アメリカのフルート科ティーチャー・トレーナーのWendy Stern先生が
髙橋利夫先生に対面でインタビュー!

 

インタビューの経緯について

フルート科特別講師 宮前丈明

夏期学校開会式で挨拶をされる宮前丈明先生

 Wendy Stern先生はSAAフルート科のティーチャー・トレーナーとして活躍され、また2012-2015年にはニューヨークフルートクラブの会長を務めるなどアメリカのフルート界でも重要な役割を担っています。Wendy先生のキャリアの中で、マルセル・モイーズ先生、そして髙橋利夫先生からのご指導は非常に重要な位置を占めています。今なお髙橋先生のレッスンや、お言葉をいただきたいものの、コロナ禍で計画が中止され、コロナ後もそのような機会はなかなか巡ってきません。そういった状況にある人々が世界中にたくさんいます。

 今回、Wendy先生は、米国を本拠に活動するマルセル・モイーズ協会への寄稿のチャンスを得て、髙橋先生へのインタビューを企画されました。これまでも、髙橋先生による実地の指導や北米フルート協会誌に掲載された髙橋先生寄稿の記事、スズキ・メソード(TERI)フルート科50周年記念誌の対談記事なども参考にされた上で、フルート指導法についてさらに髙橋先生のお言葉がいただければ世界の人々の助けになるとお考えになりました。また髙橋先生もWendy先生からのインタビューをご希望され、今回の訪日と、髙橋先生との再会が実現しました。
 
 なお、下記のWendy先生の寄稿文に出てくる幼児用U字管フルートの開発については髙橋先生とともに関東地区フルート科指導者の宮地若菜先生が関わりました。詳しくはフルート科公式サイトにある「幼児用U字管フルート誕生秘話」をご覧ください。
→フルート科公式サイト
 


 

Wendy Stern先生からのメッセージ

 
 私の松本訪問の感想をWebマガジン「マンスリースズキ」に掲載していただけることをとても嬉しく思います。
 
 2023年の夏、アメリカのアリゾナ州フェニックスで開催された全米フルート協会の年次大会で、私は「Suzuki Flute:The French Connection」と題したパネルディスカッションを行ないました。
 
 私と一緒にパネラーとして参加したのは、松本の夏期学校から直接参加された宮前丈明、TERIのディプロマを取得したレベッカ・キャリー、プロのフルート奏者でスズキの指導者でもあり、フランスのマルセル・モイーズの家で2度にわたる夏に学んだキャスリーン・ネスター、同じく現在はプロのフルート奏者である私の一番最初のスズキの生徒、でした。
 
 このパネルディスカッションの発表の場には、スズキ・フルート・メソードの教育法におけるマルセル・モイーズの影響についてまだ知らなかった、多くのフルート奏者が参加していました。この発表の直後に私はマルセル・モイーズ協会(アメリカ)からこのつながりについての記事を書くように依頼され、それで2024年6月、松本の髙橋先生のご自宅を訪れ、インタビューを行なうことになったのです。
 

クリックすると英語版にリンクします

 私は、TERIフルート科50周年記念誌(英語版)に掲載された髙橋先生と宮前先生の対談を読んで、とても興味深く思っていました。髙橋先生はマルセル・モイーズとの非常に特別なつながりを大切にしていらっしゃり、この関係の背景にあるストーリーは非常に重要であり、非常に魅力的です。

 そこで、今回のインタビューで私は、髙橋先生が鈴木鎮一先生の母語教育とマルセル・モイーズの演奏原理とをどのように融合させたかに焦点を絞りたいと思いました。私は、髙橋先生がマルセル・モイーズの教育法を、幼い子どもたちが学び、発展させることができるような親しみやすい要素として抽出した見事な方法を分かち合いたいと思ったのでした。
 

モイーズの写真の前で、髙橋先生とWendy先生

 私は髙橋先生がどのようにして「子ども用フルート」(註:幼児用U字管フルート)を開発されたのかに興味があリました。髙橋先生は、ヘッドジョイント(頭部管)が楽器本体に対して「U」の字を描いているバスフルートのデザインや、Dまでしか出せない古い木製フルートにヒントを得たと説明されました。 このミーティングでは、髙橋先生がサンキョウフルートの社長と共同で、フルートの音程を変えることなく、小さな指でもキーに届くような軽量の楽器を開発した経緯について詳しく説明してくださいました。

 彼らは一緒に、(バスフルートのデザインのように)「カーブした頭部管」を持ち、(歴史的な木製フルートのように)Cジョイントのない、ワンピースフルートをデザインしました。また、フルートに重さを加えるトリルキーをなくし、小さな指でも楽に音に届くように、キーの上にアシストキーカップを配置しました。こうしてでき上がったフルートのデザインは、4歳の子どもたちでもスズキのフルートのレッスンを始めることができるようになり、スズキのフルートが50年以上も繁栄することになったのです。
 
 髙橋先生のもう一つの発明は、フルートで美しい音色を奏でるための前準備である「スピッティング ライス」(註:舌の先で米粒を飛ばす)です。アーティキュレーションを学ぶこの方法は、幼い生徒たちが、フルートを口に当てる前に、空気の流れを整え、アンブシュア(註:マウスピースを当てた時の口の形)を発達させ、正しい舌の位置を利用できるようになる、という利点があります(ヴァイオリンを学ぶ子どもたちが箱ヴァイオリンから始めるのと同じ原理です)。
 
