2024年5月3日(金・祝)13:30開演
豊中市立文化芸術センター大ホール
コンサート会場の豊中市立文化芸術センター大ホールは、阪急宝塚線「曽根駅」を下車、歩いて数分のところにありました。この大ホールの緞帳について、ロビーに掲示がありました。なんでも、2008年にノーベル物理学賞を受賞され、豊中市初の名誉市民となられた南部陽一郎先生が監修されたものだそうで、先生の研究テーマでもある「自発的対称性の破れ」の研究理論をベースにデザイン。
開場時間前には、ホールの入り口はご覧のような行列ができました。本日の公演に対しての関心の高さがうかがえます。
第1部 共通プログラム
さぁ、開演です。6名の出演者による素晴らしい演奏が続きました。トップバッターの安田耀さん(9歳)は、ロシアの作曲家カバレフスキーのソナチネ。この作曲家らしい独特な響きとリズム感で、第3楽章のプレストを軽やかに楽しく弾かれました。続くチェロの水田至音さん(9歳)は、チェロ科生徒の憧れの曲、フォーレの「エレジー」を冒頭のEsの音からヴィブラートたっぷりに演奏。ヴァイオリンの髙添遥加さん(12歳)は、メンデルスゾーンの一粒一粒の音を愛しむような演奏を披露。フルートの山田理乃さん(16歳)は、ベーム式フルートを改良したことで知られるボルヌの超絶技巧が随所に要求される「カルメン幻想曲」で、「カルメン登場の音楽」から「闘牛士の歌」までの7曲を堂々と吹き切りました。続くピアノの田代なおみさん(13歳)は、リストの「ラ・カンパネラ(鐘)」。パガニーニのヴァイオリン協奏曲第2番の第3楽章を編曲したもので、こちらも超絶技巧曲ながら、落ち着いた演奏でした。最後のヴァイオリンの三島万稔さん(14歳)は、ブルッフの歌心満載の協奏曲第1番第3楽章を立派に弾き切りました。いずれも舞台度胸はたいしたものです。日頃の練習の成果を遺憾なく発揮してくださいました。
この6人の皆さんで合奏されたのが、チェロ科指導曲集よりバッハの「アリオーソ」、ピアノ科指導曲集よりモーツァルトの「トルコマーチ」、そしてヴァイオリン科指導曲集よりフィオッコの「アレグロ」でした。チェロとピアノで静かに始まったいつもの「アリオーソ」が合奏になることで、さらに厳かな気分を醸成したかのよう。「トルコマーチ」も、冒頭はピアノから始まり、フルートが加わり、弦楽器が加わると鮮やかさもひとしお。「アレグロ」では、ヴァイオリンの合図でスタート。疾走感あふれる演奏になりました。編曲を担当されたのは、チェリストとして活躍される印田陽介さんでした。これらの編曲について、マンスリースズキの読者の皆さま向けに、特別にメッセージを寄せていただきましたので、紹介しましょう。
~NEW STARS CONCERTの合奏アレンジをして~
普段は自分自身やその周辺の演奏家を想定して編曲をすることが多いのですが、今回は小中学生のお子さんたちの演奏ということで、無理なく演奏できるように、けれどせっかく優秀な生徒さんたちですので、和声を伸ばすだけのような退屈なアレンジにならないように、というバランスを意識しながら編曲しました。
また、少し変わった楽器編成[2つのヴァイオリンとフルート(高音域の旋律楽器の割合が高い)、小さな分数のチェロ、ピアノ連弾] ということもあり、メロディーを担当していない楽器の扱いには注意を払いました。スズキ・メソードの生徒さんたちには慣れ親しんだ曲目なので、原曲の旋律や曲調を崩さないようにしつつも、原曲を単に振り分けるのではなく、それぞれの楽器の特性に合わせたハモり、対旋律、オブリガートなどを配置して、よりゴージャスに、いつもと違った響きを楽しめるように工夫しました。ピアノの連弾は初めて取り扱ったので、ピアノ指導者の母に助言を請いつつ書きましたが、やや不慣れが出たかもしれません(苦笑)
