鈴木鎮一記念館に、リトアニアからのお客様。

 

  文部科学省が推進する「教育・文化週間」に呼応する形で、鈴木鎮一記念館では11月1日〜7日まで、「生涯を通じて学ぶことの楽しさ」をテーマに、楽器体験や鈴木先生の音をSPレコードで鑑賞する体験などを開催。

 このイベントに参加された中には、リトアニアのスズキでヴァイオリンを学ぶ少年とその家族がいらっしゃいました。マンスリースズキでは、これまでにもリトアニアでの情報などをお知らせしておりましたので、とても親しみを感じた次第です。
 →マンスリースズキのリトアニアの記事
 
 そこで、その時の様子について、甲信地区ヴァイオリン科指導者の島野ロンダ先生と花村祐美先生からお知らせいただきましたので、紹介しましょう。


 
「世界を救う子どもたち」の一人が訪ねて来ました。

島野ロンダ先生

 文化の日のイベントとして、鈴木鎮一記念館では11月1日から4日まで、楽器を体験してみたい人のためにチェロ、フルート、ピアノ、ヴァイオリンを試すことができる特別な機会が提供されました。ヴァイオリンの時間に、リトアニアから来た男の子とその両親が偶然、記念館に訪れました。その男の子、Gangas 君はリトアニアでヴァイオリンを学んでおり、鈴木鎮一先生について、できるだけ多くのことを学びたくてとても熱心でした。彼は、記念館内を部屋ごとに回りながら、スマホの翻訳アプリを使って資料を一生懸命読んでいました。彼は鈴木先生の父親がヴァイオリン職人であったことを知らなかったのですが、彼にはちょっと大きめである記念館にある鈴木政吉作のフルサイズヴァイオリンを弾いてみることができて、とても嬉しそうでした。

 彼は、自分のヴァイオリンも記念館で弾きたかったので、父親がホテルに戻ってヴァイオリンを取りに行っている間、母親と一緒にDVDを観て待っていました。父親がヴァイオリンを持って戻ってきたとき、Gangas君は花村先生のレッスンを受けることができました。
 
 私は彼に、入館フォームを記入したいか尋ねました。フォームの下の方に彼はこう書いていました。 "I study violin by the Shinichi Suzuki Method. It is a really interesting and special place and I think it is a good place to remember Suzuki. I like it." 「私は鈴木先生のスズキ・メソードでヴァイオリンを学んでいます。ここは本当に面白くて特別な場所で、鈴木先生を思い出すためにとても良い場所だと思います。私はここが好きです」。フォームを私に渡すとき、彼はこう言いました。「世界中のスズキ・メソードの生徒は、この特別な場所を守るためにお金を寄付すべきだと思います」
 
 その日、私は鈴木先生の「世界を救う子どもたち」の一人が、鈴木先生を訪ねて来たのだと感じました。


 
彼の手帳に、「美しき音、美しき心」と日本語で書きました。

花村祐美先生

 ガンガスくん、お母様、お父様の3名で初めて日本に来たそうです。レッスンの他、リトアニアでのサマーキャンプにも参加していて、「松本で開催される夏期学校でまたお会いできると良いですね」と、最後に会話してお別れしました。

 まずはキラキラ星でお互いに音でもご挨拶。その後、ガンガスくんの好きな曲を聞いて、むすんでひらいて、アレグロ(1巻)、習作、ガヴォット ト短調(3巻、バッハ)を演奏しました。
 
 その中で、弓先を決める、おひじで丸を描く、縦の音の3点をゲーム(勝負)やエアーヴァイオリンで曲を弾いたりと、言葉が通じなくても分かって楽しめるレッスンをしました。私が英語が全然喋れないものでして…
 
 彼が今お稽古している5巻のヴェラチーニでは、生き生きと踊るように弾く方法(右手の動かし方など)や、重音の左指の順番を一緒に検討しました。
 
 最後に彼の手帳に私の名前(漢字)を記し、「美しき音、美しき心」と日本語で書きました。お母様とお父様から、「日本語で書いて欲しい」と言われ、なぜならこの先日本語を勉強して読めるようになるかもしれないから、とのことでした。その手帳には、2022Japanと書いてあり、その周りに神社や国旗なども描いていて、以前にも日本に来たことがあるのかと思いきや、日本が好きで彼の頭の中で日本に来たことをイメージして2022年に書いたページだったようです。


 
 後日、マンスリースズキ編集部では、Gangas君が残してくれた連絡先にメールを送ったところ、さっそくお母様のGintarėさんを通して、いろいろと教えていただくことができました。
 

