次に、7月30日の朝のおけいこ相談会の内容を紹介しましょう。
7つのご相談にお答えしました。
ここでは、ピアノ科として集めたご相談ごとについて、以下のベテラン指導者たちが、それぞれの豊富な実例をもとにアドバイスをしてくださいました。
・三谷紀子先生(関東地区ピアノ科指導者)
・鈴木祐子先生(関東地区ピアノ科指導者)
・荒井美紀子先生(北陸越地区ピアノ科指導者)
司会進行は、業務執行理事で、関西地区ピアノ科指導者の西田加奈子先生が担当されました。
ご相談①
保育園ではきちんとしているそうなのですが、レッスンに行くと母親に甘えてしまって、 レッスンになかなか集中できません。親が教室に入らない方が集中できるような気がするのですが、先生に言っても、「そのうち集中できるようになりますから、親子で受けてください」と言われます。みなさん、そういうものなのでしょうか。
三谷
鈴木
年少男子の生徒ですが、親は廊下から、ガラス張りのドア越しにレッスンを見て、聞くというやり方を3回ほど取り入れたことがあります。見てくれている安心感と、逆に、離れたことで良いところを見せようと張り切ってレッスンを受けていましたね。レッスンの空気を変える一つの方法として、良かったと思います。ただし、離れていても、レッスン内容を見ることができる状況を作っておくことは大切です。
荒井
西田
先生方、ありがとうございます。「あるある」のご経験からいろいろとお話をいただきました。ぜひ受け持ちの先生とご相談していただければと思います。では、次の質問は、卒業録音を提出した経験のない方からのご相談です。
ご相談②
気分にムラがあり、練習回数を少なくしたり、1巻の曲を省いたり、自己流にサボるときがあります。ピアノが嫌いになっても困るので無理強いはさせておりませんが、できれば毎日継続して練習してもらいたいです。良い声掛け方法があれば教えてください。
荒井
ご質問のお母様、本当にがんばっていらっしゃる姿がよく伝わってきます。気分にムラがあるというのは、私も母親としてずいぶん経験しましたが、子どもだけではなく親の側にもあるように思います。私の場合、毎日の中できちんとした時間設定をするよりも、「今日、ピアノ弾いたかなぁ?」と声をかけたこともありました。宝くじカードを親子で作ってみて、復習曲を楽しむのも一つの方法ですね。くじの形態もあみだくじにしてみたり、目先を変えるのも有効です。ホームコンサートをやってみるのもいいですね。
三谷
気分にむらがある、サボりたがるのは、どのお子さんにも必ずあることです。鈴木先生は、いつもレッスンに遊び心を入れていらっしゃいました。そのため、子どもたちは楽しく目を輝かせて、弾いていましたね。私のレッスンでは、大人数で行なう「ドンじゃんけん」など取り入れています。また、おうちでは、ぬいぐるみをお客さんにしてコンサートをしてみてはどうでしょう。この時期、子どもは許されること、許されないことの尺度を作る時期なので、親御さんは自己主張とわがままの判断をしていつも心を平らにして、ぶれないことが大切です。
鈴木
サイコロを作ってもらって、サイコロを振ったときの数字でこの曲を弾いてみよう、というようにして、6面ありますから、それをいいことに6回弾いてしまうこともアイデアだと思います。
西田
次の質問は、前期初等科の方からのご相談です。
ご相談③
練習しているのを聞いていて、黙っていようとしても、横でつい声を荒げてしまいます。親である私の力不足であることは承知しています。私自身にとってまるで修行のように感じることがあります。
鈴木
荒井
