スペイン・バルセロナで、70周年を祝うイベントが開催されました。
主催者を代表して、バルセロナでヴァイオリンの指導をされておられる大井阿貴子先生からの報告です。
「スズキ・メソード70周年記念大会in Barcelona」に豊田耕兒先生はじめ、参加してくださったすべての方々に、心から感謝を申し上げます。皆様お一人お一人が積極的に参加して作り上げてくださったおかげで、本当に心温まる素晴らしいお祝いの大会となりました。
指導者研究会(7月12日~14日)とヴァイオリン科・チェロ科の夏期学校(7月14日~16日)はColegio Montserratで、ピアノ科の夏期学校はEl Musicalで行ないました。そして70周年記念コンサート(7月17日)を世界遺産のカタルーニャ音楽堂で無事終えることができました。
指導者研究会には、日本から11名の先生がいらしてくださり、ヨーロッパ各地、オーストラリアから総勢76名の先生が集まりました。講師の先生方は、ご自身の経験と研究の中から、熱い思いを込めて分かりやすく講義をしてくださいました。言語や背景が違うにもかかわらず、根底にあるものは『スズキ・スピリット』であり、こんなにも様々な視点からのアプローチがあるのかと、非常に興味深く勉強になりました。
そして、日本やヨーロッパの先生方に、ボランティアスタッフとして裏方のお仕事もお手伝いいただきました。講師や聴講以外の方法で外国の先生にご参加いただくというのは、過去には例がありませんでした。ボランティアスタッフの先生方は、いつも快く笑顔で手を差しのべてくださいました。国境を越えて各国の先生方が、汗をかきながら力を合わせてお手伝いしてくださる姿は、まさに鈴木鎮一先生がお考えになった「スズキファミリー」ではないかと思いました。
また、夏期学校では、朝の9時から夕方7時までのハードスケジュールにも関わらず、それぞれの講師の先生方が様々な工夫をこらしてレッスンをしてくださったので、子どもたちはキラキラした目で楽しそうにレッスンを受けていました。日を重ねるごとに、子どもたちの音が、より響きのある美しい音へと変わっていき、次第にみんなの心が一つになっていくように思われました。
今回の大会では、音楽に携わる者であれば誰もが訪れてみたいと夢見る『カタルーニャ音楽堂』で、70周年記念コンサートを行なうことができました。ヴァイオリン科、ピアノ科、ギター科、チェロ科、声楽科、それぞれ工夫が凝らされ、持ち味の生かされたプログラムになっていました。国も言葉も背景も違う演奏者、スタッフ、聴衆が「音楽を通して一つになる」ということは非常に感慨深かったです。「より良いものを作ろう」という皆の熱い思い、力、優しさ、思いやりが合わさった結果、言葉では言い尽くせないような素晴らしい演奏会になりました。
スズキ・メソード70周年を、このような形で皆様とお祝いできましたこと、本当に心から感謝しております。大変な時代だからこそ、ますますスズキ・メソードを通しての教育『愛深ければ、なすこと多し』が広がっていくことを願ってやみません。
<指導者研究会プログラム>
♪ 豊田耕兒先生(日本)ヴァイオリン科
"My experience with Dr. Suzuki
"『鈴木先生と過ごした日々から』
"Johann Sebastian Bach and the Double Violin Concerto
"
『バッハ:2つのヴァイオリンのための協奏曲について』
"The Suzuki movement after Dr. Suzuki
(Our legacy to the future generation)"
『スズキ・メソードの遺産』
♪ Helen Brunner先生(イギリス)ヴァイオリン科
"Suzuki Philosophy"『鈴木哲学』
"How to create a good enviroment" 『良い環境を作るには』
