鈴木鎮一記念館 開設30周年記念 新春コンサート
時節よろしく、本会創立80周年、記念館開設30周年の節目の年のスタートを祝う新春コンサートです。お二人から、マンスリースズキの読者の皆様向けに、メッセージをいただきましたので、ご紹介しましょう。
皆さま、明けましておめでとうございます!
このたび、鈴木鎮一記念館に於きまして、ヴァイオリニストの河西絢子さんとコンサートを行なうことになりました。河西さんはスズキ・メソードで育たれ、現在はドイツの名門オーケストラであるフランクフルト放送交響楽団で活躍しておられます。当日は、ヴァイオリンとピアノが丁々発止で渡り合うベートーヴェンとプーランクのソナタ、およびヴァイオリンならではの美しい旋律や生き生きと躍動する音色が楽しめる名曲の数々をご用意して皆様をお待ちしております。またご来場いただけない方のために、ライブ配信も予定しておりますので、こちらもぜひお楽しみください。
今年一年が皆さまにとって素晴らしい年になりますよう、心よりお祈りしております。
皆さま、明けましておめでとうございます。
今回は長年夢見ていた東 誠三(先生)会長とのコンサートを鈴木鎮一記念館で行ないます。幼い頃から東 誠三(先生)会長の音楽に真摯に向き合う姿,美しく透き通った音色にとても感動していたのをよく覚えております。その姿を拝見し、母にはよく『東先生といつか共演したい!』と話しておりました。まさかそんな日が来るなんて幼い頃の私が聞いたら本当に驚きます。
日本での演奏活動を経て、2018年より現在ドイツで活動している私ですが、日本の環境とは異なる経験で学びの多い時間を通して凄く成長させていただいております。
そんな自分にとってご褒美のような機会を今回いただけたことに本当に皆様に感謝いたします。楽しんでいただけるよう精一杯心を込めて演奏します。ライブ配信でもぜひお楽しみください。
2026年が皆様にとって素敵な一年になりますように。
当日の様子をオンライン配信でご覧いただけます。
記念館は収容スペースに限りがあり、今から「垂涎の幻のコンサート」となりそうですが、スズキ・メソード広報配信チームの「こんな貴重なコンサートはもっと多くの聴衆にお届けしたい」という意気込みから、奏者のご了承をいただき、当日の同時配信やアーカイブ配信をします。 以下の配信サイトからの映像をお楽しみください。
→配信リンク
お二人による曲目解説を下記からご覧ください。
プログラムノート
L.v.ベートーヴェン(1770-1827):ロマンス ヘ長調 Op.50
今回のコンサートの最初に演奏するこの曲は、ベートーヴェンが28歳頃の1798年に作曲した作品です。もともとはヴァイオリンと管弦楽のために書かれましたが、現在ではピアノ伴奏でも演奏されることが多くなっています。
この頃のベートーヴェンはウィーンで多くのソプラノ歌手と交流し、さらにサリエリから声楽曲の作曲法も学んでいました。その影響で、この8分ほどの短い曲にも歌曲のような旋律やドラマティックな場面が豊富に盛り込まれています。もしソプラノ歌手が歌ったら、より美しく物語が感じられることでしょう。
二曲目に演奏する「ヴァイオリンソナタ第1番」とほぼ同時期に作られており、作風の違いを比べて聴くのも面白いポイントです。(河西)
今回のコンサートは、ヴァイオリンのための名曲として名高いこの曲から始まります。ヴァイオリンという楽器の音色の美しさ、良さを十二分に味わうことのできる冒頭の旋律が素晴らしいです。程よい長さと、誰が聴いてもわかりやすいストーリー展開になっているところもこの曲の大きな魅力と言えます。
どうぞ心ゆくまでヴァイオリンの美しい音色をお楽しみください。(東)
L.v.ベートーヴェン(1770-1827):ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第1番 ニ長調 Op.12-1
この曲は1797–98年頃に作曲されました。1792年にウィーンに渡ったベートーヴェンは、当時にしては独創的な作風と高い演奏技術で、あっという間に貴族や上流階級からの評判を呼びました。
彼はこの頃、自分の信念に反しない限り、他人の目を気にせずに表現できるようになっていました。幼少期に家族のために家計を支えた経験を経て、故郷のボンから羽ばたき、ウィーンで自分の成長や発展を実感したことで、内面から湧き出る力を自由に表現できるようになった、と言われています。
ベートーヴェンは型にとらわれない演奏や作曲を好み、即興も得意でした。それは、音楽の表現力を最大限に引き出すために、自ら形式や技法を探求していた結果でもあります。
ヴァイオリンソナタ第1番では、冒頭から強いインパクトがあり、展開部や動機の操作に独自の構造が見て取れます。特に第2楽章では、さまざまなバリエーションが分かりやすく展開されており、当時としては新しい作風だったと言えるでしょう。
