ドイツ・ベルリンで活躍する音楽家による室内楽コンサートが
北海道鶴居村と東京都文京区で開催されました。
1996年にベルリンに移住され、スズキ・メソードの指導者として今や、ドイツ・スズキ協会副会長並びにベルリン支部会長を務めておられるナイダム・星野羊子先生が出演される室内楽コンサートの東京公演があると聞き、10月4日、文京シビックホール小ホールにお邪魔しました。
この日のプログラムは、今回の室内楽ユニット「アンペルマン室内アンサンブル」ならではの、コントラバスを中心とした選曲で、ユニークな作品ばかり。演奏曲は以下の通りです。
・G.ロッシーニ:弦楽のためのソナタ第2番イ長調
・R.グリエール:ヴィオラとコントラバスのための5つの小曲
・G.ロッシーニ:デュエット
・F.シューベルト:ピアノ五重奏曲イ長調「鱒」Op.114, D.667
・高橋幸代:Berlin1920's
前半は珍しい編成の作品で、G.ロッシーニ作曲のコントラバスの入った弦楽四重奏のソナタ、R.グリエールのヴィオラとコントラバスに編曲された5つの小品、G.ロッシーニのチェロとコントラバスの2重奏曲。後半はF.シューベルトのピアノ5重奏曲「鱒」、最後に高橋幸代さんの 「Berlin 1920´s」というプログラム。羊子先生が出演されたのは、ロッシーニとシューベルト、そしてBerlin 1920´sの3曲でした。羊子先生の音は、細かい音符まで輪郭が明晰で、かつ歌い上げるフレーズの音の美しさも格別。音楽表現の構築性の高さも随所に感じられました。
会場にお見えになられていた高橋幸代さんの作品「Berlin 1920´s」は、第2次世界大戦以前の大都会ベルリンでサロンコンサート、オペレッタ、キャバレー、カフェなどが全盛だった時代をモチーフにされていました。その時代の華やかな雰囲気が描かれた作品ということで、鈴木鎮一先生がベルリンに留学されていた1920年代の音楽シーンをイメージさせるに十分な、興味深い作品でした。
奏者は、以下の皆さんです。
アンペルマン室内アンサンブル
高橋 徹(音楽監督・コントラバス)
高橋礼子(ピアノ)
ナイダム・星野羊子(ヴァイオリン)
カタリーナ・ラオフォ(ヴィオラ)
ティル・ミュンクラー(チェロ)
羊子先生によれば、コントラバスの高橋徹さんは、1980年代に山本眞嗣先生が引率されたスズキ・メソードの子どもたちがDDR(東ドイツ)ツアーにいらした際、賛助出演で全ツアーを一緒に廻られたという縁があったそうです。また、ヴィオラのカタリーナさんは、イタリアでスズキ・メソードに感銘を受け、現在指導者講習を受講しているとのこと。スズキ・メソードにご縁がある方々との共演と聞いて、こちらも嬉しくなります。DDR(東ドイツ)ツアーについては、10月号のマンスリースズキでも取り上げています。
ところで、「アンペルマン」とは、なんだと思われますか? 実は、旧東ドイツの歩行者用信号機のキャラクターで、統一ベルリンのシンボルとしても親しまれているものです。そのアンペルマン信号機が、2018年4月、発祥地のベルリン市ミッテ区より、文京区に寄贈されました。ミッテ区は、文京区ゆかりの文豪、森鷗外が過ごした地ですので、鷗外の縁で、今回の寄贈が実現。ドイツとの交流を持つ文京区で室内楽コンサートが開催されることになりました。ここで紹介のアンサンブルのロゴも、この信号機のシルエットが効果的に使われています。
「アンペルマン室内アンサンブル」の音楽監督であり、コントラバス奏者の高橋徹さんは、14歳からコントラバスを東京藝術大学名誉教授永島義男氏に師事され、1980年、20歳になった時に、高校時代にカラヤン指揮ベルリン・フィル来日の際に弟子入りしたコントラバス首席奏者F.ヴィット氏に薫陶を受けるためベルリンへ。以来、これまで38年間在住される中で、ベルリン・フィル、ベルリン交響楽団、ハンブルグ交響楽団、コンチェルトハウス管弦楽団などで演奏する傍らベルリン室内歌劇場、カンマーフィルハーモニーの首席奏者を経て、現在はコレルリ合奏団、ベルリン・オルフェウスアンサンブル、新ポツダム管弦楽団首席奏者として活躍されています。
病院コンサートでの様子 今回のツアーでは、北海道鶴居村でも公演が実現しました。音楽監督の高橋徹さんが、鶴居村に移住された押味和夫医師とのご縁から、一連のコンサートツアーが企画されたのです。