♪ Itsuko Bara先生(オーストラリア)とRuth Miura先生(スペイン)ピアノ科
"Tone and living soul: Studying in Matsumoto"
『松本で学んだ「音」「スズキの精神」』
♪ Päivi Kukkamäki先生(フィンランド)声楽科
"Continue Teaching Singing the Happy Suzuki Way"〜The last Wish to me in a letter from Dr. Shinichi and Waltraud Suzuki
『楽しいスズキの方法で声楽指導を続けていってください~鈴木先生と奥様からのお手紙から』
♪ Jan Matthiesen先生(デンマーク)ヴァイオリン科
"Thoughts on and ideas for creating group classes"
『グループレッスンのための工夫とアイディア』
"Suzuki Parents of Today"
『今日のスズキ・メソードの保護者とどう向き合うか』
♪ Anna Podhajska先生(ポーランド)ヴァイオリン科
"Advanced Students" Building Technique through Review & Extra Material
『上級生をどのように指導するか』
♪ Martin Rüttimann先生(スイス)ヴァイオリン科
"The Suzuki movement in Europe – the past, the present, and the future"
『ヨーロッパでの才能教育運動についてー過去、現在、未来』
→カタルーニャ音楽堂インフォメーション
→Facebookページ
スペイン カタルーニャ支部
大井 阿貴子
参加の皆様からの声が届きましたので、ご紹介しましょう。
バルセロナでの研究会・夏期学校に参加して。
ガウディが作ったサグラダ・ファミリア。今なお建築中という教会です スペインはもちろんのこと、ヨーロッパに赴くこと自体が初めてでしたので、申し込み当初は若干の不安がございました。しかしバルセロナには大井阿貴子先生がいらっしゃること、コンサートの行なわれるカタルーニャ音楽堂の壮麗さ、また日本からツアーが組まれたことで、一念発起して参加をさせていただきました。
そんな私の不安はよそに、スペインに着いてからというもの(乗り継ぎのアムステルダムからすでに!)、街並み、言語、人々、空気感、目に映るすべてが新鮮で、本当に楽しく、あっという間の10日間を過ごさせていただきました。
初めて見聞する海外のスズキ・メソード、先生方の研究会では、目新しいこと、日本とはまた違う着眼点に、多くのことを学びました。どの先生の発表も、ご指導も、素晴らしかったです。今回は研究会を経ての夏期学校というスケジュールでしたので、指導者としては、夏期学校で内容をより深めることができました。
世界遺産のホールでの250人の子どもたちの演奏は圧巻でした そして期間中はガウディの建築をはじめ、ピカソ美術館、カザルス記念館、フラメンコなど、スペインの芸術を堪能する機会にも恵まれました。パエリアも生ハムも夢のように美味しく、書き出したらきりがないくらいの経験と思い出をいただいて、帰国することができました。特に、世界遺産でもあるカタルーニャ音楽堂でのコンサートは、忘れられない思い出です。
今回このような企画をしてくださったカタルーニャ支部の大井阿貴子先生、現地バルセロナの先生方、そしてご一緒できたすべての皆様に、深く感謝しております。ありがとうございました。
九州地区ヴァイオリン科指導者
大畑佐江
言語や文化が違うけれど、音楽を通して共感し合えました。
