オーストラリア在住のヴァイオリン・ヴィオラ科指導者、ロイス・シェパード先生のご著書「鈴木鎮一先生の思い出」日本語訳の連載第25回です。いよいよ第11章「愛に生きる」に入ります。とても短い章になりますが、今もなお、鈴木鎮一先生への思慕を抱き続けておられるロイス先生の想いが溢れた文章になっています。
第11章 愛に生きる
鈴木鎮一先生は、その人物すべてを教育することに献身的であられました。ヴァイオリンの奏法と教授法を我々に教示されるにも、教師に必要な他の資質を静かに示されるのでした。鈴木先生は、人としての我々を知り、人格というものをわかっておられました。ときに怒りを抱いてみたり、ホームシックになったり、はたまた日本語の勉強に時間を取られてしまっている者のことから、お金がなくて困っている者のことまで、すべてお見通しでありました。書道クラスに顔を出されると、とりわけ初めて日本語を書写する外国人を気にかけられていました。
鈴木鎮一先生は、絶えず私たち全員を見守ってくださっていました。東京の飛行場を離陸して初めて、鈴木先生の学生たちに対する配慮がいかなるものかに気づかされたのです。私たち研究生は、真に愛に育まれた「愛に生きる」環境の中で暮らしていたのです。
訳者:フィッシャー洋子
ロイス・シェパード先生の略歴
ニューサウスウェールズ音楽院及び松本市の才能教育音楽学校を卒業。シドニー交響楽団のメンバーを務める。また、ニューサウスウェールズやヴィクトリアの数々の学校で教鞭をとる。長年、オーストラリア音楽検定委員会の試験官、ヴィクトリア州立大学の幼児教育の学会で講師を務める傍ら、メルボルン大学の音楽院でヴァイオリンとヴィオラを教える。一時期、アメリカの西イリノイ大学のヴィオラ科教授兼スズキ・プログラムの理事を務める。
1960年代前半より、スズキ・メソードでの指導と研究を続けてきた。
ロイス先生は、プロの演奏家を育てることを目的とはしなかったが、その生徒の多くが、シンフォニーオーケストラのメンバーや室内楽奏者、また、スズキの指導者になっている。これまでの生徒は、メルボルン大学、ボストンのニューイングランド音楽院、ニューヨークのジュリアード音楽院、南イリノイ大学、ミシガン大学、ロンドンの王立音楽院などの高等教育機関への奨学金を得ている。また、多数の生徒がメルボルンの私立学校の音楽部門の奨学金を得ている。メルボルンの生徒への指導並びに指導者への指導を続けて、現在に至る。
ロイス先生の長男は現在、IT企業で活躍中。長女は松本で鈴木鎮一先生の下で研鑽を積み、現在、ドイツでヴァイオリンとヴァイオリンの指導法を教えている。2人の孫がいる。