東京大学との共同研究の「これまで」
3年前から東京大学と進めている共同研究。これまでの第1段階では、「演奏評価」に着目した研究を行ないました。マンスリースズキでは、そのつどご紹介してきましたので、関連する話題も含めて、ここでまとめておきましょう。
→2017/1/1 共同研究、狙いと意義
→2017/2/1 共同研究スタート記者会見&毎日メディアカフェで対談
→2017/3/1 共同研究音源作り
→2017/10/1 共同研究、続報
→2017/10/12 毎日メディアカフェ鼎談記事
→2018/7/1 脳科学の専門誌に相次いで登場
→2019/6/1 酒井邦嘉先生の新刊書
以上のような経過を経て、現在、論文の執筆作業が進んでいます。そして、本年に予定され、これから始まる第2段階の調査について、東京大学の酒井邦嘉教授とピアノ科特別講師の東 誠三先生、フルート科特別講師の宮前丈明先生、そしてピアノ科の石川咲子先生にも加わっていただき、トークセッションを通して、今回の概要について、ご説明いただきます。
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東 先生■皆様ご存知のように、3年ほど前から、
早野龍五会長のご尽力により、東京大学の酒井邦嘉先生の研究室と共同で、音楽における高次の認知能力(楽音の知覚や、楽曲の構成的な把握など)と、それを支える脳の働きとの関連を探る研究が行なわれています。昨年の全国指導者研究会最終日に、その発表がパネルディスカッションの形で行なわれたのは、記憶に新しいところです。今年はその第2弾がスタートするわけですが、今日は、そのお話を伺いたいと思います。
宮前先生■まず、前回の研究については、現在論文を準備中ですので、簡単にご紹介したいと思います。前回は、単旋律のいくつかの曲の一部を脳機能測定の課題旋律としました。それぞれの課題において、音楽を構成する
主要な要素について誤りの箇所を作り、正しいとされる方をあらかじめ聴いてもらった上で、演奏の正誤を判断する際に脳のどの部分が
どのように働いているかを調べてみました。
前回は、音楽のどんな要素について調べてみたのですか?
ピッチ(音の高さ)・テンポ・強弱・アーティキュレーションに、
曲のつながり(コネクション)を加えて5項目になります。
音楽の要素として、代表的なものですね。参加者を3つのグループに分けて調査したと伺いましたが、どんなねらいがあったのですか?
酒井先生■生徒の皆さんがどのような音楽の経験を持っているかで、脳活動にどのような共通性や相違点が現れるかを調べたいと考えました。
そこで、スズキ・メソードでヴァイオリンを習っているグループ、スズキ以外でいろいろな楽器や声楽を習ったことのあるグループ、そして学校の音楽の授業の他には音楽のレッスンを受けた経験のないグループに参加いただきました。
以前から、音楽と言語の共通性が一つのポイントとなると考えていたのですが、もし両者のメカニズムが共通しているなら、音楽の経験に左右されずに、同じ脳活動が観察されることでしょう。実際、音楽を聴いて楽しむことは誰でもできるわけですからね。そのことを裏付ける発見ができたと思いますので、しっかりとした論文にして発表したいと思います。また、グループ間で見られた脳活動の相違点についても、検討を重ねています。
石川先生■スズキで育った生徒さんには、どんな特徴があったのでしょうか?
特にテンポを判断する条件で、他のグループには見られない脳活動が観察されていますので、今、詳しくデータを調べているところです。
イメージがだいぶつかめてきたように思います。ところで、前回の対象はヴァイオリン科の生徒さんでしたが、演奏はフルートで宮前先生がなさったのでしたね? これはどういう理由からでしたか?
音楽に共通した認知能力を研究の対象としたため、ヴァイオリン特有の性質(音色、技術、表現など)とは直接関連しないような単旋律の楽器が適しているであろうと考えて、課題作成はフルートの演奏で行ないました。
東京大学との共同研究の「これから」
ありがとうございました。共同研究の第2段階では、ピアノ科の生徒さんを対象にするという方向で相談を続けて来ました。やはり、音楽的な要素の正誤を判断するといった内容の課題ですか?
それも含めたいと思いますが、今回は特に、ピアノの練習の仕方によって、脳にどのような働きが生じるかを観察したいと考えています。
それは指導者としても興味があります。ピアノ科の指導者には、どのような形でご協力いただくことになるのでしょうか。
調査への参加を生徒さんに呼びかけていただけましたら幸いです。参加の時期については、コロナの状況を見定めながらもう少し先にお知らせしたいと思います。参加をお願いしたい人数は30人ほどです。前期高等科卒業以上(モーツァルト ソナタ K.331)の生徒さんを対象にしたいとを考えております。
あまり知られていない、スズキの指導曲集で言えば、2巻から3巻ぐらいの難易度でしょう。
いずれにしても、単純に正誤を判定するときに働く脳の部位だけではなく、練習のプロセスの違いが脳の働きにどのような影響を及ぼすかという、前回よりさらに一歩進んだ内容になる、ということですね?
そうです。音楽の習得に欠かせない「練習」という経験を通して、人間ならではの脳の秘密が垣間見えるかもしれず、私も今からとてもわくわくしています。
現代のテクノロジーの粋を集めて、脳の深奥=人間の意識の深奥を覗くことになるのですね? ピアノ科の生徒さんにも、ぜひこの稀有の体験をしていただけたらと思います。本日はどうもありがとうございました。