Gangas君が4巻を終え、Violeta先生から
記念品をいただいたときの写真

 Gangasの名前は、インドのガンジス川から名付けたものです。ヴァイオリンを始めたのは6歳で、リトアニアスズキ協会の会長でもあるVioleta Ancienė先生に習っています。ヴィオレタ先生は本当に良い先生で、ヴァイオリニストでもあります。
 
 鈴木鎮一記念館を訪れたのは、ヴィオレタ先生や他の先生から、鈴木先生は日本の方で、スズキ・メソードを教えている場所があるということを聞いていました。リトアニアでは毎年、鈴木鎮一先生の誕生日を大きなコンサートで祝っています(マンスリースズキでも紹介)。先生たちは、鈴木先生が伝えた考え方を共有しており、私はいつも鈴木先生がとても興味深い人柄であると感じていました。母がアーティストであり、映画監督であることから、日本で展覧会を開くことを知った私たちは、家族全員で日本に行くことにし、この機会に鈴木先生の故郷を訪れることにしました。私たちは調べ、松本に鈴木先生の記念館があることを知りました。素晴らしい場所だと感じました。
 
 記念館はとても居心地が良く、部屋も美しく、興味深いものを感じました。そして、鈴木先生がこの場所で生活し、演奏し、レッスンされていたという事実にも驚きました。先生の部屋は興味深く、先生はヴァイオリンを演奏するだけでなく、絵を描いたり、生徒の録音を聴いたりしていたそうです。3時間以上も滞在しました。スタッフの方々も感じが良く、鈴木先生の生涯を記録した映像も見せていただきました。そして、鈴木先生のお父様が製作されたヴァイオリンを弾くことができて、とても嬉しかったです。鈴木先生のお名前が刻まれた庭園のモニュメント、大きな木々、そして入り口は本当に素敵でした。

 記念館での楽器体験は、とても楽しく、明るく、遊び心があり、心地よいレッスンで、とても楽しかったです。花村先生のレッスンは充実していて、肘の位置をもっと低くするなど、時々理解するのが難しかったですが、日本語がわからなくても、何をおっしゃっているのかは理解できました。
 
 イオンモールのクリスマスツリーの点灯式コンサートにも招待していただき、花村先生や他のスズキの子どもたちが素晴らしい演奏をしているのを見ました。
 
 箱根に行きました。とても冒険的な旅でしたが、残念ながら富士山には雪がありませんでした。それから京都にも行きました。とても幸せな気分になる場所で、たくさんの鳥居がある丘がありました。高野山にも行きました。たくさんの素晴らしい建築様式のお寺がありました。最後に東京に行き、母の展覧会を見に行きました。東京は大きく、混雑していましたが、とてもよく整理されていました。

 日本では本当に深い印象を受けました。また近いうちに必ず訪れたいと思います。
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 お母様のGintarėさんによると、Gangas君が「世界中のスズキ・メソードの生徒は、この特別な場所を守るためにお金を寄付すべきだと思います」と記されたのは、次のような理由だからそうです。
 
 リトアニアでは支援システムもあまり発達していませんが、困っている人がいれば、人々は助け合うために集まるものです。私たちが訪問した際、記念館の維持管理の難しさについて耳にしたので、Gangasは記念館に支援が必要だと感じたのだと思います。自治体は、記念館の維持に関するニーズに必ずしも対応しているわけではありません。Gangasと私たち家族全員は、鈴木鎮一記念館のような場所が存在することの重要性を理解しています。
 
 日本人にも、最近は寄付の文化が芽生えつつありますが、まだまだというのが実情です。こうして10歳の少年の心に浮かんだ素朴な気持ちは本当にありがたいことですね。
 


 

 ところで、お母様のGintarėさんは、映画監督として活躍されています。今回、初来日されたのは、新宿住友ビル33階にある「帰還者たちの記憶ミュージアム」で開催中の平和祈念交流展「シベリアからの生還 リトアニア人たちの流浪物語」のオープニングセレモニーに参加するためでした。この交流展では、Gintarėさんが制作された短編アニメ『PURGA』が上映されています。

 イベントの解説によると、こう書かれています。
 20世紀半ば、リトアニアとその国民は試練と喪失の時代を経験しました。リトアニアは1940年にソ連に武力併合され、翌1941年から1944年までナチス・ドイツによる占領に苦しみます。その後再びソ連に支配され、およそ50年にわたる弾圧を受けました。
 
 まるで、現在のウクライナの人々の姿に重なります。Gintarėさんが制作された短編アニメ『PURGA』では、当時のリトアニアの人々の流浪の様子が切々と紹介されます。そのさわりは、こちらでご覧いただけます。
 →『PURGA』
 
 この交流展は、2025年1月19日まで開催されています。
 詳しくは、こちらをご覧ください。
 →リトアニア人たちの流浪物語