体操したり演奏したりと楽しいレッスン スペイン語と英語でのレッスンだったので、大変なこともありましたが、先生方はジェスチャーやジョークを踏まえながら、たくさんの技術を教えてくださったので、とても良い経験になりました。また日本語で挨拶をしてくださったり、スペイン語を教えてくださったおかげで、現地の方々ともコミュニケーションをとることができました。
カタルーニャ音楽堂でのコンサートは立派で、ホール内を飾る彫刻や色彩に圧倒され、そしてなによりも演奏後に大きな拍手や歓声をいただける喜びを実感できました。言語や文化は違うけれど、音楽を通して共感しあえたことが私の中で一番素晴らしい思い出になったと思います。また、ヨーロッパの生徒さん方と本番を待つ楽屋で個々に練習していたのですが、自然と目で合図しあいながら合奏になって演奏でき、とても楽しかったです。
あたたかい拍手をいただけて幸せでした スペイン観光では素晴らしい建物を見られ、日本の先生方ともお話しをする機会が多くあり、充実した日でした。カザルス記念館では、カザルスが音楽に込めた平和への思いを感じ、心を打たれました。カザルスのように思いを演奏にのせて人々に届けられるように、今後も励みたいです。
今回、スペインで学ばせていただいた技術や音楽による力など、たくさんのことをこれから生かしていきたいと思います。素晴らしい機会を与えてくださった方々、お世話になった先生方に感謝の気持ちで一杯です。本当にありがとうございました。
関東地区ヴァイオリン科
柴田あおい(高校1年)
先生方に心からの感謝を込めて。
今も変わることのないパウ・カザルスが過ごした夏の海 バルセロナでの夏期学校のレッスン会場は、明るい雰囲気の素敵な学校で行なわれました。朝9時から19時までバラエティ溢れるレッスンで、ヴァイオリンの音色が言葉の壁をこえたコミュニケーションのように感じました。
カタルーニャ音楽堂でのコンサートは、ピアノ科はできるだけたくさんの子どもたちで弾ける工夫を、ギター科はヨーロッパならではの工夫を、声楽科は心あたたまる工夫を、チェロ科は初歩の子どもたちが弓の体操で楽しめる明るい工夫を、ヴァイオリン科は音楽堂を讃えるような厳かな、そして子どもたちの生き生きとした音の工夫が一杯で、とても楽しい時間でした。
パウ・カザルス記念館で拝聴した国連スピーチと鳥の歌は、音楽は人の心に届く美しいものであるだけでなく、平和な世の中への願いであることに胸が熱くなりました。
このような素晴らしい「70周年記念 in バルセロナ」にしてくださった先生方のご尽力に心より感謝申し上げます。
関東地区ヴァイオリン科
柴田さやか(保護者)
体で表現して弾く楽しさが、とても印象的に残りました。
Jan先生と僕 「70周年記念 in バルセロナ」では、さまざまな貴重な経験を積むことができました。僕は、主にドッペル(第1ヴァイオリン)とラモーのクラスに参加しました。ドッペルはデンマークのJan Matthiesen 先生に教えてもらいました。Jan先生はあまり言葉を使わずに体で表現して教えてくれたので、わかりやすく、理解しやすかったです。弓の使う場所もしっかり教えてくださいました。なにより体で表現して弾くことの良さを教えてくださったのが、良かったです。
他にも、面白いアレグロを弾いてくださったり、パガニーニ鳥・ラクダ鳥・ナイチンゲール鳥など空想の鳥を想像して弾くこともすごく楽しく、習得しやすくうまく弾けるようになりました。
ラモーは、スイスのCyrill Rüttimann先生でした。英語で説明した後、体で表現してくれました。音がすごくきれいな先生で、みんなで一緒に音を合わせて弾く良さを教えてもらいました。
「70周年記念 in バルセロナ」4日目はカタルーニャ音楽堂で今までの成果を出すコンサートでした。他の楽器の演奏は聴けませんでしたが、控室でいろいろな国の友だちと待ち時間に一緒にドッペルの練習をして楽しかったです。これまでは、外国のお友だちと一緒に弾く経験がなかったので、うれしかったです。この大会は一生の思い出になると思います。
