備教育

よい環境を作ること (機関誌140号 2002.5発行)

3、4、5歳の幼い子供にヴァイオリンを買って与えて「さあ弾きましょう」と言って弾かせようとしても、なかなか喜んでやりません。親の方では、他の子供たちがあんなにできるようになるのだから、自分の子供もやるだろうという自信の下に、教えようとするけれども、てんで受けつけない。しまいには強い言葉を用いるようになり「さあ弾きなさい」、「飴をあげるから弾きなさい」等と言って、だまそうとすれば、飴だけは食べるが、いざ弾くとなると、まるでだめということに終ります。

その結果『私の子供は、ヴァイオリンが好きではないらしい』ということを、親が他の人々に向かって言うようになってくるのです。私もこのような声をよく聞きました。しかし私は、このような独断式な方法で始めれば、子供たちは、ヴァイオリンばかりではなく、どんなことでも、好きにはなれないのが当然だと思います。この事について考えてみましょう。まず第一に人間の能力は、頭脳から命令されて始まります。それですから、例えば一人の子供に目かくしをして「さあ歩きなさい。三歩歩くと石があるから、またいで行くのですよ」と教えたとしても、子供は自由にその能力を発揮できないのです。もし目かくしをとって「歩きなさい」と言えば、三歩前にある石を楽々とまたいで歩いて行きましょう。

キラキラ星のメロディも、ヴァイオリンの持ち方も弓の持ち方も、親の方の頭脳の中には、はっきりとあるにしても、子供の頭脳の中には何もないのです。「さあ弾け」と言われても、目かくしで歩かせられるようなもので、子供自身の頭脳からの命令は少しもありません。行動する点から見て、まことに嬉しくない状態で、これで弾け弾けでは行動を強いられるわけです。

私はいつも言っていますが、まずそのお子さんを、教室へ連れて来て一時間なり二時間なり遊ばせておきなさい。他の子供たちがレッスンを先生から受けている部屋で遊ばせておくだけでいいのです。そしてこれを三回も四回も続けて行えば、その子供は、メロディもすっかり覚えてしまいますし、テンポも飲み込みますし、ヴァイオリンを持つ姿勢、弓を持つことなどを知って、やがて、物差しか何かをもち出してヴァイオリンを弾く真似をし、タカタカタッタとリズムをつくって、キラキラ星が始まりましょう。

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