・9月27日 鶴居養生邑病院コンサート 100人のお年寄りを対象
・9月28日 鶴居小学校体育館コンサート 村内の小学3〜6年生120人を対象
・9月29日 鶴居村総合センターホールにてコンサート
・9月30日 ヒッコリーウィンド・ギャラリーコンサート
・10月3日 文京区ベルリン室内楽コンサート(文京シビックホール小ホール)
・10月4日 文京区ベルリン室内楽コンサート(文京シビックホール小ホール)
鶴居村では、ロッシーニの作品を使って、それぞれの楽器で個別に旋律を演奏し、それらがアンサンブルをした時にどのような響きになるかについても実演。大変な喝采を浴びました。東京公演では、主宰する高橋徹さんのトークをふんだんに織り交ぜながらの公演となり、終始和やかな公演となりました。
羊子先生から、ご感想をいただきましたので、紹介しましょう。
本当にたくさんの方々にご協力をいただき、一連のツアーを実現することができました。この場を借りて、お礼を申し上げます。
コンサートは共演者とお客様が音楽を共有し、皆でその時だけの特別な空間を作るものと感じました 鶴居養生邑病院では、たくさんのお年寄りの方々が1時間も前からコンサートをするお部屋で待っていてくださって、コンサートでは何度も何度も大きな拍手をいただきました。鶴居小学校では、遠藤浩一校長先生を始め、先生方のご協力で、村の全3校から120人の3〜6年生の子どもたちが集まって、一生懸命聴いてくれました。弦楽器を弾いた経験のない子がほとんどでしたが、コンサート後に「このコンサートを聴いて、ぜひ弾いてみたいと思った人は?」の質問にはほぼ全員が手を挙げてくれました。
鶴居村総合センターホールでのコンサートは14時開演でしたが、午前10時にリハーサルに行くと、ロビーにはすでに30名以上の方々が集まって用意・打ち合わせをしていてくださいました。鶴居村の人口は2500人、晴天の午後のコンサートには350人以上のご来場で満員立見の方が出てしまいました。翌日のギャラリーでのコンサートにもたくさんのお客様がいらしてくださり、すでに一度聴いてくださって二度目という方も何人もいらっしゃいました。
水曜日の夜に釧路空港に到着し、日曜日に台風の去った直後の釧路空港をまた出発するまで、温かくお世話いただき、いつまでも心に残る演奏旅行となりました。
文京シビックホールでのコンサートは、森鴎外の縁で繋がる文京区とベルリン・ミッテ区が友好交流に基づいて自治体のご協力により実現しました。連日、たくさんのお客様に聴いていただくことができました。
演奏後、多くのお客様から『音』が印象的だったと伝えてくださり、嬉しく、また勉強を続ける勇気をいただきました。
コンサート後にわかったことですが、文京シビックホールは旧文京公会堂時代の1961年にカザルス氏がスズキの子どもたちの演奏を聴かれて、あの感動のメッセージ「やがて音楽は世界を救うであろう」とお話をされた場所でした。そのような歴史的な場所で演奏ができたことに胸が熱くなりました。
最後に、星野羊子先生のプロフィールです。
ナイダム・星野 羊子
ヤマハ・ピアノ調律技術師の父とスズキ・メソード指導者の母(編集部註:星野聖子先生)のもとに生まれ、3歳年上の兄(編集部註:星野誠先生)の弾くヴァイオリンに憧れて、生後9ヵ月からヴァイオリンとともに育つ。竹田由起子、宮澤進、二村英之各氏に師事し、東京音楽大学を卒業。ベルリン近郊での豊田耕兒先生のマスターコースを二度受講。1996年にドイツ・ベルリンに移住し、ベルリン芸術大学講師のBéla Papp 氏の下で勉強を続けるうちに『音』の世界に惹かれ、Kerstin Wartberg氏のもとでスズキ・メソード指導者講習を受け、指導者に認定された。その後、クリストフ・ボッスワ先生監督の下で、ティーチャー・トレイナーになるための研修を始め、ベルギーのクン・レンツ先生、ポーランドのアンナ・ポダイシュカ先生にも指導法を学び、2018年にESA(ヨーロッパ・スズキ協会)のティーチャートレイナーとして認定された。現在は、スズキ・メソードの指導者としてドイツ・スズキ協会副会長並びにベルリン支部会長を務め、ヨーロッパ各地にて子どもたちと指導者の指導をし、勉強を続けている。またBéla Papp氏率いるコレルリ合奏団の第2ソリストとして演奏する他、室内楽を中心とした演奏活動を行なっている。