関東地区ヴァイオリン科
松下裕哉(小学6年)
カタルーニャ音楽堂の美しさ、拍手の響きにも感動しました。
スペインのJuan Carlos Navarro先生と スペインでは、とても貴重な学びを得ることができました。 国境を越え、文化を越え、皆で音楽を共有したこと、楽しみながら音楽を奏でられたことなどに加えて、豊田先生や各国を代表する素晴らしい先生方との関わりを通じ、自分の世界観や価値観が広がったと感じます。
参加したクラスは、「ドッペル」のセカンドパートと「シチリアーノとリゴードン」のクラスでした。ドッペルのクラスの先生は、スペイン人の先生で、ポップな音楽に合わせ、腕の動かし方、表現の仕方などを感じ取るレッスンでした。かなり新鮮でしたが、いつもとはまた別の楽しさ面白さがありました。
兄弟で参加しました シチリアーノとリゴードンは、豊田耕兒先生が教えてくださいました。人数が少なかったため変な音を出したり音程が外れると目立ってしまう状況で、大変緊張しましたが、とても興味深いレッスンで、他の先生方とは少し違う表現の仕方に圧倒されました。また一緒に演奏してくださり、先生と音楽を作ることができたことをとても光栄に思います。
スペイン人の方々は、自分の内気な性格とは裏腹にいつも笑顔で話しかけてくれました。 陽気で明るく、器の広いスペイン人にとても惹かれました。
大会の最終日には、カタルーニャ音楽堂でコンサートが開かれました。この3日間の成果を発表する場です。集中しようと舞台に出たものの、コンサートホールの美しさに目を奪われました。ステンドグラスやタイル張りの作品一つひとつが、とても考えられていて感動の連続でした。 一番感動したのは、観客の方の拍手でした。その響きにものすごく圧倒されました。胸に直に鳴り響いてくる拍手は、本当に感動ものでした。
合宿が終わると、2日間ツアーがありました。1日目は、サグラダファミリアやグエル公園、カサ・ミラを観光しました。サグラダファミリアしかガウディの作品を知らなかった自分は、どのような思いでそれらを建てたのか、また何を大切にしていたか、直に触れることができ、とても良い学びとなりました。
豊田先生とグエル公園で記念撮影 2日目は、カザルスの家に行きました。最初は、生家へ行きました。チェリストとして名前を知っている程度でしたが、地中海に面した別荘でカザルスの生い立ちも知ることができました。日本にも来日されていて鈴木先生と親しかったことにも驚きました。
その後、ビーチのお店で最後の昼食を食べました。お店から見る景色はとても素晴らしいものでした。海には、皆、足が浸かる程度でしたが自分は、あまりの美しさに耐え切れず泳いでしまいました。とても気持ちが良かったです。こんなにも充実した楽しい日々は、先生方をはじめ、友だちや関係者の方々のおかげでこの素晴らしい旅行が成り立ちました。本当にありがとうございました。これからもヴァイオリンを世界観を持ってがんばりたいと思います。
関東地区ヴァイオリン科
松下竜太朗(高校2年)
この場にいることの幸せを一番に思いました。
レッスン風景です 「70周年記念 in バルセロナ」ではカタルーニャ音楽堂での記念コンサートをはじめ、3日間のレッスン、バルセロナの街、カザルス記念館見学、どれもすべて刺激的、そして感動的で、とても充実した時を過ごすことができました。
言葉も国も違う子どもたちが一つになって演奏する姿を見て、この場で演奏できること、この場にいられることがとても幸せに感じました。子どもたちにもこの感動、幸せを忘れずに生きていって欲しいと願いました。
これまでいろいろとありましたが、ヴァイオリンを続けてきて本当に良かったと、私はもちろん、子どもたちも感じることのできた旅でした。それと同時に、今まで諦めることなく根気強くレッスンしてくださった先生方に心より感謝申し上げます。
