10月4日(日)、夏期学校やSeiji Ozawaフェスティバルの会場として知られる松本市のキッセイ文化ホール大ホールで、第62回甲信地区大会を開催しました。実行委員長のヴァイオリン科・井上悠子先生から、報告していただきました。
80周年の秋、松本に響く子どもたちの音
10月4日(日)、松本市のキッセイ文化ホールにて第62回スズキ・メソード甲信地区大会が開催されました。10月号のマンスリースズキで、大会に向けての様子を詳しくご紹介いただきましたので、是非そちらも合わせてお読みください。
今回はプログラムのある一曲に焦点を当てて大会を振り返ります。
甲信地区大会は、長野県・山梨県の生徒が集まり、毎年開催される大きなコンサートで、ヴァイオリン・チェロ・フルート・ピアノの四科すべての生徒が演奏します。開催地は、長野県内を4つに分けた地域を順番に巡りますが、才能教育研究会創立80周年という節目の年に、創立の地である松本で開催されることとなりました。
この巡り合わせをきっかけに、鈴木鎮一先生の作品を取り上げ、特に指導曲集には収められていない曲にも光を当てることで、音楽を通して鈴木先生の心に触れる機会にできればと考えました。そこで、コンサートのオープニング演奏として、「信濃なる筑摩の河の」という楽曲をプログラムに加えることにしました。
『信濃なる 筑摩の河の さざれ石も 君し踏みてば 玉と拾はむ』(万葉集 巻14・3400東歌)
長野県を流れる千曲川にちなんだこの万葉歌に、鈴木先生が美しい旋律をつけたのが、この作品です。ピアノを伴う二重唱や、弦楽合奏を伴奏とする演奏もできるよう、楽譜が受け継がれてきました。
また、開催地区である松本支部にとっても、馴染み深い曲でした。市内の川のほとりに立つこの歌の歌碑の前で、毎年演奏する機会があったからです。しかし、新型コロナウイルス禍によって歌碑の前での演奏が途絶えてからは、この曲を知る生徒も少なくなっていました。
鈴木先生が地域の方々との交流を大切にされていたこと、そして、スズキ・メソードの子どもたちが演奏を通して伝えてきたこと。この作品には、そうした大切なつながりが感じられます。だからこそ、改めてこの曲を演奏し受け継いでいくことは、創立80周年という歴史を祝い、スズキの心を未来へつなぐことにもなると考えました。
今回は、合唱は入らず、四科すべての楽器による合奏版です。弦楽合奏のヴァイオリン科・チェロ科の生徒に、ピアノ科・フルート科の生徒も加わり、全科の上級生による演奏が披露されました。指揮は、スズキ・メソード松本支部出身で愛知県立芸術大学教授の桐山建志先生。先生のご指導のもと、柔らかく奏でられた美しい旋律が、穏やかさのなかにも厚みのある音楽となり、ホールいっぱいに響きました。客席で聴いていた方々にとっても、参加した生徒たちにとっても、心に残る演奏となったようです。
「信濃なる…」に続いては、弦楽合奏でモーツァルトの「ディヴェルティメント第2番 KV137」全楽章の演奏です。有名な第1番・第3番に比べて演奏される機会の少ない作品で、練習の初期にはその難しさに直面しました。それでも桐山先生は、生徒たちの様子を見ながら試行錯誤を重ね、丁寧にご指導くださいました。生徒たちもそれぞれに努力を重ね、本番のステージでは互いの音を聴き合い、音楽を楽しむ余裕さえ感じられる演奏ができました。
音楽を通して心を育てること。それこそが、鈴木先生が最も大切にされ、力強く世界に訴え続けてこられたことでした。作品を通して子どもたちの成長を願った鈴木先生の心は、日々のお稽古で培われた能力と感性を通して、今後も音となって伝わって欲しいと思います。