第2回 SUZUKI METHOD International Teacher Trainers Convention 参加報告
~10年ぶりの開催。スズキ・メソード21世紀の発展は指導者養成から~
業務執行理事 黒河内 健
10月11〜13日にスペイン・マドリードで全世界のスズキのTeacher Trainer(指導者養成に責任をもつベテラン指導者)が集う「第2回International Teacher Trainer Convention」が開催されました。 日本のスズキ(公益社団法人才能教育研究会)からは指導者・特別講師・業務執行理事の計7名が参加いたしました。以下、レポートをお届けいたします。
1 Teacher Trainerとは?
最初に、スズキ・メソードの世界の組織とTeacher Trainerの位置づけと役割について紹介します。スズキ・メソードは全世界46の国と地域に展開されていますが、全世界を5つの地域に分けて組織化されています。
・日本:Talent Education Research Institute(公益社団法人才能教育研究会)TERI
・南北アメリカ:Suzuki Association of the Americas(アメリカスズキ協会)SAA
・ヨーロッパ:European Suzuki Association(ヨーロッパスズキ協会)ESA
・オセアニア:Pan-Pacific Suzuki Association(オセアニアスズキ協会)PPSA
・アジア:Asia Region Suzuki Association(アジアスズキ協会)ARSA
全世界のスズキ・メソード指導者は上記いずれかの地域組織に属することが求められ、そして、これら5地域の地域組織を統括する組織がInternational Suzuki Association(国際スズキ協会=ISA)となっています。ISAは各地域の代表を含む役員会(Board of Directors)と14の楽器科委員会に(Instrument Committees)で構成され、役員会は全体の運営、楽器科委員会は楽器指導や指導者養成及び国際版の指導曲集の編集に関して、役員会の諮問機関的な位置づけとなっています。
また、Teacher Trainerとは、世界各地域でのスズキ・メソードの指導者養成制度そのものの策定、指導者の養成・認定、さらには認定後の継続的な育成に携わるベテラン指導者を指します。日本のスズキ・メソードではTeacher Trainerと呼ばれるポストは従来からありませんが、現在の指導者制度では、以前の国際スズキ・メソード音楽院の教員を勤めた指導者、現在の「担当指導者」「親指導者」が協力して海外のTeacher Trainerに相当する役割を果たす体制になっています。
2 10年ぶり開催の経緯と目的は?
今回の会議は昨年(2018年)のISA会議の場で、本年(2019年)のマドリードでのISA会議に併せて開催することが決定され、ESA(ヨーロッパスズキ協会)がホスト組織として開催されました。
今回の会議につけられたテーマは
‘GLOBALIZATION & TEACHER TRAINING IN THE 21ST CENTURY’
でした。スズキ・メソードが21世紀においても全世界で発展するために、指導者養成はグローバルにどうあるべきか? 急速に変化しつつある21世紀社会においては、地域ごとの指導者養成に加えて、全世界のスズキ・メソード指導者の英知の結集が必要だ、という強い危機感が10年ぶりの開催を後押ししたと言えるでしょう。
今回の会議では、あらかじめ設定された講演や討議の課題もあり、充実した発表や活発な討議が行なわれました。上記の趣旨により、会議や議論の内容共有や総括は行なわれたものの、それよりは問題や経験を出し合い、お互いをよく知ること、解決に向けた今後の交流・協力のネットワーク作りに重点が置かれ、正式な会議の場以外でも多くのコミュニケーションが縦横無尽になされました。
3 実際の会議はどのような会議だったのか?
会議の開催概要を以下にまとめました。
会議名:2nd International Teacher Trainers Convention Madrid SPAIN
場所:スペイン・マドリード(郊外のビジネス地区のホテル)
日時:2019年10月11-13日の3日間
会議の使用言語:英語
参加費用(宿泊・会議室・食事・事務費):600英ポンド(84,000円)
参加者数:合計111名
国別内訳:SAA地域 米国37 カナダ10 アルゼンチン4 ペルー1 ブラジル1
ESA地域 英国10 スエーデン5 スペイン4 フランス3 ベルギー3
デンマーク3 スイス2 フィンランド2 イタリア2
ドイツ2 オランダ2 アイスランド2 ノルウエー1
オーストリア1 アイルランド1 オーストリア1
PSA地域 オーストラリア4 ニュージーランド2
ARSA地域 フィリピン1
TERI地域 日本7
楽器科別:ヴァイオリン41 ヴィオラ4 チェロ24 ピアノ14 フルート6
リコーダー3 ギター7 トランペット1 ハープ1 幼児教育7
事務組織及び理事3
4 会議の進行と内容はどうだったのか?