また今回の世界大会開催にあたり豊田先生をはじめ多くの先生方に、このような素晴らしい機会を与えてくださり、ありがとうございました。
関東地区ヴァイオリン科
松下徳子(保護者)
バルセロナで、「ラ・フォリア」をソロ演奏。
Jan先生と一緒に ソロ演奏時、半分くらいの出演者は、ドレスを着ないで演奏していました。私は赤いドレスを日本から用意してきたけれども、「張り切りすぎ」と思われないかというためらいがありました。弾く直前は、ドキドキして、「間違えたらどうしよう」という不安がよぎり、少し怖くなりました。
しかし、今まで練習してきた成果があり、上手にラ・フォリアを演奏できました。演奏中は、みんなが真剣な眼差しで自分の演奏を聴いてくださっているのがひしひしと伝わってきました。実は、ラ・フォリアは昨年の2月頃から発表会のために練習を始め、11月に卒業録音をした曲ですが、みんなの前で演奏するには、よく弾き込んだ曲の方がよいと考え、バッハのコンチェルトではなく、ラ・フォリアを選びました。
演奏が終わった後、大きな拍手をいただくことができ、ほっとしました。またソロ演奏が終わった後、夏期学校で一緒のクラスで練習しているスペインのお友だちが歩み寄ってきて、弓の手のジェスチャーをしながら“good”(弓使いが良かったよ)と言ってもらえて嬉しかったです。会場を出た後、ドッペルを習っているJan先生から「一緒に写真を撮りましょう」と声をかけてもらえたのも嬉しかったです。
カザルスの銅像の前で 夏期学校以外の楽しみ、それは、カザルス記念館&ビーチでした。カタルーニャ音楽堂でコンサートを終えた2日後、バスに乗り、日本から来た先生や生徒の皆さんと一緒にカザルスが生まれ育った実家とカザルス記念館に行きました。ここでは、カザルスのいろいろなものが飾られていました。カザルスの楽譜・カザルスが好んで演奏していた曲などを知ることができました。カザルスは大変有名な人ですが、滅多に行くことのできない場所に訪問でき、カザルスという人の生い立ちを知ることができて嬉しかったです。
記念館の前には、地中海が広がっており、雲ひとつない青空と澄み渡る海。冷たくて気持ちのよい海で、お友だちと泳ぐことができました。とても楽しかったです。
関東地区ヴァイオリン科
齋藤凜々子(小学4年)
「70周年 in バルセロナ」で実感した音楽のチカラ。
カザルス記念館にて家族全員で 今回、世界から集まった多くの皆様と一緒に、バルセロナという美しい街でのレッスンと、カタルーニャ音楽堂でのコンサートという機会に家族全員で参加でき、とても素晴らしい思い出となりました。
長女(9歳小4)は、午後のソロコンサートでの演奏の機会をいただき、今回は日本からの参加者の方の代表となったつもりで恥ずかしくない演奏をしようと、より強い気持ちで母娘で練習を積みました。当日はその成果を発揮することができ、これまでの長女のがんばりを見ていた私(父)もその結実を見て、親バカだなと思いつつも感涙でした。
次女(5歳年長)は、レッスンは英語(時にスペイン語)で言葉は理解できず、日本人も自分一人だけのことも多かったのですが、言葉は通じずとも、子ども同士は同じ音楽練習で通じるものがあるのか、どんどん仲良くなっていくのが素晴らしくもあり、私からすると羨ましくもありました。
バルセロナを満喫しました カタルーニャ音楽堂でのコンサートリハーサルの時には、日本人が周りに誰もいなくなる時間帯があり、不安で泣いてしまいました。しかしその時、レッスンで一緒のクラスにいた一つ上のスペインの女の子が次女を抱きしめて励ましてくれました。次女は、世界は様々な言葉・人種から成り立つことと、同時にそれを越える優しさがあることも強く感じたのではないかと思います。