私も黙っていようと思っても、いっぱい声をかけてしまうことが何度もありました。黙っていられないんですね。ですので、忍耐とか我慢がつきものなのは、よくわかります。その中で、先生から言われたことを1週間で全部できるようになるのは大変だとしても、一つでも二つでもできたことを積み重ねていただくこと、これが大切に思います。
三谷
もし、お母さまがお料理をしている最中に口を挟まれたら、どうでしょうか。「うるさい、黙ってて」と思われるでしょう。でも、作ったカレーをご家族が「おいしい」と喜んで食べてくれたなら「もっと美味しく作ろう」と思われると思います。これと一緒です。自分が言われて嫌なことはなるべく言わないようにしましょう。上手に弾けたことより、がんばって弾いたことをほめると良いでしょう。鈴木先生は、「親の笑顔は子の笑顔」。まずは、お母さんが笑顔になるお稽古をしてください、と、おっしゃっていました。
西田
次の質問は、前期初等科を卒業された方からのご相談です。
ご相談④
指使いが自己流で毎回違う指になってしまい、練習をしていてもどこかで必ず止まってしまいます。練習している時に声掛けしても直らず、何か良い声掛けや練習の仕方などないでしょうか。
鈴木
指使いは、指導者にとっても永遠の課題です。指使いが自己流・フリーになってしまう生徒は、音を耳でとらえることができている子が多いですね。声掛けとしては、弾いているその瞬間は良いが、次が弾けない、メロディが繋がらないなど困ってしまうので、今弾いている音の未来のためにも指使いに目を向けましょう。私の生徒の事例ですが、自由奔放な性格でフリーな指使いがなかなか直らなかった生徒が、高1になり、モーツァルトのソナタを勉強している時に「先生!モーツァルトって、指使いちゃんとしないと弾けないんだね」とコメント。ようやくわかってくれたかと・・・。本人が納得すれば直すことができます。なかなか大変ですが、じっと待つことも大切だと痛感しました。
三谷
私のクラスにも音楽の全体像をとらえるのは上手ですが、指使いがなかなか正しく弾けない生徒がいます。音楽も、一つずつの言葉が連なり、文章となり、点や丸があります。たとえば、指使いが正しくないと、「僕はがっ、こうへい、きまし、た」のようになってしまいます。それを感じられるようになると、自分の表現したことを伝えるためには指使いが大切だとわかってきますね。フレーズを区切って練習したり、指の区切りをひとまとめにして練習することも効果的ですね。
荒井
不思議な指使いでとても素敵に演奏される生徒さん、いますね。そして、きちんとできたのに、翌週に復習曲として弾いてもらうと、とんでもない指使いになっている生徒さんもいます。ピアノは、弦楽器と違って小さい時から大人のサイズです。ですから、それに立ち向かう厳しさはありますね。書いてある指使いは音楽が流れてゆくのに必要ですし、書いていないところはどういう指使いをするか、考えていきます。間違った指使いにならないよう、100回を目標に部分練習はよくやっています。たくさん繰り返すと、指は自然に動くようなるんですね。
三谷
子どものころ間違えた指使いが今でも出てしまうことがあります。恐ろしいことですよね(笑)。やはり正しい指使いを繰り返すことです。
西田
ありがとうございます。次の質問は、前期中等科の方からのご相談です。
ご相談⑤
今の小学生は、とても忙しく、ピアノにじっくりと向き合う時間があまりとれません。 ピアノが好きでいるので、ピアノによって他のやるべきことまで手薄になるのではと不安です。日々、気持ちよく純粋な気持ちで、 ピアノと向き合いたいです。やはり時間がありません。ピアノの練習は時間がかかりすぎます。何か良い工夫、質の良い練習はありますか?