3日間の会議進行プログラムは周到に用意され、4種類の会議が3日間にバランスよく配置されていました。小学校の授業のように1時限45分でテーマや同席メンバーが変わるので、集中力がとぎれないことと、15分の休憩や食事の時間には自由に交流できるので、期間中に多くの参加メンバーと多くのことについて情報交換ができました。
1)共通セッション(全員が一つの部屋に集い、事前設定されたテーマについて
プレゼン発表を全員が聴いてあとで質疑応答する)
このセッションでの発表テーマは以下のようなものでした。
・各地域の指導者養成についての発表
・指導曲集第1巻の指導法指導での重要点とは
・指導者認定とその後の評価観察について
・大学でのスズキ指導法講義の普及について
・将来のTeacher Trainerの育成について
・異なる環境(新しい地域)でのスズキ指導者養成について
*南アフリカの指導者とのWEB会議を含む
・指導者養成の歴史と今昔
・最新技術を活用したレッスン指導
・国際指導曲集の今後の出版予定などについて
*出版社(Alfred社)担当者とのWEB会議
2)分科会:テーマ別発表セッション(自由設定の個別テーマ)
このセッションの発表テーマは奏法・指導法・フィロソフィーなど、多岐にわたり
ました。発表者がプレゼンし質疑応答。参加者も興味のあるセッションに
自由参加でした。取り上げられたテーマの一例は以下のものでした。
・スズキ・メソードでの新しい楽器科創設の事例発表
・奏法の歴史と哲学
・スズキ・メソードにおける早期幼児教育のFrameworkについて
他にも興味のあるテーマが目白押しでした。
3)分科会:楽器科別討議セッション(楽器科毎個別のテーマ)
このセッションは楽器科ごとに集まり、指導法や教材についての意見交換
や事例発表がメインでした。
4)分科会:共通テーマ討議セッション(事前に決めた個別テーマ)
このセッションは3回あり、それぞれ事前に決められた共通テーマを
楽器・地域が偏らないように予め決められ7つのグループで討議しました。
各グループの書記が全員セッションで討議内容を発表し、全体で共有しました。
5 日本(公益社団法人才能教育研究会)からの参加者は?
日本のスズキからの参加メンバーは以下の7名でした。
ヴァイオリン科:蔵持典与先生
チェロ科:中島顕先生・寺田義彦先生
ピアノ科:永田香代野先生
フルート科:宮前丈明先生
0〜3歳児コース教室:松井やすよ先生
理事会:黒河内健
日本からの参加者は以下のセッションで発表を行ないました。
①共通セッション:
・TEATURE TRAINING SYSTEMS TERI(寺田・中島・宮前・松井)
ここでは、「ベテラン指導者が鈴木先生に指導を受けた第1世代から今後は孫弟子にあたる第2世代移り、鈴木先生を直接知らない層が中核になっていく」という時代認識のもとに、新設されたピアノ科・フルート科初級指導者等の新たな指導者養成制度の取り組みを軸に紹介しました。0〜3歳児コースの指導者養成の取り組みも楽器科と同様に取り上げて紹介したのは日本だけでした。指導者研究会の映像は「百聞不如一見」で各国の指導者に日本の取り組みを強くアピールできました。
・Teacher training then and now(中島)
「どの子も育つ」を信じて子どもの元気に勇気づけられて歩んだ軌跡を振り返り、今後は同じようにがんばっている全世界のスズキ指導者との交流・連帯によって新たなスズキの発展を作りたい、と呼びかけ、盛大な共感の拍手が響きました。
②個別セッション
・奏法の歴史と哲学~The History and Philosophy of Tone Production~(蔵持)
秘蔵の資料写真を駆使して鈴木先生の「音」研究の軌跡を振り返り、それが長年の「心」を追求して会得した思想の反映であること、この深い世界がスズキ・メソードの指導の原点であることを語りました。世界の指導者に深い感銘と勇気を与えました。
この他に全員が楽器科・幼児教育の各セクションやグループ討議に参加し、積極的に意見を出して討議に臨みました。今回特別講師の中で唯一参加された宮前先生は、海外と日本の指導者養成の違いから日本の改善点を考察したり、グループ討議ではピアノ科特別講師の東先生の代理で参加された永田先生が事前設定の討議テーマに対して東先生と相談の上、周到にまとめた英語資料をもとに議論をリードされたり、と参加された各先生方はそれぞれ今回の国際会議を少しでも実り多きものにしようと独自の工夫と努力で奮闘されました。
セッション会場以外でも深夜のロビーでチェロ科教材の討議に参加されたり、0〜3歳児コースは会期前も含めて予定外の関係者会議で日本の取り組みを主張されたり、とめったにない世界中からの各科主要指導者の集まりという貴重な時間を最大限活かしての活躍が見られました。
6 今後に向けて思ったことは?