ベートーヴェンは常に新しい技法や音色を模索していました。私自身も、この作品のさまざまなキャラクターや個性ある音色を追求して演奏したいと思います。(河西)
ベートーヴェンはピアノとヴァイオリンのためのソナタを57年の生涯のうちに10曲書いています。その中でなんと言っても有名なのは第5番「春」ですが、他のどの曲を取っても、ヴァイオリンの様々な魅力ある表現を引き出しているとともに、ピアノとがっぷり四つに組んで、ある時は活気と緊張感あるやり取りが、そしてある時は愛情と親しみが溢れる会話のような音楽が奏でられていきます。
このようなスタイルでピアノと他の楽器のためのソナタを書いたのは、おそらくベートーヴェンが初めてで、そのようなところにも彼の独創性が見て取れます。ちなみに「ソナタ」というタイトルの曲は、文学に例えれば「長編小説」と思っておくとその内容もわかりやすく、想像力を働かせながら聴くことができるでしょう。
この曲は3つの楽章からできていて、通して聴くと20分を少しだけ超える時間がかかります。(東)
W.クロール(1901-1980):バンジョーとフィドル
「バンジョー」はアメリカの民族楽器で、丸い胴体を持ち、指やピックで弾いて演奏します。アフリカから連れてこられた人々が、母国の楽器をもとに作ったとも言われており、曲のピチカート部分はそのバンジョーを表現しています。
「フィドル」はヴァイオリンの別名で、民族音楽やダンス音楽の演奏時によく使われる呼び方です。ピチカートの後に続く軽快なメロディは、このフィドルの音楽らしくノリの良さとリズム感にあふれ、民族的なダンスを思わせます。中間部で現れるこの歌う旋律は、ヴァイオリンならではの魅力を存分に楽しめる部分です。リズムや拍感に縛られない自由な表現ができ、軽やかで即興的な雰囲気も感じられます。
普段日本ではなかなか演奏機会がないアメリカの作曲家、クロールのこの軽快な曲を楽しんでいただけたら嬉しいです。(河西)
私は、これまで比較的多くの作品をヴァイオリニストの方と一緒に演奏してきた、という自覚があったのですが、この曲のような素敵な作品を迂闊にも知らなかったことが大変残念に思われる、楽しい気分になれる小品です。
ヴァイオリンはヨーロッパ全域を中心に、南北アメリカはじめ、世界中で親しまれている楽器ですので、こんな楽しい曲もまだまだたくさんあると思います。聴いて楽しみ、そしてもし気に入った曲がありましたら、ぜひ弾くことにもチャレンジなさってみてください!(東)
F.プーランク(1899-1963):ヴァイオリンとピアノのためのソナタ
このヴァイオリンソナタが作られた時代は第二次世界大戦の最中で、フランスはナチス軍に占領されていました。その中でフランスのヴァイオリニスト、ジネット・ヌヴーの依頼により、1942〜1943年に作曲されました。またプーランクはヴァイオリンの甘く美しい音が好まなかったそうです。そのような音色やフレーズが現れる箇所にはヌヴーのアイデアや助言が反映されており、初演も彼女とプーランクによって行なわれました。
作曲の背景には、1936年に殺害されたスペインの詩人フェデリコ・ガルシーア・ロルカへの思いがあります。プーランクはロルカを追悼する曲を作りたいと願い、このソナタを献呈しました。彼はヴァイオリン独奏よりも、複数のヴァイオリンが絡むアンサンブル的な音色を好んでいました。
第1楽章は冒頭から衝撃的で、至る所に散りばめられた不協和音が印象的です。同時に、美しく魅惑的なフレーズも多く、これはジネット・ヌヴーの助けを受けて構成されたとされています。プーランクは常々、ロルカへの思いから作曲を始める際、まず第2楽章から取りかかったそうです。
第2楽章では、ロルカの詩の表現“ギターたちは夢を泣かせる”が音楽に反映されています。この「ギター」は悲しみや哀愁、孤独、切なさを表現しており、人間の声の代わりとして感情そのものを音で示す役割を果たしています。
第1楽章の最初のテーマには“très violent”(非常に暴力的に)という指示があり、第1・第3楽章の要所にも見られます。美しいメロディの直後には、軍隊の行進のような不安を煽る旋律が入り、激しくやかましい音楽に移り変わります。第3楽章では、冒頭から“悲劇的に速く”という指示の通り、焦燥感や悲劇、喜劇が入り混じります。終盤ではピアノが突然悲劇的なコーダを奏し、そのフォルテッシモ(fff)はロルカの死を象徴する銃声や金切り声を表現し、最後にはピアノとヴァイオリンで銃声を模しています。