三谷
今オンラインでご覧になっていらっしゃる方も「そうそう!」と、共感なさっていらっしゃると思います。そのくらい、おけいこ時間の確保は小学生から上の年齢の生徒さんの共通の課題ですね。いろいろなものが手に入るようになった現在、学校から帰宅し、寝るまでのわずかな時間で、取捨選択し、それらをこなさくてはならないことは、至難の業です。それもニコニコ行なうのは大変なことだなと思います。
9つまでの「つ」つく年齢と「10」からの「つ」がつかなくなる年齢では、大きく勉強の仕方が変わる時です。その準備もかねて、毎日あれもこれもと思わないことです。お子さんと一緒に計画を立てながら実行していくことで、親離れの練習にもなります。練習時間がたとえ短くても、毎日必ず練習することは、大きな力にもなります。どこかの曜日で、ピアノをゆっくり練習する日を作るのも良い方法です。
ピアノがお好きなようですので、そういう時間は、お子さんにとっても大切な時間となるでしょう。鈴木先生は、たとえ話として、「記憶というのは、脳に傷をつけるようなもの」と、おっしゃっていました。「人は、自然治癒力があるので、その傷をなおそうとする。だから元に戻る前に練習して、記憶を定着させる必要がある」と、おっしゃっていました。子どもは、想像以上に吸収力もあるので、計画的な練習をこのあたりから始めていただきたいと思います。
鈴木
短時間の5分でもいいと思います。積み重ねが大切ですね。受験期に休むことがなかった生徒が話していたことですが、「勉強とピアノは別物として存在しています。それを両立させようと思うから大変になる」。説得力がありましたね。
荒井
お子さんの「ピアノが大好き」という部分を大切にしたいですね。たとえば、今日は短い時間でもいいし、別の日には「どうぞ好きなだけ弾いて」という日があってもいいでしょう。昔の生徒さんたちが何組もお子さんと私の教室に来ています。どの方も、フルタイムで働いているお母さんたちですから、「大変でしょう?」と聞くと、「先生、全然大変じゃないです。親子でピアノに向き合う時間を1日の中で決めているんです」と言います。そういう進め方もありますね。私の場合、子どもたちが楽器にさわれなかったときは、「楽器にご挨拶をして寝ましょう」と言ったこともあります。
三谷
自分の子育ての時もそうでしたが、中学受験などが近づいてくると、ますます自分自身がおろおろして子どもに負担をかけてしまった経験があり、反省しています。お母さまがゆったりと構え、落ち着いて、普段の生活のペースを崩さないご家庭のお子さんは、時間の使い方が上手なように思います。親として、心の余白を持たせたらいかがでしょうか。
鈴木
一つ思い出しました。あるお母さんは「ピアノのお稽古をするときが、唯一子供と一緒にいられる時間なんです」とおっしゃっていました。なるほどなぁと思いましたね。
ご相談⑥
忙しい生活の中、CDはどのくらい、どのように聴かせるのが効果的でしょうか。
荒井
私の住んでいるのは地方都市ですので、車の利用が多いんです。あるとき、「CD聴いている?』と聞くと、「聴いているよ、車の中で〜」という答えばかりでした。
鈴木
初歩のうちは、門構えの「聞く」でもかなわないと思います、ご質問されている保護者の方からは、真面目に、次のレッスンまでに良くしたいという気持ちが伝わってきます。レッスンの計画をお子さんと立ててみる、一日一つでもOK。大切なのは、演奏の途中で注意したり、止めたりせず最後まで聞きます。「どうだった?」と声掛けしてみるのも有効です。子どもが自分の演奏を判断することで自立へも繋がりますから。東 誠三先生も、最初は「聞く」で曲の様子を知ることで良い。その後、進度が進んだら「聴く」に変えていくと、おっしゃっていました。親は「聴かせる」ということではなく、「私が聞きたいからかけているのよ」という立ち位置にいることが望ましいと思います。
三谷
商店街で流れる歌や駅のアナウンスのように、知らず知らずのうちに覚えてしまう、これが母語教育の基本だと思います。いま、CDプレイヤーのないお宅も多いと思いますが、携帯に入れた音源でも、ブルートゥースで良いスピーカーで聴くことをお勧めします。
西田
ありがとうございます。それでは、最後のご相談になりますが、前期高等科を卒業された方からです。
ご相談⑦
思春期になり、親がいろいろアドバイスすると、「自分で管理するから言わないで欲しい」と干渉するたびに険悪になってしまうことがあります。 そのような時期は、見守るだけで良いのかとても悩みます。言わないと練習しないことも多いです。
三谷
子離れ、親離れ、自立の第1歩ととらえて、見守ることで、自分で考えて練習メニューをたてたり、練習の大切さを知ったりすることができると思います。「親」という字は、木の上に立って見ると書きますが、口を出さずに見守っていただけるのが、一番良いかと思います。
鈴木
この時期の生徒・保護者・指導者のトライアングルは、生徒と指導者の結びを強くし、保護者の方へは見守っていただくことを強めても良いのではないでしょうか。ただし、指導者と保護者で、お子さんの様子については、共有できるようにしていただく。生徒から学んだ一言ですが、「やめる理由がないなら、やめる必要はない」という哲学的な名言がありました。その通りだと思いますのでお伝えしておきます。
西田
ありがとうございます。今日はたくさんのご共感をいただきながら、聞いていただくことができました。指導者としても教わることの多い時間でした。これからも皆様、がんばっておけいこを続けていただけたらと思います。先生方、ありがとうございました。