今回、子どもが将来身に付けるべき語学の重要性も再認識しましたが、それ以上に、言葉が違っても音楽で世界とつながることができるという、音楽の素晴らしさ、また、一つのことを追求することが人間の心をも成長させる、ということを実感として感じることができました。今はまた慌しい日常生活に戻っておりますが、子どもの育つ力を信じて、揺るがぬ心で、日々の稽古を継続できるようサポートしていきたいと思います。
企画・運営くださった大井両先生をはじめとする諸先生方、またご一緒させていただいた保護者・生徒の皆様、関係者の皆様に心より御礼申し上げます。大変ありがとうございました。
関東地区ヴァイオリン科
齋藤陽一・麻衣子(保護者)
「70周年 in バルセロナ」に参加して。
実は、このツアーへの参加については、随分とためらったのですが、バルセロナやカザルスゆかりの地は、かねてから行きたかったこと、豊田耕兒先生が来られて指導されること、一度外国のスズキ・メソードを見てみたかったこと、などの理由で、絶好の機会と思い、ツアーに入れていただきました。結果は「行って良かった!」の一言に尽きます。この大人・子どもを交えたツアーメンバー10人とは別に、2人の先生、4人家族、昔テン・チルドレンで活躍され、今は企業マンとしてドイツ赴任中の方などとも現地で合流し、その顔ぶれだけでも結構ユニークで楽しいものでした。
他の方々も寄稿されているように、カタルーニャ音楽堂での70周年記念のコンサートをはじめ、モンセラート学校における指導者研究会、夏期学校、カザルスゆかりの地の訪問など、どれも内容レベルが高く、色彩豊かで美しく、意義深い素晴らしいものでした。このような大会を成功裏に導かれた大井亜貴子・真知子両先生のご尽力とご苦労は、いかばかり大きかったことかと、まったく頭が下がる思いです。厚く御礼申し上げます。
他の方々が書いておられる通り、外国の子供たちや先生方とも何の隔てもなく、ただスズキメソッドで音楽をやっている、というだけで互いに通じ合える体験は素晴らしく、(費用も安い!)「こんなすごい企画なのに、日本から少ししか参加していないのはもったいないね。」というのが私たち参加者大方の嘆きでした。
私のレポートで言いたいことは皆さんのものと多く共通しているので、ここでは皆さんが触れなかったことを書くことにします。
一つは、ピアノ科も思いがけず見学できたことです。バルセロナで中心的に活躍されているルース・三浦先生の懇切丁寧な説明で、その会場に行くことができました。主会場のモンセラート学園のそばのフニクラ駅から地下鉄で20分ほどのところの、閑静な邸宅街の中の小さな音楽院の中でレッスンが行なわれていました。ピアノ用の小さなレッスン室がたくさんあり、三浦先生はじめ、スペイン人らしい先生に、スペインの7~15歳くらいの子らが、おなじみのキラキラ星やかっこう、エコセーズ、モーツアルトのロンドなどのレッスンを受けていました。いずれも皆、キチンとしっかり弾いておられ、レッスンの始めと終わりには日本と同じように先生と生徒が向かい合ってお辞儀し、弾く姿勢も態度もとても神妙で、私はあまりにも日本らしいのに大変驚きました。
私以外にもフランスやドイツから研修生らしき男性や女性が見学に来ており、広い部屋では日本のローランドやヤマハのキーボードを8台ほど並べたグループレッスンや、別部屋では親子10組くらいが円になって、ダルクローズ(らしい?)セッションを行なっていました。
ルース先生はたいへんお綺麗な気品のあるお方で、指導者研究会ではスペイン語・英語・日本語を自在に使って通訳をしてくださいました。私が「生徒さんは皆きちんとされてますねえ!」と言いますと、「これは躾です」とおっしゃり、私は、いまや日本では久しく使わない「躾」という言葉を耳にして、一瞬懐かしく思ったことでした。
