世界の子どもたちへ「より良い環境づくり」を!
楽器の支援を通して広がるスズキ・メソード

関東地区チェロ科指導者 寺田義彦 

Ricardo Allicock駐日ジャマイカ大使と娘のVictoriaさん 2016年春、才能教育研究会東京お茶の水センターで、私が指導を担当するチェロ科生徒Victoria Allicockさんのお母様より、ご相談を受けました。お母様は現在の駐日ジャマイカ大使夫人Suzanne Allicock様です。

 大使夫人によると母国ジャマイカのユースオーケストラ National Youth Orchestra of JamaicaNYOJ)は、その育成にエル・システマ方式を取り入れております。エル・システマは青少年の健全な成長を願ってベネズエラにて始まった社会運動ですが、それにはスズキ・メソードの指導曲集を使用した器楽学習方法が大きく寄与しており、普及の一因と言われております。

 NYOJはジャマイカの首都キングストンで2009年に発足。以来、発展を続けていますが、学ぶ子どもたちの楽器が常に不足しています。※National Youth Orchestra of Jamaica →http://nyoj.org/

松本から東京に運ばれた21台の分数ヴァイオリン そこで大使夫人は日本にて楽器寄付を募ることを発案され、私に協力を依頼されました。この件を才能教育研究会本部事務局に打診しましたところ、20年前に私がグランドコンサート実行委員長を務めた際に全国の会員へ「中古楽器募集」を呼びかけ、集まったヴァイオリンのうち21本と弓が、松本の才能教育会館に保管されていることがわかりました。当時はご寄付いただいた中古楽器の修理を国際スズキ協会(ISA)日本事務局が行ない、海外の希望先に渡しておりました。

 大使夫人に「そのままでしたら、すぐお渡しできます」とお知らせしました。大使夫人は母国のNYOJ監督に連絡、「アメリカ合衆国マイアミの楽器店職人が定期的にジャマイカを訪れ修理するので、そのままでもありがたい」との回答を得ました。

中央が大使、右端が寺田先生(東京事務所にて) その後に鈴木裕子前会長のご了承を得て、 松本の本部事務局から寄付楽器を東京に運び、615日東京事務所にて、全職員立ち会いのもとでジャマイカ大使Ricardo Allicock様へお渡しできました。

 9月に大使からのお礼状をいただきました。ジャマイカまでの楽器運搬は成功しました。この楽器を手にされたNational Youth Orchestra of Jamaicaのメンバーの写真が届き次第、また、この欄でもお知らせします(現在もジャマイカ大使館はNYOJへの楽器寄付を募っております。ジャマイカ大使館宛に直接ご連絡をいただければ幸いです)

 思えば20年前に発案して全国の会員よりご寄付いただいた楽器が、これですべて、海外の方々にお渡しできました。かつて、以下のような歩みがありました。
・1997年アルゼンチン大使に公邸にて
・1997年国賓として訪日されたメキシコ大統領夫人に迎賓館にて
・1999年パナマ大使館にて
・1999松本世界大会にて希望の海外参加指導者に

 世界のお子さんたちが楽器に触れる機会を増やすことは、スズキ・メソードの理念「より良い環境作り」の一つと思います。日本はスズキ・メソード発祥の国として、このような協力もできることを誇りに思います。

 長い間の皆様のご協力に深く感謝しまして、以上をご報告します。

これまでの楽器支援活動


 寺田先生からの報告でも紹介されている、これまでの楽器支援活動については、国際スズキ協会(ISA)発行のジャーナルで紹介されていますので、転載します。

国際スズキ協会からのお願い〜ご家庭に眠っている楽器を送ってください。
「どの子も育つ、育て方ひとつ」がスズキ・メソードの根本の大きな柱であれば、「人は環境の子なり」も同じく、その一つであります。現在、残念なことですが、スズキ・メソードを自国の子どもたちの教育に取り入れたくても、社会的な経済基盤が弱いために、実現できない国があります。そこで、このような国々の環境づくりに、使われていない分数楽器を役立てることを、継続的に会員の皆様へ呼びかけています。(中略)皆様から寄贈されました楽器は、国際スズキ協会の手で修理が済み次第、メキシコ、エクアドル、アルゼンチン、ブラジルの各スズキ協会へ贈られます。再び幼い子どもたちと一緒に音楽を奏でることは、楽器にとっても喜びとなるでしょう。(後略)」(1997年7月 INTERNATIONAL SUZUKI JOURNALより)


寺田先生に駐日ジャマイカ大使から贈られた感謝のメッセージ 実際に贈られた先からは、感謝と慈愛に満ちたお便りが届いています。

 1997年3月11日にメキシコ大統領が来日された折、東京赤坂の迎賓館でメキシコ大統領夫人に、高円宮親王殿下および妃殿下御臨席の下、10台のヴァイオリンを贈呈し、高円宮女王殿下御三方も加わった記念演奏にいたく感動された大統領夫人は、「日本の子どもたちの魂のこもった楽器を丁重に本国に送り届け、大勢の子どもたちの中でも特に才能のひらめきを感じさせる優れた子どもたちに大事に使わせたい」と感謝のスピーチを述べられています。

 1998年には、ヴァイオリンをアルゼンチンに3台、ベルーに6台を寄贈。5月にタイに行かれた杉山クラスの皆様に10台、寄贈楽器を持参していただいたこともありました。どの国も1台の楽器を5〜6人の子どもたちが共同で使っていて、大変感激されていました。3月のグランドコンサートにお越しになられたパナマ共和国大使夫人からも寄贈について打診があり、10月に希望のサイズのヴァイオリンを10台寄贈し、大使館員たちが帰国の折に手分けして、大事に持ち帰りました。

 ペルースズキ協会からは、1998年の12月に感謝状をいただきました。その中には、「私たちは、毎夏、首都のリマに集まり、スズキ・メソードの指導法と哲学を一生懸命に勉強しております。贈られたヴァイオリンは皆上等で、良い楽器を買うことができない家庭にとって、この上ない贈り物です」と記されていました。