オーストラリアのスズキ協会に、寺田義彦先生がリモート・プレゼンテーション
関東地区チェロ科指導者の寺田義彦先生からのレポートが届きました。
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8月14日(日)、メルボルン(オーストラリア・ヴィクトリア州)に本拠地があるスズキ協会” Suzuki Music”より依頼を受けて、同協会主催の2022 Professional Development(指導者育成プログラム)にて、リモートによるプレゼンテーションを東京より行ないました。各国のタイムゾーンの事情から、開催日時はそれぞれ異なります。
私は2000年1月にメルボルンで開催されたSuzuki Summer Festivalに招かれて以来、何年かごとに協会から相談を受けて、お手伝いしております。
当日、進行Moderatorを務めてくださったのは、本会機関誌にて「鈴木鎭一先生の思い出」連載のロイス・シェパード先生でした。先生とは始まる前に日本語でご挨拶できました!
今回は「チェロ指導曲集第2巻以上の芸術的観点からの指導ポイント‘Teaching points of the Suzuki cello repertoire from an artistic perspective, over Book 2’」と題して、プレゼンテーションを行ないました。
プレゼンテーションの冒頭で、スズキ・メソードの創始者、鈴木鎮一(英語圏ではたくさんの名誉博士号を授与されているためDoctor Suzukiと敬称で呼ばれます)がドイツ・ベルリンにてヴァイオリンを学ばれた今から100年前頃、彼の地で出版され、人気を博した「古典名曲集(ブリュメスター編)」を紹介しました。その中の小品のいくつかが、Suzuki Violin Bookに学習曲として採用されている事実を説明しました(これは海外でも指摘されています)。後にSuzuki Cello Bookが生まれる際、Suzuki Violin Bookの指導曲のいくつかが、チェロ指導曲としても使われるようになりました。
このような普遍的な価値を持つヴァイオリン楽曲をチェロで演奏の場合、中低音を主とする音域から、注意しないと聴衆に「カバが踊る」印象を与えかねません。1940年のディズニー映画「ファンタジア」の「時の踊り」をご存じの方はわかってくださるでしょう。
私は指導曲お手本のCDを繰り返し聴くこととはもちろん、第2巻からの指導には次の点を生徒さんに必ず説明しており、かつ大切にしています。
<楽曲の様式 The musical style>
<フレーズの分析 Phrase analysis>
<リズムと音符の持つ性格 Rhythm and character of notes>
プレゼンテーションのすべてをここでご覧に入れることはできませんが、いくつかのスライドと説明を取り出して、ご紹介しましょう。
■狩人の合唱(ウェーバー)
冒頭の第2音と第3音は同じ高さの音であり、我々弓で弦を擦って音を出す楽器は注意しないとリズム感が生じません。楽譜には何も記載されていませんが、緑のカンマ部分では弓を一瞬停めるべきです。原曲の前奏を担う管楽器は、この4つの16分音符メロディをスラー無しで演奏します。
また緑の星で囲った音はフレーズの終わりであり、強調せず、次のフレーズの頭の音を生かします。
■ミュゼット(バッハ)
弓使用部分を変えることで自然なdiminuendoを表現できます。
■ガヴォット(ゴセック)
この緑の星部分を無邪気に大きく弾く生徒さんをよく見かけます。まるでお相撲力士の「ヨイショ!」との四股踏みを連想させることは厳禁ですね。
■メヌエット
大きく振りかぶるのではなく、小さい足さばきによる3拍子の踊りが特徴です。
基本は6拍で1フレーズです。次のボッケリーニのメヌエット冒頭に同じ高さで異なるリズムの音が並ぶため、分けて表現しなくてはなりません。
ベートヴェンのメヌエットも6拍1フレーズであり、冒頭の黄色部分と赤部分では弓の使用部分に注意しないと、後者の赤部分が萎んだ表現になります。緑の星の音はフレーズの終わりなので、強く弾くことや2拍目まで伸ばすと「優雅 grazia」を失います。開放弦のため要注意です。
■スケルツォ(ウェブスター)
以上を90分間の枠内に収めて、私のプレゼンテーションを終えました。
終了後にロイス・シェパード先生からご感想のメールを頂戴して、指導曲参考資料情報の交換を続けました。
今回の主催側責任者、Rosemary Fullerさんから、次の御礼メールを頂戴しました。
「今年のオンラインプレゼンテーションにご参加いただき、誠にありがとうございました。パンデミックの中、テクノロジーのおかげでこのようなことを続けられるのは幸いです!」
Thank you for being a part of our online presentations this year. We are fortunate that technology allows these sorts of things to continue amid the pandemic!
Kind regards
Rosemary
Rosemary Fuller
Events Coordinator, Suzuki Music
たしかに「窮すれば通ず」であり、ここ数年の試行錯誤から、対面でなくてもできることが増えました。
「私の拙い英語を駆使してのプレゼンテーションでしたが、ご参加の皆様に少しでもお役に立てることがあれば、嬉しく思います。こちらこそ、機会を与えてくださったことに感謝します」とRosemary Fullerさんにお送りしました。
以上、報告でした。