6人もいると音量を落としてもボリュームが出てしまい、旋律が埋もれがちなので、生徒さんたちには演奏するよりも休符を数える方が厄介かもしれないとは思いつつも、人数の増減を多用して対応しましたが、みなさん聴いて覚える習慣があるからか、リハーサルの段階からすんなり入れていたのは、さすがと感じました。
演奏会本番は残念ながら聴けなかったのですが、とても良い演奏だったと聞き、大変嬉しく思っています。生徒さんたちのこれからの成長、益々のご活躍心よりお祈りしています。
印田陽介
第2部 大阪公演プログラム
早野龍五会長からのメッセージ
第2部は、大阪公演の独自プログラムです。まずは、早野龍五会長によるお話から始まりました。早野会長は、1964年の第1回テン・チルドレンツアーに小学6年の3月に参加。卒業式は出られなかったそうですが、大変思い出深いツアーであったとのことです。
「今日のプログラムの中に、1964年のツアーのことが触れられていますが、その中に私も12歳で参加していました。明日の東京公演では、この時ご一緒でしたヴァイオリニストの大谷康子さんの演奏もお楽しみいただきます。ちなみに、1964年は10月に東京オリンピックが開催された年です。その頃は、日本人は観光目的でパスポートを申請することができませんでした。1ドル360円という固定レートでした。今考えても大変なそんな時代に、鈴木鎮一先生はよくぞこのツアーを実現されたなぁと、驚きます。
その頃の楽器の練習というのは、楽譜を読んで、練習曲(エチュード)を練習するというのが世界の常識でした。鈴木先生は母語教育として、言葉を覚えるように音楽も耳から覚えることを実践され、僕たちを育て、アメリカに連れて行った結果、全米の音楽教育者たちを大変驚かせたわけです。5歳の子どもがバッハを弾くことに衝撃を受けたわけです。それがきっかけになって、アメリカでスズキ・メソードが広まり、現在では、74の国と地域でスズキ・メソードがさまざまな楽器で使われています。
スズキ・メソードの本当の価値は、音楽を教えることが1番の目的ではありません。「私は人を育てたいのです」と鈴木先生がおっしゃったように、音楽を学び、楽器の演奏を学ぶ過程で、子どもは感受性を育て、忍耐力や協調性などの力を得ることができることを実践されたのです。これらは非認知能力として、最近ではとても話題になりましたが、鈴木先生は、このことを最初から唱え続けておられました。
ですので、スズキ・メソードで学ぶということは、才能教育課程まで行くくらい続けることで、一生身につく能力になるということです。それが第1部で演奏していただいたお子さんたちの演奏にしっかり現れていました。
音楽に親しむ、音楽を愛する、楽器を演奏することを通して皆さんが身につけられた非認知能力は、一生の宝物になります。では、引き続き第2部の演奏をお楽しみください。
子どもたちによる合奏
後半は、関西地区の子どもたちと第1部出演の6名の子どもたちが一緒になっての合奏です。まずは、ピアノ科の四手連弾から。二人が息を合わせて、短い曲ながらも印象的な演奏を披露しました。最初が、シューマンの「かくれんぼ」。シューマンと幼い娘マリーのかくれんぼのように、心踊る演奏でした。次が、フォーレの組曲「ドリー」から「ミ・ア・ウ」。まるで猫のようなリズミカルなワルツで、楽しくなります。
そして、ステージは、ヴァイオリン合奏、ヴァイオリン・チェロによる合奏へと続く舞台転換が始まりました。第1部で演奏した6人とヴァイオリンを持った早野会長も一緒になっての合奏です。舞台転換時には、早野会長が6人を2つに分け、3人ずつインタビュー。その当意即妙な受け答えがユニークで、和やかな雰囲気がさらに増したようでした。ヴィヴァルディの「アーモール」から第1楽章、そして「狩人の合唱」「アレグロ」「むすんでひらいて・こぎつね」そして「キラキラ星変奏曲」と一気に続きました。いつもは動画撮影をされることの多い関西地区ヴァイオリン科指導者の宮原先生の指揮姿も新鮮でした。