大府市道徳副教材に鈴木政吉さん、竹澤恭子さんが登場

 マンスリースズキでは、鈴木バイオリン製造の創業者、鈴木政吉さんと愛知県大府市との大きなご縁をここ数年、紹介してきました。
・大府市歴史民族資料館での特別展告知
・特別展内容の紹介
・「鈴木政吉と大府」レクチャーコンサート紹介
・大府市 鈴木政吉銅像制作開始のニュース
・大府市 鈴木政吉銅像除幕式
小学校版 これだけでも、大府市と鈴木政吉との深い関係がわかりますが、さらに、大府市は、市内の小学校3年生から中学校3年生までが使う道徳の副教材として、大府市独自の副読本「大府市にゆかりのある人」を作成。この9月からの授業で活用しています。これは、平成30年度よりスタートした道徳の教科化(特別の教科「道徳」)に伴い、教科書を中心に授業が展開されることになりましたが、地域に根ざした教材があまり扱われていないことから、独自の副読本作成という意欲的な展開になったというわけです。
1学年で1人(合計7人)、大府市にゆかりのある人の生き方・考え方を学びます。
・小学3年 巨峰作りの道を拓いた早川進三さん
・小学4年 愛知用水の生みの親 濵島辰雄さん
・小学5年 レスリング世界大会で16連覇の吉田沙保里さん
・小学6年 鈴木バイオリン製造の創業者 鈴木政吉さん
中学校版・中学1年 世界で活躍するヴァイオリニスト 竹澤恭子さん
・中学2年 世界に衝撃を与えた数学者 永田雅宜さん
・中学3年 大倉公園の生みの親 大倉和親さん

 小学6年生は、鈴木政吉さんの「前向きに生きる 」姿勢をテーマに、「よりよく生きる喜び」について、学ぶことになります。さらに嬉しいことに、大府市で生まれ、スズキ・メソードで育ち、世界に羽ばたいたヴァイオリニストで、大府市広報大使を務める竹澤恭子さんも大府市ゆかりの人物として、中学1年生の道徳教材の対象に選ばれました。テーマは「進化を求めて」。「希望と勇気、克己と強い意志」を持つ人物として、その生き方を子どもたちが学びます。

 それぞれの副読本の巻頭には、次のような文章が記されています。
   あなたには、どんな夢がありますか。
   あなたは、将来どんな人になりたいですか。
   わたしたちが生まれ育ったこの大府市には、
   自分の夢やたくさんの人々の希望を実現するために、
   ひたむきに努力を重ねたり、
   自分の信じる道を歩み続けたりした
   素晴しい人々が多くいます。
   わたしたちは、これらの人々の生き方に、
   何を学ぶことができるでしょうか。

 実際に、小学6年生が学ぶ鈴木政吉さんのページを見てみましょう。ユニークなのは、冒頭の謎かけです。このように記述されています。
   自分は一生涯、
   二本の「ぼう」に支えられてきた。
   「しんぼう」と「びんぼう」の二つだ。
 そして、やりたいことが上手くいかなったり、失敗したりしたとき、どうしていますか。と問いかけています。
 困難や弱い心に負けることなく、自分が正しいと信じる道を追求し、目標達成に向けて努力する生き方をしようという気持ちを持つことに、ここでのねらいがあることがわかります。


「前向きに生きる」の題名と人物紹介


鈴木政吉さんのあゆみを年表形式に整理


二本のぼうは、役立つのかと問いかけ


二本の「ぼう」に関するエピソード


二本の「ぼう」に関するエピソードの続き

 編集作業は、大府市の小中学校に勤める教員の皆さんによるプロジェクトチーム「大府市にゆかりのある人編集委員会」が担当されました。毎日の教務などで多忙を極める現役の先生方が知恵を絞られての内容。表紙を始め、中面のイラストも教員の作と聞き、さらに驚いた次第です。

