一緒に弾く中に、
「能力の法則」があるのです。
オーストラリア チェロ科指導者
水島隆郎
世界的な新型コロナウイルス感染は、私たちスズキの世界をも
大きく揺り動かすことになりました。3月、4月、5月と、私たちはお互いに顔を見合わせることなく、道ですれ違う人たちもお互いに避け合って通行するようになりました。そしてそれぞれの家族は家に閉じこもり、ひっそり暮らすことを強いられることになりました。私たちのオーストラリアも同じです。この国での昔からの習慣は、たとえ知らない人であっても、すれ違う時には「ハーイ」とお互いに声を掛け合う、というものでした。それがまるで相手の人を嫌っているかのように互いに顔を背け合うことになってしまいました。
「ソーシャルディスタンス」は世界共通語になりました。
今6月に入ったこの時点でも私たちオーストラリアのスズキの先生方は、大半がオンラインレッスンをしています。学校は始まりました、でも学校のオーケストラ、アンサンブルはまだ始まりません。
オーストラリアのスズキの大会はキャンセルになり、コンサート、グループレッスンはできません。
私たち母語教育のスズキにとって欠かせない「みんなで一緒に弾く」ができない状況になりました。もちろんこの状態がずーっと続くわけではありません。近いうちにまたみんなで一緒に弾ける日が来ると思います。でもそれまで「一緒に弾けない」と諦めないで「一緒に弾いた」という思い、たとえお互いの音が聴こえなくてもビデオの中で一緒に弾いている友だちの姿を見、今まで会ったことのない海外のスズキのお兄さん、弟、お姉さん、妹に混じって自分も弾いている姿は、子どもたちに将来、彼らと友だちになれる希望を持たせると思います。
スズキ・メソードの一番最初の曲、鈴木鎮一先生が作ってくださった「キラキラ星変奏曲」は世界中同じです。
私たちにとって共通語であるスズキの教則本を一緒に弾くことができる姿は、スズキでともに育つ姿を見る親にとっても改めてスズキの広がりを感じ取っていただけるものなのではないでしょうか。
みんなと一緒に弾くために「キラキラ星」をもっと上手にしようと、それぞれの家でお稽古しました。それをお母さんやお父さんがビデオにしてくださいました。
ビデオに出てくる子どもたちを見てください。
「一緒に弾く」ことが能力を高くする、このスズキ・メソードの根本のところに立って、世界中のスズキの子どもたちが、みんな集まって、顔を見合わせて弾ける日がもうすぐ来ることを待ち望みながら、現状を嘆きながら待つのではなく、期待しながら「キラキラ星」を練習した子どもたち。
この企画は韓国、アメリカ、フィリピンの友人である先生方が集まって作られたものです。この企画のために一つひとつのビデオを編集してくださった方々、すべての子どもたちの名前を確認しながら編集してくださった方々に心から感謝いたします。
そしてまた、この企画を日本のスズキの方々にお知らせできることになりました幸せに感謝します。
異文化の子どもたちの共演は、
音楽へのモチベーションを高めます。
ジェウン・リー
ヴァイオリニスト、シンシナティ大学音楽院スズキ指導者
ヴァイオリニストのジェウン・リーです。
アメリカ・シンシナティのスズキ・スクールとシンシナティ大学音楽院のスズキ・プログラムで教鞭をとっています。今回の共同プロジェクト「Twinkle Across the Ocean」についてのお話をご紹介させていただきます。
音楽制作における自由な境界線を夢見て、私自身の音楽留学の経験から、それぞれの考え方や好み、哲学を持った異文化の人たちと共演することは、自分の視野を広げ、音楽の面白さを探求し続けるモチベーションを高める良い機会になることが多いと感じています。私も含めて、多くの学生がこのような機会を得られることを願っています。また、私はこれまでにアメリカの様々なスズキ研究所を訪問し、いくつかのスズキの研修プログラムに参加してきました。最終日のコンサートの祝賀会に参加したことで、音楽的背景に関係なく、私たちは音楽の中で一つになれるということを教えてくれました。私たちは同じで、世界と一体なのです。
2020年の今年の春は大変な時期でした。パンデミックの影響で世界中の様々なものが停止してしまいましたが、音楽は耐えてきました。人々はどこにいても自分の能力で音楽を作り続け、その音楽をオンラインでシェアしました。彼らの音楽は人々を励まし、鼓舞してくれました。私は、このパンデミックで苦しんでいる人たちを世界の反対側で慰めるために、愛を取り戻し、私たちの子どもたちのモチベーションを高めるための素晴らしい時期だと思いました。それは団結を促進するでしょう。