古代ローマの円形劇場を模したような形の人工芝生を敷き詰めた緑一色のかわいらしい集会場 二つ目は、メイン会場となったモンセラート学園の様子です。この学校は、聞くところでは、幼児から青年まで一貫教育を行なう私立校で、幼児教育の一つにスズキ・メソードを取り入れており、大井亜貴子先生がここで子どものヴァイオリン教育を担っておられる関係で、会場になったとのことです。近年はスペイン一の名門校として注目を浴びており、入学するのはなかなか難しいとのことでした。幼児の生徒にも芸術や科学、社会などへの偏りない関心を持たせるためか色彩豊かで、柔らかくウイットに富んだユーモラスな展示や設備があり、防音した音楽室ももちろんありました。日本では見られないこのような学校、何ともうらやましい限りです。モンセラート学園の内部また古代ローマの円形劇場を模したような形の人工芝生を敷き詰めた緑一色のかわいらしい集会場では、誰もが開放的な気分になるようでした。子供たちも芝生の上で逆立ちしたり、追いかけっこをしたり、寝転んだりして、はしゃいでいました。こんな自由な場ではブランコ、滑り台という遊具などは不要かもしれません。事実そのような器具は一切ありませんでした。
三つ目は、美しいカタルーニャ音楽堂に来てくださったお客様の様子です。かわいい孫の晴れ姿を見に来たらしい盛装したおじいちゃん、おばあちゃんのカップルで超満員。一曲終わるごとにヤンヤの喝采で、場内は熱気でむせ返っていました。でも学校の学芸会を参観している雰囲気では、まったくなくて、一人前の尊厳ある音楽家として子どもを見ている態度で、子どもも簡単な曲でも堂々と弾くので、立派な大人の音楽として聴こえてくるから不思議です。ここでは子どもにも能動的に音楽する心がすでに芽生えてきている感があります。
四つ目は、このコンサートで男性のコロラトゥーラソプラノを生まれて初めて聴いたことです。あんなに美しく緊張感のある声の質だとは知りませんでした。女声にはない素晴らしいものです。バルセロナのスズキでは、楽器ばかりでなく歌も科目に取り上げられているらしく、とてもいいことです。日本でもやったらいかがでしょうか。
関西地区ヴァイオリン科指導者
奈倉民子
「バルセロナ夏期学校」を終えて。
バルセロナは素晴らしい所でした 私は日本からの参加者としては最年少の4歳の娘と、70代の私の母、ベルギー在住の友人の4人で、成田からの直行便でベルギーの義弟宅へ滞在した後、ブリュッセルから飛行機で2時間かけてバルセロナに入り、夏期学校に参加させていただきました。
世界遺産のカタルーニャ音楽堂でスズキ・メソード70周年記念に演奏させていただける!ということで即決したバルセロナ行きでしたが、思いがけず、夏期学校中のソロコンサートにも出演させていただくことができました。
7月14日の開校式において、ヴァイオリンで演奏された2曲目は、偶然にも15日のソロコンサートで娘が弾くことになっていたミニヨンのガヴォットでした。使っている弦も違い、明るく爽快な演奏でしたが、すぐに気づいた娘は嬉々として私の顔を見て、一緒に弾く格好をしました。
ソロの演奏場面です豊田先生にお褒めいただき、感無量です ソロコンサートの舞台は一番手を務めさせていただき、豊田耕児先生も見守ってくださる中、いつもは間違わない箇所で一回ミスしたものの、数千回繰り返したところは今までで一番美しく、最後まで小さな身体で渾身の力を込めて立派に弾き終えた娘の姿に、感無量でした。私が後方へ下がる際に、豊田先生が「お母さん!よくがんばられましたね!」と声をかけ、満面の笑みで身を乗り出すようにして拍手を送ってくださり、それだけでバルセロナに来た甲斐があったと思いました。客席の後ろで楽器をしまいながら、「良い音を、良い音を」と繰り返した娘の努力を思い、涙がこぼれました。
夏期学校は9時から19時。お昼に2時間のシエスタがあるとはいえ、長時間で本当に驚きました。しかし、時間ごとに入れ替わる各国の先生方のレッスンの面白いこと!!子どもたちを惹きつけてやまないレッスン。夢中で疲れを忘れて連日終了時間まで弾き続ける子どもたち、私も貴重なレッスンの様子を記録したいと握りしめたビデオを下ろすことはありませんでした。スペイン語、あるいは英語のレッスンでしたが、そんなことはまったく問題ではなく、スズキ・メソードであり、音楽であるだけで、それは共通の言語でした。