 編集委員長を務められた大府市立吉田小学校の永吉麻里子先生に制作の経緯などを伺いました。

 大府市長と大府市教育委員会からのお話が最初です。こんなにも素晴らしい人材のいる大府市のことを、もっと子どもたちに知ってもらいたい、という願いからでした。発端は、ドイツの天才数学者ダフィット・ヒルベルトが発表した大難問「ヒルベルトの23の問題」のうち、未解決だった第14問題を否定的に解決し、世界に衝撃を与えた永田雅宜(まさよし)さんのことを伝えたい、というのがまずスタートと聞いています。それが3年前。一方で、大府市の生涯学習として永田雅宜プロジェクトが稼働していて、公民館などで数学の楽しさを体験する動きがすでにありました。

 さらに、吉田沙保里さんを始め、鈴木政吉さんや竹澤恭子さんなどの生き方を、子どもたちに伝えたいという思いと、文部科学省の道徳の教科化という新しい動きにも対応する形にしました。愛知県はもともと道徳への取り組みがしっかりしており、愛知県教育振興会が愛知県の独自の教材を作り、教科ではなかった頃から熱心に道徳の授業を行なってきていました。今、文科省が言っている年間35時間の道徳の授業は、愛知県はとっくに実施していたわけです。ただ、愛知県の郷土資料は、大府市に特化したものではないので、大府市教育委員会から、大府市生まれでなくてもゆかりのある方で教材ができないか、と提案がありました。それで、各小中学校から1名ずつ、道徳に力を入れていらっしゃる先生13名が集まり、教育委員会から1名が担当し、計14名で「大府市にゆかりのある人編集委員会」を結成。経験の浅い若手の先生にも授業ができることを主軸にしました。この教材と指導案のサンプルを用意し、大府市はすべての小中学校に電子黒板があるので、写真などを見せることができます。

 この道徳の副読本の対象は小学3年生以上、中学3年まで、年に1回の授業です。9月にこの教材ができたばかりです。地域の農産物を社会科で学んだ小学3年が、道徳で「巨峰づくり」の方の人生を学ぶというような教科間の連動も考慮しています。「金メダルの町」ですから、柔道やレスリングに候補となる方はたくさんいらっしゃいますが、幅広い分野から、7名を人選。小学3年にも馴染みのある分野からも選びました。
 
 ここで紹介しました指導案例は、あくまでもサンプルです。その通りに授業が行なわれなくても構いません。道徳の授業は、授業者によって違う視点で捉えてもいい科目です。指導案は提案であり、展開は自由。正解はありません。今は、まとめない方向が道徳の授業スタイルです。投げかけ、討論し、考えを深めあう。友だちの考えを聞いて自分の考えを深めてゆくことが大切です。目標地点を設定して、そこに行かなければならないというのは、しません。「考えて討論する道徳」。ここが盛り上がるかどうかです。

 
 さて、実際の授業風景を参観できるとのことで、さっそく吉田小学校6年1組の道徳の授業にお邪魔しました。教師になられて8年目の東 優衣先生と子どもたちが迎えてくれました。

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 東先生の授業は、クイズ形式でスタートしました。まずは、スリーヒントクイズ。3つの特徴を挙げることで、ヴァイオリンを当てさせていました。電子黒板を使い、次への興味を繋ぐ方法は、今時ならではでしょう。そして、ヴァイオリン作りに励んだ鈴木政吉さんの生き方を通して、いろいろと考えてみましょうと東先生。「道徳は正解がないので、自分が考えたこと、思ったことを素直に言ってください。そして人の話をよく聞いて、あ、なるほどなぁ、そういう考え方もあったんだなと考えを比べてみてください」。そして、政吉さんのバイオリン工場が、大府市の名高山にあったことを写真で紹介。大府市にゆかりのある人であることが、最初に伝えられました。

 そこで、この日のキーとなる問いかけが始まりました。「鈴木政吉さんは、ある言葉を残しました。自分の人生は、二本のぼうに支えられました。〇〇ぼうと、〇〇ぼうです」。さて、何でしょう? 

