一般公開プログラム  9月26日(木)14:45 ~ 16:15
佐々木司先生講演会「思春期のこころ」 

 
  東京大学大学院教授で精神科専門医、医学博士の佐々木司先生は、スズキ・メソードの会員限定Webマガジン「Fluitful」での「親子で考える思春期のこころ」の連載記事でお読みになられている方も多いでしょう。すでにその連載は7回を数えています。
 
  まず、佐々木先生はご自身の紹介からお話をされました。スズキ・メソード鎌倉支部の大塚雪子先生に7歳から高校生までヴァイオリンを学ばれたのですが、小学生時代は、特に練習熱心ではない生徒でいらしたとのこと。6年生の後半は中学受験で一時レッスンを中断されましたが、当時の悩みはヴィヴァルディのa-mollの第1楽章に2年以上かかっても仕上がらなかったこと、そして4/4サイズになったものの、練習をしなかったため、裏板が剥がれてしまったことなど、悩み多き時代を過ごされました。
 
 そんな佐々木少年にも転機が訪れたのは、中学2年の時。面倒見のいい先輩がいたこと、そして大塚先生クラスの仲間がいたことで、オーケストラで弾くことの楽しさ、誇らしさを感じるまでに。一方で、再開したレッスンでは小さいお子さんに抜かれる焦りもあったと言います。でもこの時の佐々木少年は、そうした楽しさも焦りも、どちらも練習の動機づけにつながったと感じたこと。ポジティブシンキングですね、これは。
 
  大学受験で退会される頃には、モーツァルトの協奏曲第5番が最後のレッスン曲。その後、何十年も経て、コロナの時代に時間に余裕ができ、スズキに再入会。現在は、昔と同じ鎌倉支部で、ヴァイオリンレッスンをお孫さんと一緒に楽しまれています。「大人のスズキ」を実践されておられるとのこと、素敵ですね。
 
  思春期とは、10歳頃から10代前半に始まり、体格の成長にともない、心身ともに大人への第一歩を歩み出す時期です。思考の特徴、対人関係、心の支えが大きく変化する時期でもあります。「パパ・ママの良い子」から友だち関係に心の拠り所が変わります。佐々木先生は、この時代の最も重要なこととして、仲間から認められること、と断言されました。仲間に賞賛される「格好いいこと」や「特別なメンバーとして認められること」が大切とのことです。佐々木少年にとっては、ヴァイオリンを弾けることがその大きな取り柄となり、誇らしいことに思えるようになったというのです。
 
 そうしたご自身の体験から、「思春期はレッスンの危機?」の問いかけには、中学時代は、勉強が忙しくなること、部活動に夢中になり忙しいこと、親や身内への反発心があることなどを原因にレッスンをやめてしまうケース(友人やお子さんの事例)をあげ、「とてももったいないこと」と話されました。楽器演奏は気分転換など、人生や仕事に役に立つことが多いから、仲間と楽しむ機会をぜひ設けて欲しいというのが佐々木先生のご経験からのお話です。
 
 思春期に見られるメンタルの病気についても、各種資料やデータをもとに、様々なお話をいただきましたが、最後に思春期のこころを守る工夫として次の4点について、詳しくお話しいただきました。
・十分で規則的な睡眠(&休養)をとる
・運動不足の予防
・気分転換の手段があること
・仲間がいること・居場所があること(孤立・孤独を防ぐ)
 
 日本人は、諸外国と比べても思春期の子どもたちの睡眠時間は6〜6.5時間と極端に少ないとのことです(大人も少ないです!)。大谷翔平さんの10時間、話題のピアニストで指揮者の反田恭平さんが11時間の睡眠をとることなどの事例を上げながら、うつや不安のリスクの高さとの関係を説かれました。そして、しっかり眠る方が勉強も楽器演奏も身につくと断言されました。さらに、ゲームに集中することのマイナスを挙げられ、中高生なら毎日1時間程度の息が弾む程度の運動を推奨されました。気分転換となる楽器演奏はとてもいいことだそうです。ご自身も大学受験時にヴァイオリンを気分転換で弾いたことで、気分スッキリと勉強に集中することができた、とお話しされました。
 
 今回の講演を通して、誰もが通過してきた思春期のありようを現在の子どもたちの環境の中でしっかり観察し、フィットするような形で寄り添うことの大切さを学ぶことができました。
 
※本公演の動画は、以下のリンクから、10月31日までご覧いただけます。