 髙橋先生にこのアイデアを思いつかれたきっかけを尋ねると、彼はすぐにモイーズのアンブシュアを横から見た写真を指さされました。髙橋先生はニコッと笑い「これがスピッティングの瞬間です」とおっしゃいました。そしてさらに「スズキ・メソードではすべてがゲームなのです、そうでしょう、堅苦しくなく、、、小さな子どもは練習が嫌いなのです、、、だから夏の季節にスイカの種を舌の先で飛ばすのは、音の始まりを練習するのにとても良い機会でした」と話されました。

 
 このミーティングの間中、髙橋先生は生き生きとされて、ご自分の考えや経験を熱心に話してくださいました。しかも、このミーテイングのために綿密な計画を立てていただき、写真集、オリジナル原稿、以前のインタビューなど、私に見せるために多くの資料を事前にまとめていらっしゃいました。髙橋先生は、マルセル・モイーズから贈られた私物のフルートを見せてくださいました。また、サイン入りの著書「マルセル・モイーズとの会話」(全音楽譜出版社)をプレゼントしていただきました。
 
 パンデミック以来、髙橋先生は健康と安全性の理由のため、ご自身とご家族を世間から隔離することを選択されていました。そのため、髙橋先生にこうして直接インタビューを行なうことができたことは、私にとって光栄であり、フルート界にとっても特に意味のある貴重な機会となったのです。
 

Wendy Stern

こちらが原文です。
 

  I would be happy for you to include the impressions of my visit to Matsumoto in your web magazine "Monthly Suzuki."
 
  Last summer (2023) at the National Flute Association’s annual convention in Phoenix, Arizona, USA, I presented a panel discussion entitled “Suzuki Flute: The French Connection.” Joining me on this panel were Takeaki Miyamae, who attended directly from summer session in Matsumoto; Rebecca Carey, Diploma Graduate of TERI; Kathleen Nester, professional flutist and Suzuki teacher, who studied for two summers with Marcel Moyse at his home in France; and my very first Suzuki student who is now a professional flutist as well. This presentation was attended by many flutists at the convention who were not yet aware of the influence of Marcel Moyse in the pedagogy of the Suzuki flute method, and soon after, I was invited to write an article about this connection for the Marcel Moyse Society and the resulting interview took place this past June.
 
  I had read and very much enjoyed the dialogue between Takahashi-sensei and Miyamae-sensei that was published in the TERI Flute 50th anniversary book. Mr. Takahashi enjoyed a very special connection with Marcel Moyse and the story behind this relationship is very important and  quite fascinating. However, for this interview, I wanted to concentrate on the ways Mr. Takahashi incorporated Dr. Suzuki’s Mother Tongue method with the playing principles of Marcel Moyse. I wanted to be able to share the brilliant ways Mr. Takahashi distilled the pedagogy of Marcel Moyse into accessible components that young children could learn and develop.
 
  I was curious about how Mr. Takahashi developed the “children’s” flute. Mr. Takahashi explained he was inspired by the design of the bass flute, which had a headjoint forming a “U” to the body of the instrument and also by the historic wooden flutes that only went as low as D. At our meeting, Mr. Takahashi went into great detail on how he collaborated with the president of Sankyo Flute Company to develop a light-weight instrument small enough so that little fingers could reach the keys, without changing the tonal pitch of the flute. Together they designed a one-piece flute with a “curved-headjoint”, (like the design of the bass flute) minus the C joint (like the design of the historic wooden flutes). They also eliminated the trill keys that would add weight to the flute and also placed assisted key cups over the keys to enable the small fingers to comfortably reach the notes. The resulting design has flourished for over fifty years, enabling children as young as four years old to start their Suzuki flute lessons.
 
  Another invention of Mr. Takahashi’s is the preparatory “spitting rice” as the precursor to a beautiful tone on the flute. This method of learning articulation has the benefits of enabling the young student to prepare their air stream, develop their embouchure, and utilize the proper tongue position all before putting the flute to their face, (using the same principle as the violinists who start with a box violin). When I asked Mr. Takahashi how he came up with this idea, he quickly pointed to a photograph of a side view of Moyse’s embouchure. Mr. Takahashi grinned, and said, “this is a spitting moment.” And then he further explained, “In Suzuki method, everything is a game, you know, not serious…little kids don’t like exercises…so, spitting watermelon seeds in the summertime was a very good occasion to practice the beginning of tone.”
 
  Throughout this meeting, Mr. Takahashi was animated and eager to share his ideas and experiences. He had planned for this meeting quite thoroughly and had compiled many resources in advance to show me, including photograph albums, original manuscripts, and prior interviews. Mr. Takahashi showed me his personal flutes which were a gift from Marcel Moyse, and also gifted me a signed copy of his book, ”Conversations with Marcel Moyse.”
 
  Since the pandemic, Mr. Takahashi has chosen to isolate himself and his family for health and safety reasons and so it was an honor and especially meaningful privilege for me to able to conduct this interview with Takahashi-sensei in person.

 
Wendy Stern