 子どもたちの声が一世に大きくなりました。出てきた答えは、とてもユニークでした。東先生はその一つひとつを、丁寧に黒板に板書。スムーズな流れで始まりました。
・きぼう
・てつぼう
・びんぼう
・うまいぼう
・あかんぼう
・ぜつぼう
・やんやんつけぼう
・あいぼう

 この時点で、道徳の副教材「大府市にゆかりのある人」が配布され、二つの「ぼう」というタイトルで収録されている鈴木政吉物語が読み上げられました。その内容から、「しんぼう」と「びんぼう」が答であることがわかりました。そして、次の問いかけです。「どうして鈴木さんは、しんぼうとびんぼうが自分の人生を支えたと言ったのでしょう?」ここで、ワークシートを配布。付箋に自分の考えを書き、ワークシートに貼り、4人ずつのグループで意見交換をするスタイルで授業が進みました。創造性開発に役立つKJ法のスタイルでした。同じような意見を仲間分けし、グループとしての考えを整理。どんどん作業が進むグループもあれば、さらに意見を追加するメンバーのいるグループもあり、あちこちで意見交換が活発にされていました。

 それぞれが発表していきます。まずは、「しんぼう」に対して。「完璧なヴァイオリンを作るために、壊したりして、しんぼうした」「眠さにもたえて作った」「売れなくても諦めずにがんばった」「初めはうまく行かなかった」「外国との差があったがふんばった」「苦しみを乗り越えた」などの意見が出ました。そして、「びんぼう」に対しては、「お金持ちなら、金を稼ぐ必要がないため、ヴァイオリンを作らなくなる」「びんぼうであることは我慢することが必要で、努力がなくては成功につながらない」「金持ちだと努力しないし、成長しない」などなど。

 最後に現在の鈴木バイオリンの工場の様子とヴァイオリン作りの工程が電子黒板で紹介され、ワークシートに今日の感想を記入して、終了の時間となりました。

 永吉先生に授業後の感想をお尋ねしました。

 自分たちの作った教材に、命が吹き込まれたような気がして、このように展開できるんだなと思いました。ライブ感あふれる感じです。7人のゆかりの方すべてに年表を入れる、入れないというのも随分討議しました。政吉さんの場合は、ここに至るまでの流れがあったほうがいいと判断し、年表を入れました。東先生にそのことは話していませんでしたが、ああやって黒板に自作の年表を貼り、見せ続けることで、政吉さんのたどられた変遷がわかるからこそ、「しんぼう」と「びんぼう」が出てきたんだなとわかります。ですから、入れて良かったなと。上手に活用されていましたね。〇〇ぼうを答えさせるのは、指導案例では記載されていませんから、まったく東先生のオリジナルでしたが、上手な惹きつけになっていました。指導案例の「お金があった方が会社のためにはいいのではないか?」の補助発問も、子どもたちの関心を高めるための工夫として用意していましたが、上手く使っていました。流れに変化をつける目的ですね。途中でも「今、いいこと言ったね」などと発することで、人の意見を聞くことも子どもたちは学んでいました。一人の意見を別の子どもにもう一度言わせるのは、東先生のスタイルですが、意見を聞き合う習慣づけになっていて、すごくいい方法です。言葉が少し変わったりすると、さらに意見が深め合うことにもなりますから。板書の整理も、いつもながら見事でした。

 竹澤恭子さんの場合は、中学1年生が学びます。その内容は以下の通りです。


「進化を求めて」の題名と人物紹介


海外演奏旅行に選ばれた時の気持ちを考えます。


竹澤恭子さんの文章で、その時の気持ちを学びます。


「自分の心を信じて」と勇気づけるメッセージも。


竹澤恭子さんの指導案例です。


指導案例の2枚目

 ところで、竹澤恭子さんは、平成18年度から3年に一度の割合で、大府市に4つある中学校のそれぞれの体育館で「学校訪問コンサート」を実施されています。つまり、大府市の中学生は、在学中に必ず竹澤さんの音を聴いていることになります。誠に羨ましい環境と言えるでしょう。

 昨年度の「学校訪問コンサート」の様子です。
・平成30年6月18日(月)/学校体育館
  大府西中学校(午前) 生徒数 589名
  大府中学校(午後)  生徒数 926名

・平成30年6月19日(火)/学校体育館
  大府北中学校(午前) 生徒数 731名
  大府南学校(午後)  生徒数 375名


演奏曲目
・マスネ:タイスの瞑想曲
・ファリャ/クライスラー:スペイン舞曲
・ブロッホ:ニーグン
・ショパン:マズルカ Op.24-1※
・メシアン:鳥のカタログ※
・フランク:ヴァイオリン・ソナタ 第4楽章
・サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン

※ピアノ独奏(ピアノ:児玉桃)