豊田耕兒先生によるヴァイオリン科研究会
1月27日(日)、スズキ教育法研究会終了後、今度は豊田耕兒名誉会長を特別講師にお迎えし、ヴァイオリン科研究会が開催されました。この日の教材は、モーツァルトの弦楽四重奏曲第15番K.421。いわゆる『ハイドン・セット』と呼ばれる6作品の第2曲めに当たる曲です。この曲の第3楽章メヌエット ニ短調がヴァイオリン科指導曲集第7巻の1曲めに掲載されています。
冒頭、豊田先生からは「鈴木先生が指導曲集に入れてくださったモーツァルトのこの”メヌエット”を、なんとかしてモーツァルトの音楽にしたい。それが念願です」とのお話がありました。そして、「スズキ・メソードがヴィルトゥオーゾを作るのではなく、音楽を通して人間を育てる中で、協奏曲以外に室内楽の分野に対しても、子どもたちの興味を喚起する重要性があるのではないでしょうか」と、かつて豊田先生は鈴木先生に質問をされました。その時に、鈴木先生から「まさにその通り」との返事をいただいたとのことです。つまり、室内楽を勉強することで、少人数で音を合わせ、気持ちを寄り添わせ、音楽を丹念に仕上げてゆく大切さが必要だというのです。
それに加えて、豊田先生は、1930年代のベルリンの新聞に、鈴木クァルテットの記事が紹介されていたこと、クライスラーの父親が週末に仲間たちと楽しんでいた室内楽の調べに、4歳のクライスラーがいつも熱心に耳を傾けていたこと、などヨーロッパの人々の間で室内楽が当たり前のように生活に溶け込んでいたエピソードが紹介されました。
というわけで、「子どもたちにいい作品を与えようとしたら、室内楽にもいい作品があります」との豊田先生の思いと、鈴木先生が指導曲集に選ばれていることから、モーツァルトが作曲した弦楽四重奏曲第15番K.421がこの日の課題曲として選ばれました。「昨年10月の鈴木先生の生誕120年のお祝いコンサートで、東 誠三先生に弾いていただきましたね、あのピアノ科卒業曲のK.414の協奏曲と同じく、このK.421の四重奏は、モーツァルトが最後の住まいとしてウィーンに引っ越しした時の曲です。非常にシンプルでありながら、誰にでもインパクトが感じられ、深みのある曲です。だから子どもたちにも親しみやすく、理解もしやすいでしょう。その上、私がアルトゥール・グリュミオーのところで学んでいた時に、よく一緒に弾いた曲で、コンサートの最初の曲としてもよく選ばれた曲です」
ステージ上では、井上悠子先生(第1ヴァイオリン・甲信地区ヴァイオリン科)、臼井紳二先生(第2ヴァイオリン・甲信地区ヴァイオリン科)、花岡さやか先生(ヴィオラ・甲信地区ヴァイオリン科)、伊藤岳雄先生(チェロ・関西地区チェロ科)による演奏が始まりました。まずは、第1楽章が演奏され、具体的に豊田先生からの指摘をいただいた箇所を順番にブラッシュアップしていきました。
そして、美しい第2楽章を経て、いよいよ第3楽章のメヌエット、そしてクライマックスで、各楽器による変奏が見事な第4楽章へと続きました。客席で聴講している先生方からの質問に、一つひとつ豊田先生が答えてくださる場面もありました。大切なことは、奏者が感じる感覚をどう音にしていくか、ということに尽きるようです。弓の幅や使い方などを決めていくのではなく、とても感覚的な世界。要は、出てきた音に対してどう向き合うか、その辺りが問われるようです。
最後に、舞台の先生方、客席の先生方が一緒になって、演奏しました。
今後、このK.421は6月に松本で開催される全国指導者研究会でさらに研究を重ね、そして夏期学校の弦楽Aと弦楽Bの両クラスに共通の曲として、今度は弦楽に参加される生徒さんたちと音を磨いてゆく計画です。モーツァルトの美しい室内楽の魅力に、どっぷりと浸かる1年になりそうですね。