SeijiとJohn - 語り継がれるものの力

スズキ・メソード会長 早野龍五
 
 私は、昨年夏から、 公益財団法人サイトウ・キネン財団の評議員をつとめており( →マンスリースズキ2022年7月号)、そのご縁でセイジ・オザワ 松本フェスティバル(OMF)のコンサートにお招きをいただくようになりました。今年も、8月25日に開かれたオーケストラ コンサート Aプログラムと、9月2日に開かれたオーケストラ コンサート Bプログラム(どちらもキッセイ文化ホール)に行ってまいりました。

 特にBプログラムは、ジョン・ウィリアムズさんご本人が30年ぶりに来日し、サイトウ・キネン・オーケストラ(SKO)の指揮をされるということで、チケットの抽選倍率が14倍に達するなど、大きな話題となりました。
 
 当日のプログラムは、OMFの公式ページ(→こちら)に公開されておりますので、一つひとつの曲についての紹介はいたしませんが、Bプログラムは《オール・ジョン・ウィリアムズ・プログラム》と題したもので、前半後半ともにジョン・ウィリアムズ作曲の作品が並んでいます。

OMF公式サイトより


 前半の指揮者は、Aプログラム ( →こちら)の指揮者でもあったステファン・ドゥネーヴさん。前半最後、映画『E.T.』からの3曲を指揮する前に、サービス精神旺盛なドゥネーヴさんはマイクを取り、「今から41年前、私は『E.T.』を劇場で見ました。 その時の私は、映画のエリオット少年と同じ歳だったのです…(don’t count → 意訳:足し算して私の年齢を計算しなくても良いですよ)」と、ユーモアたっぷりにスピーチされ、それをジョン・ウィリアムズさんは一階の客席(楽屋に近いドア付近)で聞いておられました。ちなみにジョン・ウィリアムズさんは現在91歳。ステファン・ドゥネーヴさんの40歳上で、『E.T.』作曲時は50歳だったのですね。

 休憩後の後半は、黒いシャツとパンツにクリーム色のタキシードを着こなしたジョン・ウィリアムズさんご本人が、ゆっくりした歩みで指揮台へ。一方、ステファン・ドゥネーヴさんは客席へ。

 1曲目のスーパーマン・マーチのあと、ウィリアムズさんもマイクを取り、「1980年にボストン・ポップスの指揮者の仕事をくれたのは、(当時ボストン・シンフォニーの指揮者であった)小澤征爾総監督だった。30年ぶりに日本でSeijiと再会して嬉しい」とスピーチ。
 
 ウィリアムズ作品では管楽器がテーマを奏でることが多い中、『ハリー・ポッター』ではチェレスタが、『シンドラーのリスト』ではヴァイオリンが効果的に使われ(オリジナルサウンドトラックは、イツァーク・パールマン、今回は豊嶋泰嗣さん)、オーケストレーションが実に巧みなのですね。
 
 プログラム最後の『スター・ウォーズ』のエンドタイトルが終わったところで、まだ予定終演時間まで20分強。アンコールを期待して総立ちの観客の期待に応え、『スター・ウォーズ』のヨーダのテーマと、『レイダース』のレイダース・マーチが演奏されたところで、ウィリアムズさんが、舞台下手ドア方向を向いて、”Seiji”と呼びかけました。しかし、何も動きがない。ウィリアムズさんが再び”Seiji”と呼びかけ、手招きすると、小澤征爾総監督が舞台へ。その時の様子は、本会も夏期学校の撮影などで大変お世話になっている、OMFの公式カメラマン山田毅さんたちの撮影したものが、ニュースメディアに出ていますのでご覧ください( →公式サイトのリンク集 )。

 ジョン・ウィリアムズさんと小澤征爾総監督の握手を観客が総立ちで見守る中、サッとウィリアムズさんが指揮棒を振り下ろし、SKOオーケストラメンバーの阿吽の呼吸で応え、最後の曲である『スター・ウォーズ』の帝国のマーチが演奏されました。その見事な演出と高揚感は、ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートの最後のラデツキー行進曲と共通するものがあると感じました。
 

出演者の中には、スズキ出身者が何人も!

 そして、忘れてはならないことがもう一つ。Bプログラム前日の9月1日は、小澤征爾総監督の88歳のお誕生日だったのです。

 コンサートの素晴らしさは、会場で生で聴いた人にしか本当には通じません。録画では不十分だし、文章はもっと無力に感じます。
 
 しかし、本当にそうでしょうか。小澤征爾総監督の88歳の誕生日の時に、ボストン時代からの盟友だったウィリアムズさんが30年ぶりに日本を訪れ、舞台上で感動の握手を交わしたこと、10歳の時に『E.T.』を観た少年が、41年後にその作曲者の前で『E.T.』のフライング・テーマの指揮をしたこと、などなど、音楽と人生の素晴らしさの感動を多くの人々に与えた今回のコンサートのエピソードは、長く語り継がれていくのだと思います。
 
 スズキ・メソードにも、長く語り継がれ、本会の力の源泉となっているエピソードがたくさんあります。今後も、語り継がれるエピソードを新たに作り続けられるスズキでありますように。
文・写真:早野龍五