偉大な芸術家を数多く輩出したバルセロナの街は本当に美しく、どこを見回しても明るく澄んだ青空に歴史ある建築物が映え、目に飛び込んできます。特に夏期学校クライマックスの舞台となった世界遺産カタルーニャ音楽堂内部の美しさに、開いた口が塞がりませんでした。そして、その場所でのコンサートは本当に心に残る素晴らしいものでした。同じクラスで夏期学校のレッスンをともにがんばった年上の女の子たちが、出演前には娘の手を自然に引いて連れて行ってくれ、娘は満足げな笑顔で振り向いて手を振りながら楽屋へ消え、終了後には「SAKURA〜、SAKURA〜」と、かわるがわる娘を抱きしめて別れを惜しんでくれました。
バルセロナでの夏期学校、カタルーニャ音楽堂での70周年記念コンサート、素晴らしい企画であり、日本からの参加者がもっともっといたら良かったのにと今でも思います。テロが心配で不参加を決めた方々もいらっしゃったと思いますが、それはベルギーでも同様でした。日本と修好150年にあたるベルギーでは、王様がバカンス中に一般公開されている王宮内に日本の古いお雛様が大切に飾られていましたが、見回しても日本人観光客らしき人々は私たちのみで、とても残念に思いました。「〇〇が心配で日本へは旅行しないわ」と言われれば「そんなことないわ」と答えるのではと思います。
世の中で最も尊い心、その行動は、人に親切にする心、親切にすることだと思います。ヴァイオリンが美しく弾ける人になるためには、何よりも人に親切にできる心を持つ人とならなければならないと思います。異国で親切にしていただいて、ますますその思いを強くしました。
タクシーの運転手さんは、自分の大好きなカタルーニャ料理を携帯電話の写真でわざわざ紹介してくれ、愛娘の写真も見せてくださいました。レストランのウェイターの方は、夕食の待ち時間が長い私たちを気遣って楽な席へ案内し、次回予約しやすいようにと名刺をくれ、おまけにとても美味しい知り合いのレストランまで紹介してくださったり、ホテルのフロントの方は、なかなかうまくいかないインターネットの観光予約に2時間も付き合ってくださったりしました。バルセロナの地下鉄にも娘と2人だけで乗りましたが、幼い子連れの私に乗客はみな親切で、すぐに席を譲ってくれた人が何人もいました。
言葉や姿は違っても、たくさんのこういった人としてのやさしさに触れ、その国の言葉で挨拶や御礼を重ねながら過ごしたこと、また、夏期学校のレッスンを通して、言葉は関係なく先生のいうことが分かる、一緒に楽しく弾ける音楽は最高の言葉だ!と実感できたことが、娘にとって最高の経験であったと思います。
カタルーニャ音楽堂のスタッフの方々が好意でコンサート後に音楽堂の階段で弾かせていただきました! また、グエル公園やサクラダファミリア前、ベルギーのグランプラス広場などでヴァイオリンを取り出して弾く娘に、人々が微笑ましく目を細めて足を止め、温かい拍手を送ってくれました。カタルーニャ音楽堂のスタッフの方々が好意でコンサート後に音楽堂の階段で弾かせてくれ、拍手をくれるという一幕もありました。
「私たちの時代がどんなに暗く見えようとも 音楽は希望のメッセージをもたらさなくては」という、カザルスが遺した言葉を思い出します。このような時代にこそ、世界に広がるスズキ・メソードを通して音楽が人々に希望のメッセージをもたらしてくれることを、そして子どもたちがその一端を担える人に育って欲しいと願って止みません。最後に、70周年inバルセロナを成功に導くために尽力された先生方に、心から感謝の意を表したいと思います。ありがとうございました。
関東地区ヴァイオリン科保護者
佐々木由美江