はアコースティックピアノのように、その力加減によって音が変えられますが、その性能はお値段が下がるにつれて減っていきます。 いろいろな音色が出せる機能は、我々の教育の内容からするとそれはもう完全にオプションなので、その点は別に最低限のものが付いていればいいですね。
 
以上で終了です。夏期学校でも、東会長と保護者の交流会を対面開催する予定です。