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小玉もな先生 ESA(ヨーロッパスズキ協会)主催で、ヴィオラ・ギャザリングという名のイベントが、イギリスのワトフォードで2017年2月17日〜19日に、演奏者、指導者、親御さんを含め、計250名あまりが参加して、行なわれました。

 このイベントは、元々2014年ベルギーのルーヴェンで行なわれたESA指導者大会で「ヴィオラを主体にしたイベントを開きたい」という話が出て、その後、2015年スイスのダヴォスで行なわれたESAヨーロッパ大会で「絶対にヴィオラのイベントを開こう。いつ、どこで、どの国で開きましょうか」と、ヴィオラ指導者が集まり、話し合いを開き、実現したのです。

ヴィオラ・ギャザリングの案内ボード。ヴィオラ色(紫)が効果的に使われています ヨーロッパでももちろんそうですが、スズキ・メソードが盛んなアメリカでも、こんなに大規模なヴィオラのみのイベントは今までに開かれたことがないということで、英国スズキ協会に所属し、ヴァイオリンとヴィオラを教えている私、小玉もなもワクワクしながら参加してきました。

 このヴィオラ・ギャザリングの様子と、直前にヴィオラ科指導者養成コースも開催されましたので、それとともに日記形式でご報告します。ヴィオラ・ギャザリングの公式サイトは、こちらです。

European Suzuki Viola Gathering 2017, London UK

2月14日(火)
まずは、ヴィオラ科指導者養成コースからスタート

 皆さんもご存知の映画「ハリーポッター」シリーズを撮影した撮影所が、現在はテーマパークになっていて、ロンドン観光のついでに訪れる人の多い街、ワトフォード。ロンドンから30kmほどの郊外にあります。その地にあるワトフォード音楽学校(Watford School of Music)で、ヴィオラ科指導者養成コースが始まりました。このコースは「ヴィオラ・コンバージョン」といい、すでにスズキのヴァイオリン科の指導者がヴィオラを教える資格を正式に取得するコースです。

 正式には「Viola Conversion and Teacher Training Course」と名前が付いています。スズキ・メソードでヴァイオリン指導の資格を取得した人たちを対象にして行なわれる、ヴィオラ科指導者養成(転向)コースです。すでにスズキの母語教育や、鈴木先生の教えを理解し、ヴァイオリンの指導者が参加するので、基本的にはヴァイオリンとヴィオラの相違点・共通点を習い、ヴィオラの曲集を、こと細かく勉強していきます。ヴィオラは室内楽やオーケストラなど、アンサンブルにとても必要な楽器ですので、指導曲集第1巻の最初から合奏を重視したプログラムになっています。

 この日はレベル3と呼ばれる、指導曲集の第4巻と第5巻を教える資格を取得できるコースに、イギリスから2名、オランダから1名の3人の指導者が集まりました。トレイナーはスコットランドのマイジー・ファーガソン先生です。

2月15日(水)
ヴィオラ・コンバージョンが続きます

 この日から指導曲集の第1巻から第3巻までを教える資格を取得できる、レベル1&2のコンバージョンコースが始まりました。イギリス、スコットランド、スウェーデンから7名の指導者が参加しました。アイスランド在住のサラ・バックリー先生もトレイナーとして参加されました。

 コースは朝から晩まで、たっぷりと用意されていました。休みを惜しんで、指導曲集に載っているすべての曲の指導ポイントから、奏法の基礎となるエクササイズや、スズキの信念などをみっちりと学んでいただきました。

2月16日(木)
実際のレッスンを疑似体験

 ヨーロッパのスズキの指導者養成コースでは、実際の生徒さんと親御さんの協力がとても必要となります。トレイニーと呼ばれるコースの参加者は、生徒さんに習ったばかりの指導ポイントを使い、実際に5分〜10分ほどのレッスンを実施してみます。もちろん今回のコンバージョンコースでも、このお試しレッスンの時間があり、ある生徒さんは、7人のトレイニーから5分のレッスンを連続で受け、フラフラになっていたそうです。

 この日の夜6時からは、レベル1&2の資格テストが行なわれました。そしてこの日は朝からESVG17(European Suzuki Viola Gathering)の実行委員4人が集まり、明日の午後から始まるイベントの準備が始まりました。

2月17日(金)
ヴィオラ・ギャザリングがスタート

ワトフォードの楽器屋さんが、駆けつけてきてくれました。ヴィオラの中はこうなっています、の見本から、ほとんどチェロにしか見えないヴィオラなど、いろいろ持ってきてくださいました。すべての楽器を試し弾きもできました。 朝からヴィオラ・ギャザリングの準備です。前日のヴィオラ科資格試験が無事に終わって、ニコニコの新米ヴィオラ科指導者のみなさんも、率先してお手伝い。

 しかし、ここで、問題発生! ホールの電気がつかない!

