大谷康子さんのシリーズコンサート「ヴァイオリン賛歌」第9回〈未来〉
子どもたちの未来の幸せを願ったコンサートでした!
そんなことを微塵も感じさせず、コンサートが始まりました。プログラムの1番目に用意されたのが、スズキの子どもたちとの「キラキラ星変奏曲」でした。子どもたちはリハーサルで確認されたようにステージに並び、堂々と演奏。大谷さんから「今日はサプライズで登場いただきました。皆さんのお名前を紹介しましょう」と、一人ひとりをフルネームで紹介。それぞれ大きな拍手をいただきました。
「音楽はなんのためにあるのか、を50年間ずっと考えてきました。第9回を迎えたヴァイオリン賛歌では、〈未来〉と題し、未来を音楽でもっと明るくしたい思いから、スズキのお子さんたちに登場いただきました。この子どもたちが10年後には、大人になり、未来を作っていきます。そこで、今日は、子どものための曲や教育的な価値のある作品を中心に構成しました」と大谷さん。その第1曲目が「キラキラ星変奏曲」だったわけです。
そして、7歳のモーツァルトが作曲した「ヴァイオリン・ソナタ第2番K.7」。大谷さんはテレビでもお馴染みの巧みなトークで、演奏曲を演奏前に紹介。「7歳にも関わらず、作品の深みある構成、和声の移り変わりなどが素晴らしいです。それらは下書きがなく、一気に書かれました」。大谷さんの紹介により、曲のイメージが実際の演奏とともに倍加するようです。
続いて、チャイコフスキーの「子供のアルバム」から7曲を抜粋、さらに「四季」より「10月秋の歌」、よく知られる佳曲「感傷的なワルツ」が一気に演奏されました。大谷さんは「『四季の秋の歌』が、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の第2楽章に似ているように思います。調べてみたら、作曲されたのが2年違いなんだそうです」と興味深い紹介もありました。そうやって聴いてみると、確かに頷けるメロディでした。
前半の最後がドヴォルザークの「ソナチネ」。作品番号をキリのいい100とし、「私の小さな子どもたちへ」と印刷譜に書かれた献辞にもあるように、ドヴォルザークの6人の子どもを持つ父親としての慈愛に溢れたような作品で、大谷さんのヴァイオリン、佐藤卓史さんのピアノがその美しさ、愛らしさを見事に表現されていました。
そして休憩です。大谷さんはこの時間中にもさっそくロビーでお客様から「子どもたちの姿に本当に感激、そして感動しました」というお声をヒアリング。後半の冒頭で大谷さんご自身の速報に、会場もどっと湧いていました。そして、テクニック偏重ではなく、心を重視した演奏の大切さについても言及されました。
後半の演奏は、指番号やポルタメントの指示のあるイザイ「子どもの夢」で甘美な夢想感を表現、アラール「椿姫ファンタジー」より「乾杯の歌」を明るい未来と子どもたちの平和・幸福を願う象徴として演奏されるなど、これからの明るい未来を願う曲が続きました。最後は、ライプツィヒ出身のチェリストで作曲家のクレンゲルが作曲した名曲「ヒムニス(讃歌)」を大谷さんに師事されている若いヴァイオリニストたち12名によるヴァイオリンアンサンブルが披露されました。この曲は、ベルリン・フィル12人のチェリストたちが1972年の結成当時から定番曲として演奏を続けてきた曲で、今では日本国内のアマチュアチェリストたちも、チェロアンサンブルの醍醐味を味わえる曲としてよく演奏する曲です。この名曲に触発された大谷さんはデビュー50周年記念のために萩森英明さんに12人のヴァイオリン用に編曲を委嘱。2025年1月10日のサントリーホールでのデビュー50周年記念特別演奏会で初披露されました。今回、あらためて再演されたことになります。この曲のサビの部分を大谷さんが中央で独奏される特別バージョンとなっていて、チェロアンサンブルとは違った、素敵な趣ある作品となっていました。そして、アンコールが、ドヴォルザークの「我が母の教え給いし歌」。父としての思いが込められた前半の「ソナチネ」に呼応するかのように、母への思いでコンサートを締め括られたことになり、その選曲の妙に感心した次第です。
全体を通して、「子どもたちがどのような感性を持って育っていくか、それにより世界が変わると思っています」という大谷さんの強い思いのこもった今回のコンサート。「音楽の力で人々が必ず仲良く繋がれる」と信ずる大谷さんの願いは、聴衆にも見事に伝わっていました。共演したスズキの子どもたち、そして保護者の皆様から、マンスリースズキ編集部にメッセージが届きましたので、紹介しましょう。
大谷康子さんと共演して
演奏は優雅で芸術的な雰囲気にあふれ、でも同時にとても親しみやすく、子どもたち一人ひとりに笑顔でアイコンタクトをしてくださる姿がとても印象的でした。音楽会は大成功で、観客の心を温かく包み込むような素晴らしい時間でした。娘にとっても、忘れられない貴重な経験になったと思います。このような素敵な機会をくださった印田先生に、心から感謝申し上げます。
最後に、大谷康子さんの最新情報です。
①BSテレ東の人気番組「おんがく交差点」が放送500回目前!
