世界的な弦楽器専門誌で取り上げられた、鈴木鎮一

 
 1986年の創刊以来、弦楽器を取り巻く活気あるコミュニティから、編集者や専門家の寄稿者がストーリーを共有するアメリカの弦楽器専門誌「Strings」9-10月号では、鈴木先生の10月17日の誕生日に合わせて、トーマス・メイさんが執筆された記事を掲載。タイトルは「鈴木鎮一が残した不滅の強さ」です。
 

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 冒頭から、「鈴木鎮一が亡くなって4半世紀が経つが、彼の名を冠したメソードの世界的なサクセスストーリーは色褪せる気配がない」と言い切っています。そして、子どもたちが本来持っている創造性やコミュニケーション能力を育む手段を提供することが、将来の社会的調和を促すというスズキのビジョンは、二極化が激化している現代において、これまで以上に共鳴を呼んでいるようだと看破。

 執筆に際して著者は、世界的に知られるパトリシア・デルコールさんをウィスコンシン大学スティーブンスポイント校にあるアメリカン・スズキ・インスティテュートに訪れ、インタビューをしています。「スズキがアメリカで弦楽器演奏のためにしてきたことを見て、私は彼に共感し始めたのです。たとえ自分が最高の奏者でなくても、最高の指導者になろうと誓いました」というデルコールさんの話は、体験に裏打ちされた、とても理解できる話です。
 
 その思いは、マンスリースズキ2022年11月号でも紹介した、NY在住の歴史研究者、堀田江理さんによる著書"Suzuki: The Man and His Dream to Teach the Children of the World " で指摘されている主要なポイント、すなわち「スズキ・メソードは、ヴァイオリン・トレーニングのテクニックをはるかに超えた哲学に根ざしていた」点に一致していると著者は言います。「スズキ・メソードはヴァイオリンの教育ではない。ヴァイオリンによる教育である」という鈴木先生の言葉も紹介されています。
 
 記事では、鈴木先生の生涯にも簡単に触れ、鈴木哲学が生まれてゆく過程を紹介しています。そしてヴァイオリニストしての世界的な成功を収めたレイラ・ジョセフォヴィッチからは、「一般的にヴァイオリンの練習は、とても孤独な体験になりがちです。だから、最初から人々を結びつけるスズキ・メソードは貴重なのです」と聞き、さらに同様にアン・アキコ・マイヤーズからは、松本で直接会った鈴木先生の思い出を聞き出しています。
 
 著者は、最後にデルコールさんの「スズキ哲学による恩恵は音楽の領域を超え、地域社会に変化をもたらす」という確信を紹介し、さらに、最後には「音楽でプロ生活を送らない元生徒でさえ、何をするにしても、その "高貴な性格 "を持ち続けるのです」と記しています。力が湧いてくるメッセージですね。
 
 英文ですが、ぜひ全文をお読みください。
 なお、鈴木先生がドイツ留学の際にドイツ・グラモフォンで録音されたフランクのヴァイオリン・ソナタより第1楽章が紹介されています。貴重な音源ですので、こちらもお楽しみに。