 慌てて電気屋さんに来てくれるようにお願いしました。すべてがのんびりのイギリス。日本のように迅速な対応というのは、望めません。夜のイベントまでにちゃんと直るといいのですが。

弓にクリップをつけて、弓の使う量の練習です。 午後3時。いよいよ受付開始です。ヨーロッパから13ヵ国、それに香港、アメリカ、カナダを加えて計16ヵ国250人あまりの参加者たちが次々に受付を済ませ、今回のイメージカラーである紫のバッジを首から下げます。イメージからの紫は、もちろんヴィオラ(Viola)が「紫」を意味するところから、ぴったりの色というわけです。

 早めの夕食を済ませ、6時半からPlay-inの時間です。ちなみにPlay-inとは合奏のことです。残念ながらホールの電気はつかないまま。最新式のコンピューターに繋がれた電気のヒューズを取り替えるのに、その道の専門家に週明けに来てもらわないといけないことが判明しました。というわけで、学校のロビーで急遽合奏をすることに! ぎっしりと並んだヴィオラの演奏者たちの姿は、なんか圧巻です。

ハリーポッターの「ヘドウィックのテーマ」をアンサンブルのクラスで練習しているところです。 1時間の合奏が終わり、アンサンブルの授業がありました。 曲目は、多彩です。タイトルをあげてみましょう。When I'm 64, エルガーの愛の挨拶、 映画「ハリーポッター」から「ヘドウィックのテーマ」などなど。日本の皆さんも演奏してみたいのではないでしょうか?

ペアレンツクラスの模様。この写真の男性は、初めてヴィオラを弾いてみた記念の写真です。言われなければ、初日とはわからないですよね? ちなみに、ヴァイオリンも弾いたことがないそうです。 今回はスズキの指導曲集のクラスの他に、レベルごとに分かれたアンサンブルのクラス、親御さんのためのクラス、ヴァイオリン科の生徒さん用に作られたヴィオラクラス、指導者クラスといろいろありました。

 ほとんどの参加者は早朝から長旅をしてワトフォードに来ていて、夜8時半のアンサンブルのレッスンが終了した時は、どの人もクタクタでした。しかも他のヨーロッパの国とイギリスは1〜2時間の時差があって、体感的には終了時間が9時半、もしくは10時半なのです。旅疲れと時差と2時間の演奏で、みんなゲッソリなはずなのに、どの人の顔にも笑顔が浮かんでいました。

2月18日(土)
多彩なプログラムが、目白押し!

親子の記念写真です。お嬢さんは弓の持ち方を休み時間に練習していました。笑顔が素敵ですね! 朝9時。Play-inの時間です。ホールの中は薄い陽の光のみですが、みなで合奏をしました。昨日の金曜日、学校が終わってからワトフォードに駆けつけた生徒さんもいたので、昨日より大人数です。途中で、ESA会長であるスイスのマーティン・ルッティマン先生からのビデオメッセージを聞きました。ルッティマン会長は「ヴィオラ・ギャザリングの成功を祈り、スズキの世界でヴィオラという楽器が、これからもっと人気が出て、ヴィオラ人口が増えることを願います」とおっしゃっていました。

アイスランド在住のサラ・バックリー先生の指導による、テレマン・コンチェルトのクラス。ピアノ伴奏はクレア・クレメンツ先生です。ホールの電気が停電のため、急遽、狭い部屋に移動しました。窓もないお部屋でのレッスンで、熱気がすごかったぁ! 9時半から昼食の1時間半をはさみ、夕方4時まで、スズキの指導曲集クラス2コマと、アンサンブルのクラス2コマの計4クラスのレッスンがありました。クラスの合間に、新しくできたお友だち同士で走り回ったり、今習ったばかりの曲を弾いたり、どの人も楽しそう。

 引率のご両親たちは指導者と雑談したり、このイベントにわざわざ来てくださった、地元の楽器屋さん、オランダからの弓工房の方、スズキの指導曲集、ヴィオラアンサンブルの曲集や鈴木先生の本などを扱う楽譜屋さんを思い思いに見学していました。

ヴィオラ科の指導者のためのアンサンブルクラスです。電気のつかないホールで、弱い陽の光の中でのクラスでした。  指導者や親御さんのためのセミナーも1日を通してありました。セミナーの内容は、チェロ科の指導曲集でヴィオラ科でも使える曲の説明や、弓の歴史、小さいサイズのヴィオラの種類、アメリカのヴィオラ科の事情など盛りだくさんでした。