毎週土曜の朝8時から、BSテレ東で放送の「おんがく交差点」は、大谷康子さんと春風亭小朝さんの司会で、毎回、様々なアーティストが登場。音楽の楽しい交換風景が繰り広げられています。11月15日(土)放送で500回を迎えます。
→「おんがくの交差点」公式サイト
②11月27日(木)大阪交響楽団とチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲!
「50年の軌跡」と題された大阪交響楽団の第284回定期演奏会に、デビュー50周年となる大谷康子さんが招かれ、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を演奏されます。会場は、ザ・シンフォニーホールです。
→大阪交響楽団第284回 定期演奏会
③12月13日(土)東京交響楽団とマルサリスのヴァイオリン協奏曲!
東京交響楽団名誉コンサートマスターの大谷康子さんが、サントリーホール大ホールを舞台に、ジャズ・トランペットの巨匠、ウィンストン・マルサリスが作曲したヴァイオリン協奏曲で、さらなる新境地を開きます。
→東京交響楽団第737回 定期演奏会
④東急ジルベスターコンサート2025-2026のカウントダウンに出演!
12月31日の大晦日の夜、23時30分からのBunkamuraオーチャードホールで開催されている「東急ジルベスターコンサート」に大谷康子さんも出演。指揮の沖澤のどかさん、ピアニストの亀井聖矢さん、チェリストの水野優也さんらも出演し、カウントダウンに参加されます。ちなみに今年のカウントダウンナンバーは、2025年が生誕150周年だったラヴェルの「ボレロ」です。もりあがりますね。どうぞお楽しみに!
→「東急ジルベスターコンサート2025-2026」公式サイト
⑤新年1月31日(土)東京都交響楽団とメンデルスゾーン、萩森英明のヴァイオリン協奏曲!
名曲メンデルスゾーンの協奏曲と、2025年1月の初演以降、再演を望む声が多く寄せられているヴァイオリン協奏曲「未来への讃歌」を民族楽器のエキスパートたちとともに、練馬文化センター大ホールで歌い上げます。
→練馬文化センター公式サイト
⑥音楽の友社が「ヒムニス(讃歌)」オンデマンド版楽譜を販売中
大谷康子さんが演奏されたヴァイオリン合奏編曲版の「ヒムニス」が音楽の友社から販売されています。
→音楽の友社サイト
⑦大谷康子さんの著書「ヴァイオリニスト、今日も走る!」は、Amazonで
大谷康子さんが語る、音楽を通して出会った名演奏家、名指揮者、名オーケストラとの秘話や、指導者としての心がけ。そして、東日本大震災で救助に来てくれた約30カ国の代表を招いたチャリティコンサートや、病院の慰問や学校での演奏教室など、「音楽を届けることで世界をひとつにしたい」という夢をずっと追いかけている生き方を紹介。あきらめずに、「そのときしていることを楽しむ」ことから生きる喜びが生まれるという、人間&音楽賛歌が全ページに貫かれています。
→アマゾンサイト
⑧大谷康子さん公式サイト
→公式サイト