私はオンラインでの交流プログラムを思いつき、韓国スズキ協会のファン・スンギョン事務局長に連絡を取りました。彼女はこのアイデアに賛同してくれて、世界の他のプログラムにこのプロジェクトに提案してくれたことに感謝しています。韓国の黄(ファン)先生は、フィリピンのマニラ交響楽団音楽院のジェフリー・ソラレス先生、オーストラリアのスズキ・チェロ・インスティテュートの水島隆郎先生をお招きし、4人でZoomミーティングを行ないました。そして、今後の進め方を話し合い、このビデオプロジェクトの制作について意見を交換しました。
どの先生方も同じような考えを持っていて、生徒たちに夢を持っていることに感激しました。鈴木鎮一先生がおっしゃっていたように、生徒たちは良い音楽を聴き、演奏することで美しい心を育むと信じています。黄先生、ジェフリー先生、水島先生、そして私の4人は、私たちの魂と輝く星の輝きを世界と分かち合えることを嬉しく思っています。このプロジェクトを実現させてくださった黄先生、ジェフリー先生、水島先生と、そしてこのプロジェクトを実現させてくれた素晴らしい生徒さんたちに感謝の意を表したいと思います。
困難が続いても、希望を失ってはなりません。
音楽は続いていくのです。
ファン・ソンギョン
韓国スズキ協会ゼネラルマネージャー
日本、アメリカ、オーストラリア、ドイツ、フィリピン、台湾、マレーシア、シンガポール...。これらは、私の国である韓国以外にも、私がスズキに関連して留学したり、学会に参加したりした国です。 私の住んでいたところでは、常に音楽に関わり、世界中で多くのスズキの友人に出会いました。
しかし、新型コロナウイルスの影響で、多くのコンサートやレッスン、グループレッスンが中止になり、すべての交流がストップしてしまいました。最初の危機から時間が経つにつれ、私も生徒も疲れ果てていきました。
そして、スズキ・メソードの一環として子どもたちがいつも行なっているグループレッスン、各種コンサート、合宿、交流会がいかに貴重なものであるかを改めて実感しました。それが私たちを疲れさせずに前に進ませる原動力になっています。
以前、韓国とシンシナティ・スズキの交流の話をイ・ジェウン先生としたことがありましたが、新型コロナウイルスの影響で、時期がはっきりしませんでした。イ先生が映像で交流を始めようと提案してくれた時、子どもたちに新たな目標を与えられるような企画に迷いはありませんでした。また、ビデオコンサートにもっと多くの人を招待してはどうかと提案したところ、以前から音楽キャンプや演奏会などで交流のあったフィリピンのジェフリー・ソラレス先生とオーストラリアの水島隆郎先生というスズキの友人を招待しました。やがて、国際的な「Twinkle across the Ocean」プロジェクトが結成されました。なんて素晴らしいスズキの世界でしょう。
外出自粛期間中に、音楽を通じて他国の友人と心を通わせることができたことは、先生方も生徒たちにも感動と活力を与えてくれました。
子どもたちは、演奏を何度も再録する過程で、練習を繰り返し、反省をする機会を得ました。初挑戦では失敗も多かったのですが、国ごとに音程やスピード、弓の長さなどを合わせていくうちに、年齢も民族も異なる117人の子どもたちが一堂に会し、「キラキラ星変奏曲」で一つになったのです。
音楽は、休んでいても止まることはありません。
戦後の廃墟の中で、希望を失わず、手押し車で子どもたちを運びながら音楽会を継続された鈴木鎮一先生のように、新型コロナウイルスの困難がどんなに続いても、希望を失うことなく、音楽を続けなければなりません。そして、このプロジェクトを見た人たちには、「世界は一つ」だと改めて思ってほしい。喜びだけでなく、痛みも一緒に分かち合うことで、この危機を一緒に乗り越えていかなければなりません。
このプロジェクトを進めてくださったリー先生、喜んで参加してくださったジェフリー先生、水島先生、そして子どもたちに練習させたり、励ましたり、映像を完成させたりとがんばってくださった先生方、保護者の皆様、本当にありがとうございました。
忍耐と思いやりと連帯感と愛で、この危機を早く乗り越えることができると信じています。世界中のスズキの仲間と再会できる日を待っています。
皆さん一人ひとりに幸多かれと思います。