ウィリアム・スター先生が鈴木先生にインタビューされた映像は、特に指導者の皆さんの注目の的となりました 今回の会議の準備~参加を通じて感じたこと、勉強したことが多くありました。実際に参加して世界のスズキ・メソードのベテラン指導者と直接交流すると、海外の指導者でも鈴木先生のもとで研鑽を積まれた指導者の方々は日本を「スズキ先生の国」として特別に思ってくださっている感じがしました。一方で、それぞれの地域での指導者養成の課程を経てスズキの指導者になられた指導者も多くいて、このような指導者は鈴木先生の思想や教育法を世界で通用する真理として、より客観的に学ぼうとする真摯な姿勢をお持ちで、日本から参加した自分に対しても、ともにスズキ・メソードに学ぶ同志として交流されている、という感じでした。海外も日本同様、鈴木先生を知る第一世代と、鈴木先生を直接知らない第二世代に分かれるのでしょうが、第一世代が第二世代と世代間継承をうまく行ない、第一世代と第二世代が一緒に鈴木先生を研究し、時代に適応した質の高い指導者の養成を通じてスズキ・メソードを発展させていこうと努力されていることがよくわかりました。
私自身は日々「鈴木先生のおひざ元」意識をもち「鈴木先生の時代のように会員を増やしたい」と考えてきましたが、世界中の第一世代、第二世代の指導者と接し、今後は世界のスズキ・メソードの一員として世界の仲間と連帯して努力することが、ひいては日本のスズキの発展にもなるのでは、と思うようになりました。鈴木先生を知らない第二世代指導者は海外の方が圧倒的に多いし、少子化・共稼ぎ家庭増加・教育機会の不平等・幼児教育の必要性などの社会情勢からくるスズキ・メソードのリスクとチャンスに関する問題意識は、海外の指導者も日本とまったく同様でした。よって、日本のスズキにとってのヒントは世界のスズキの活動の中に多くあるように感じたからです。
世界のスズキ指導者も日本の指導者との積極的な交流を強く望んでおり、「TERI(日本)はどうなっているの?」という問いを今回多く受けました。「ここを読んでみて」とすぐに紹介できる公開資料がなく、今回は口頭での説明に終始しました。第一歩として各種資料が英語で用意されていることがとても重要であることを痛感しました。我々も外国人との交流を前提としたインバウンド視点での各種取り組みが必要となってきました。
今回の参加者からは「次回は日本で開催したい」という日本へのラブコールを強くいただきました。次世代指導者養成では海外のスズキを追いかけている現状ですが、サッカーやラグビーのように開催国となるのを契機に世界トップクラスになる、JUDOのように世界的な競技スポーツとなっても発祥国として常に進化して強さを保っている、ということは素晴らしいことだと思います。このようにスズキ・メソードの指導者養成でも日本らしさを活かした独自の取り組みで世界のSUZUKI METHODの中で存在感を示せるようにがんばっていくべきと強く感じた3日間でした。
7 最後に
今回の日本からの発表には、参加した各指導者先生のご尽力に加えて、準備~当日の発表まで多くの方のご支援をいただきました。特に、発表資料の翻訳や当日の通訳には以下の皆様にお世話になりました。この場をお借りしまして深く御礼申し上げます。
・公益社団法人才能教育研究会 ピアノ科特別講師 東 誠三先生
・公益社団法人才能教育研究会 ピアノ科指導者 細田和枝先生
・PPSA(オーストラリア)チェロ科指導者 水島隆郎先生
満美令夫人
・翻訳通訳サービス 山本晶子様
今回の会議での本会からの発表資料や参加レポートは指導者サイトに掲示いたします、
12月以降に新ホームページの会員専用サイトに掲載し、保護者会員の皆様にも開示いたします。海外の発表資料についてもISA(国際スズキ協会)のサイトにアップされましたら、会員の皆様にはホームページ上でお知らせする予定です。