このソナタには、人間の生々しい感情や激高、そして悲鳴のような響き、狂気的な鬼気迫るパッセージが、存分に込められています。その中にふと現れる美しいフレーズも、どこか哀愁を帯びて聴こえます。私たちは日々さまざまな喜怒哀楽を抱えながら生きていますが、ときに多くのことに耐え、素直な感情を心の奥にしまい込んでしまうこともあります。
今回の演奏会では、私自身の感情だけでなく、客席にいらっしゃる皆さまの中にある想いも、音楽とともにそっと解き放っていただけたらと思っています。この空間が、そんな感情を共有できる場になれば幸いです。(河西)
今回のプログラムの中では、おそらく最もシリアスな内容の曲だと思います。曲の背景や3つある楽章のそれぞれ異なる性格については、河西さんのプログラムノートに詳しく記されていますので、そちらをご覧いただくと良いでしょう。
この曲を作ったフランシス・プーランクは1899年生まれの生粋のパリジャン(パリっ子=パリの生まれ育ちのフランス人のことをこう呼びます。ちなみに女性ですと「パリジェンヌ」になります。)で、その作風は軽妙で洒脱かと思えば、時に皮肉に満ちた表現と突然の憂鬱(メランコリー)、喧騒と憧れ、などさまざまな感情が都会的な香りに乗って紡がれていくのが特徴です。
この作品は、悲劇的な運命を辿ったスペインの国民的詩人であったフェデリコ・ガルシア・ロルカに捧げられていることが示すように、そうした本来の彼の作風とともに、得意な諧謔(かいぎゃく)の表現は影を潜め、緊張感の溢れた展開と色調が、またプーランクの隠された一面を如実に表しています。(東)
I.アルベニス(1860-1909)/ F.クライスラー(1875-1962)編 :タンゴ
この曲はもともとイサーク・アルベニスのピアノ組曲『España』より書かれたスペイン風の舞曲です。アルゼンチンタンゴとは異なり、上品さの中にエキゾチックな色合いを持ち、甘い音色で奏でるハバネラ風のリズムと旋律が特徴です。
クライスラーが編曲したことで重音が加わり、さらに官能的になりつつも、南国の穏やかさも表現されています。
私自身、スペインには何度か演奏ツアーで訪れましたが、人々の明るさや情熱的な一面はとても新鮮でした。また、海辺で過ごした時の開放的な空間や波の揺れを思い出すと、この曲を弾くときに自然と情景が思い浮かび、とても幸せな気持ちになります。
今回お聴きいただく皆さまにも、寒い外の空気とは別の、海辺を感じるような気分を少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。(河西)
スペインを代表する作曲家であるアルベニスは、1860年に生まれ、1909年に没しました。自身大変優れたピアニストでもあったアルベニスは多くのスペインを題材としたピアノ曲を残しましたが、この曲はそれらの小品の中から、私の最も敬愛するヴァイオリニストの一人であるF・クライスラーが素敵な小品に仕立ててくれたものです。
ちなみにクライスラーは、職業軍人でもあったという経歴の持ち主で、作曲も本格的に勉強し、ピアノの腕前も相当なものだったという逸話が残っています。(東)
H.ヴィエニャフスキ(1835-1880):モスクワの思い出
ポーランド出身のヴァイオリニスト兼作曲家のヴィエニャフスキは16歳の頃にロシア各地を演奏旅行で巡り、その時の印象や思い出をもとに作曲しました。この曲の中にはワルラモフ作曲 ロシア民謡の『赤いサラファン』と『馬に鞍をつけて』の二つの歌曲の旋律が出てきます。
冒頭のピアノの華やかなテーマは『赤いサラファン』の冒頭が断片的に現れます。ヴァイオリンは即興的で鮮やかに始まり、『赤いサラファン』のこのテーマは様々なバリエーションで書かれています。中間部でようやくこの歌曲の旋律が出てきます。それが終わった後は再び鮮やかなパッセージの変奏から、フラジオレットでの変奏が描かれています。そして最後にようやく『馬に鞍をつけて』のメロディーが出てきて、最後は馬が暴れたように華やかに終わります。
この曲は私の師である若林暢先生が大好きな曲で、中学生の私はこの曲がどんな曲かもわからずただ技巧的な曲だ…と恐れ多い気持ちで練習しておりました。時が経ち、今ようやく歌心や思い出に浸りながらヴィエニャフスキは書いたのかな、と想いを馳せることができるようになりました。
技巧的な部分だけでなく、民謡の音色にもご注目ください。(河西)
ポーランドは、長い歴史の中で非常に多くの優れた音楽家を輩出してきた国ですが、ピアノのショパンと並んでヴァイオリンのヴィエニャアフスキもその楽器のための名曲を数多く残しています。彼の作品は、ヴァイオリンの名人芸が華やかに発揮される曲が多いという印象がありますが、この作品はヴァイオリンの高度な技術を要するさまざまな音色とともに、素朴なロシア民謡も楽しめる、親しみやすい内容になっていることから、多くのヴァイオリニストや愛好家に愛されています。(東)