 夜7時15分から今回のヴィオラ・ギャザリングの目玉でもある、ヴィオラカルテット「altoTune」のリサイタルがありました。プロのヴィオラの演奏家4人が、バッハのシャコンヌ、 ブランデンブルク協奏曲第6番 変ロ長調 BWV 1051など、有名な曲をヴィオラ・カルテット用にアレンジされた曲を次々に演奏し、観客を魅了しました。アンコールにはゴセックのガヴォットを演奏してくれました。ブランデンブルクの第6番は、今回の実行委員の1人でもあるカナダのジョアン・マーティン先生の編曲です。ヴィオラの特徴を上手く使った曲目と演奏に、子どもから大人までどの観客も聴き入っていました。

2月19日(日)
最終日の圧巻だった「キラキラ星変奏曲」

 ヴィオラ・ギャザリング3日目。気がつけばもう最終日です。スズキの指導曲集クラスとアンサンブルのクラスが1コマずつあり、早めのランチを食べ、お別れコンサートの時間です。

 コンサートは指導者のグループによる、4パートに分かれたキラキラ星変奏曲から始まりました。スズキの指導曲集に載っているのとは違う変奏曲で、子どもたちが食いいるように聴いていました。

 その後、各生徒さんたち、ご両親のクラスが、2日間がんばって練習したアンサンブルの曲を次々と演奏し、最後は全員でスズキの指導曲集第5巻から第1巻までの曲を合奏しました。

 最後のキラキラ星変奏曲では、なんと180人以上のヴィオリストたちが一斉に演奏し、今まで聴いたことがない深い響きと音量がホールに鳴り響きました。実際に弾いてる人も、聴いていた人も、なんともいえない感動に包まれました。

 準備する期間は、とてつもなく長くて大変でしたが、始まってみれば、あっという間に終わってしまったヴィオラ・ギャザリング。次回はどこの国で行なわれるのか、まだ未定ですが、どの参加者も「また次回も参加します!」と笑顔で言って、学校を去って行かれたのが印象的でした。

おまけ情報
ヴィオラの分数楽器について

 ロンドンには「ヴィオラ・コンヴァージョン Viola Conversion」と呼ばれる分数楽器が存在しています。日本ではまた見たことがありません。ベルギーにもないそうです。直訳すると「ヴィオラを転換した」楽器です。

 この楽器の元はヴァイオリンの分数楽器なのですが、こまの下の部分に穴を開け、魂柱とこまの足を1本につなぎ合わせて、こまを立ててあります。そしてちゃんとしたヴィオラ用の弦を張ります。もちろん分数サイズのヴィオラの弦です。そうすることで、太くて低い立派なヴィオラらしい音が出ます!! 1/16からちゃんとした「ヴィオラ」を弾くことができるし、ヴィオラの音になじむことができます。ヴァイオリンの1/4サイズからは、転換されていない「本物の」ヴィオラも存在しますよ! 分数ヴァイオリンの弦を張り替えるアイデアは、まさに目から鱗。これだったら、日本の子どもたちのアンサンブル事情も変わってきてもいいかもしれません。ご参考までに、ヴィオラコンバージョンについてのサイトがありますので、ご覧ください。

→ヴィオラコンバージョンのサイト

 日本ではまだまだ珍しい存在ですが、こちらのスズキ・メソードではヴィオラの指導曲集を9巻まで出版しています。1巻から4巻のヴィヴァルディの協奏曲までは、ほぼヴァイオリンと同じですが、4巻後半にテレマンのヴィオラ協奏曲が登場し、それ以降はヴィオラの曲集です。1巻に2曲と3巻に1曲、ヴァイオリン指導曲集に入っていない曲も含まれています。2巻はヴァイオリン版と同じですが、ポジション移動が早々に出てきます。なので、ヴィオラ科の生徒さんは習うことがたくさんあり、いろいろと大変なのです。。。

 ヨーロッパスズキ協会でのヴィオラの指導者は、基本的にヴァイオリンとヴィオラの指導資格を持っています。私自身もそうですが、初めからヴィオラを習いたい生徒さんにはヴィオラを、ヴァイオリンを習いたい生徒さんにはヴァイオリンを指導します。時には1人の生徒さんに両方とも指導します。

 イギリスでの話になってしまいますが・・・大多数の生徒さんは学校や各地域のユースオーケストラに所属しています。そこでは必ずと言っていいほど、ヴァイオリニストは人数が足りないヴィオラパートを持ちまわりします。それでヴィオラの魅力に取り付かれた生徒さんたちは、ヴァイオリンとヴィオラの両方を弾くようになるのです。

 指導者の中には、ヴァイオリン科の生徒さんは「全員ヴィオラを必ず習うこと!」と決めて、ヴァイオリングループの他にヴィオラのグループ授業を必須科目としているお教室もあるほどです。

 ヴィオラを勉強すると、独特な音色の豊かさに魅了されるはずです。アンサンブルでも中音域のポジションで、活躍する場面もたくさんあります。日本の生徒さんたちもぜひチャレンジしてみてくださいね。