さまざまな角度から、スズキ・メソードを紐解いています。
イギリスで1890年(!)に創刊された大変に歴史のある弦楽器専門誌『The Strad』の9月号で、"SUZUKI SPECIAL"として、スズキ・メソードが大きく特集されました。
編集者による前書きでは、「スズキ・メソードは、世界中で比類なき人気を博してきました。ロボットのように大量の人数で演奏をしたり、読譜などの基本的な技術を軽視していると非難されることもありましたが、現在では、その哲学に真の欠陥があるというよりも、誤解の犠牲になっているだけで、合法的で成功した教育システムとして受け入れられています。スズキの根底にあるのは、音楽を作ることへの愛であり、両親や家族を学習プロセスに組み入れていることであり、すべての子どもには才能があるという平等主義的な信念であることは疑う余地がありません」と書かれ、興味ある内容が続きます。
さて、どんな内容が掲載されているのでしょうか。
チェリストであり、ライターとしても活躍するサマラ・ギンズバーズは、「どの子も育つ」の記事で、過去と現在の指導者や生徒に、スズキ・メソードの経験とその根強い人気について、精力的にインタビューしています。
「スズキ・メソードの前提は、子どもたちが成功するようなポジティブな経験を作ることです。スズキの子どもたちは、みんながサポートしてくれる環境で育ちます。また、何かのスキルに悩んでいるときには、そのスキルを達成できるところまで分解して、それをまた積み上げていきます」。
また、記事の中に挿入された、スズキ出身のヴァイオリニスト、ヒラリー・ハーンへのインタビューでは、ヒラリーは「スズキは、私の音楽との関係の種まきのようなものでした。最近、指導曲集の第1巻〜第3巻まで録音をしたことで、作品をもう一度見直すことができた経験は、本当に素晴らしいものでした。奏法が徐々に加わっていく様子など、今まで気づかなかったことがたくさんありました。生徒のレベルを意識して演奏することを心がけましたし、自分の演奏でありながら、より親しみやすく、シンプルな演奏を心がけ、生徒に直接語りかけるようにしました。すべての生徒のことを考え、レコーディングがどのように役立つかを考えることは、とても有意義な経験でした」と語っています。
イギリスのスズキ・メソードのヴァイオリン科指導者、ヘレン・ブルーナー先生は、1967年にニューヨークで聴いた子どもたちの演奏に衝撃を受け、それ以来、自身の人生の使命が、スズキの音に対するアプローチの背後にある哲学を理解し、その音を自分で教える方法を学ぶことになったと言います。そして松本での鈴木鎮一先生から受けたレッスンによって、音がみるみる変化したことの思い出を語っています。さらに、パンデミックの時代でも、スズキ・メソードがかつてないほどの人気を博しており、世界中の親たちが子どもたちの可能性についてのメッセージをレッスンから受け取っているとレポートしています。
アメリカのティーチャートレーナーのエドワード・クリートマン先生は、鈴木鎮一先生から受けたひと夏のレッスンで、知識だけでは能力にならないが、知識に1万回の反復を加えたものが能力になることを体得。スズキの生徒たちは、学んだ技術を常に発展させ、復習することで、簡単に、そして自信を持って演奏できるようになることを見抜かれ、現在に至るまで、指導に役立てていらっしゃいます。
また、昨年末に亡くなられたアメリカスズキ協会初代会長のウィリアム・スター先生による1998年12月の記事が再掲載されています。そこでは、スズキ・メソードが母語教育で成り立つ革命的なアイデアであること、そして親の役割の大切さを語っています。また、鈴木鎮一先生が、優れた音楽家を育てるよりも、音楽を通じて人間としての尊厳を育むことにも関心を持っていたことを伝えています。
ということで、世界でスズキ・メソードがどのように見られているかを、老舗の弦楽専門誌から見てみるのは、とても面白い体験になりました。おすすめです。
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