クラスの子どもたちも
勇気づけられる存在
介護職30年を超えるキャリアを持つ齊藤真理さん。忙しい仕事に追われる中、フルートのレッスンを受けたり、子どもたちと一緒にコンサートに出演することが「とっても楽しいんです」とのこと。「リフレッシュになりますね。フルートを吹いていると、気持ちいいし、心が洗われます」
そばでニコニコ聞いておられた植田理恵先生も「お仕事を持っていらっしゃる大人の方にとって、楽器を演奏することは、非日常になるからいいですね」。植田先生によれば、「大人の方は、練習時間が本当に取れない、レッスンも月に1回という方もいます。でも、その方は、『やめてしまったら、本当にフルートから離れてしまう』と、教室に来て、レッスンを受けるだけでいいとおっしゃっています。楽器に触れる、フルートを続けるという気持ち、趣味としての気持ちに繋がっているみたいです」
中学時代にブラスバンドでフルートと出会ったものの、その後は長いブランクがあったという齊藤さん。一念発起してフルートを再開したのは、10年ほど前のこと。テキストに使っているフルート科指導曲集を編纂された髙橋利夫先生が、スズキのフルート科を創設されたことに、とても興味があったと言います。「ある時、植田先生から『髙橋先生に会いに行こうよ』の一言で、心が揺らいだんですね。どんな方なのかなと思っていましたから」。今では、齊藤さんのフルートケースには、髙橋先生のサインが輝いていますし、また、その後のグループレッスンや夏期学校などの講習会で会われるたびに、ワクワクされるといいます。世界中に髙橋先生を慕うフルーティストがいますが、齊藤さんもその中のお一人というわけです。2014年にスズキ・メソード甲府支部で髙橋先生をお招きしたグループレッスンの場で、「松本の方だと思っていましたよ」と髙橋先生から勘違いされたほど、髙橋先生のおられる松本市にもよく通った齊藤さん。その熱心さには、頭が下がります。
その齊藤さんのレッスンは、たっぷりと1時間ありました。まずは、フルート科恒例の全身をほぐすストレッチに始まり、唇を振動させるなど、独特な準備体操をじっくり。そして楽器を持ち、音の跳躍とロングトーン。下降半音階を3つずつ、それをつなげて2オクターブを丹念に続けます。植田先生は、「息を音と音の間に入れてあげるようにすると、音が鮮明になりますよ」とアドバイス。なるほど、齊藤さんの音がくっきりとしてきました。次は、上向きに3音の半音階。音がかすれがちな齊藤さんに、先生は「親指は抜けていますか? 息は遠くに飛ばしますよ。口の中を、広げてあげましょう」と次々にアドバイス。タンギングの練習では、「球をだすように」。短音と長音の練習では、「絹糸のようなピアノを目指しましょう」と懇切丁寧な指導が続きました。
そのあと、音階教本の「タファネル=ゴーベール」を使って、半音階の練習が続きました。臨時記号だらけの楽譜に目がクラクラしそうです。齊藤さんは、「植田先生から、いきなりここをやりましょう、と毎回言われるのですが、決して大変ではありません。このあたりだろうなと思って予想しても、毎回はずれます(笑)。でも、昔は本当に大変でした。今では慣れましたし、大丈夫ですね」。さすがです。齊藤さんは、いきなり指摘された半音階のスケールでも動じることなく、堂々と吹いていました。自然に読譜力も付いてきているのですから、たいしたものです。
次の教則本がモイーズの「フルートのための24の旋律的小練習曲と変奏(初級)」。「モイーズは、頭の中を切り替えないと大変です」と齊藤さん。楽譜を見ると、3度と6度の跳躍が、フラット5つ(!)で書かれていました。
そして、フランクのソナタ。原曲はヴァイオリン・ソナタとして有名で、チェロでも演奏されます。これは、齊藤さんが演奏してみたい曲として、植田先生に提案した曲でした。ベルリン・フィル首席フルーティストのエマニュエル・パユの大好きなCDに入っていた曲で、原曲もヴァイオリンで聴いたことがあった齊藤さんは、「フルートでも吹けるの?」と思っていたそうです。それが、偶然にも植田先生が購入された楽譜の中に、フルート向けにやさしめにアレンジされたこの曲があり、「やってみましょうか」ということになり、さっそく第1楽章の練習を開始したというわけです。「アウフタクトを感じると、拍の取り方がもっと良くなりますね」。先生が一緒に吹いてくださると、すごくわかりやすくなります。最初は、平板な感じだったフランクが、拍感が良く、立体的になり、生き生きとしてきました。
初夏に予定されているクラスの発表会で、齊藤さんはこの曲をピアノ伴奏付きで披露する予定です。「真理さんのファン、多いんですよ」と植田先生。目標を持って演奏する姿から、子どもたちも勇気づけられていると言います。「真理さんに誘われて入会されたお母さんもいらっしゃるし、うちのクラスの広告塔なんです」。知らないお子さん同士が、グループレッスンやコンサートで一緒になる時には、齊藤さんが気さくに話しかけ、すぐに打ち解ける場面がよく見られるそうです。ベテランの介護士であり、気さくなお人柄が愛される齊藤さん。その音楽に対する情熱が、クラスのムードメーカーにもなっているとのこと。なくてはならない存在というわけです。
その齊藤さんも、卒業証書授与の場面では、感動されたと言います。スズキ・メソード独特の卒業制度は、各科にあり、フルート科でも10段階の卒業課程があります。「前期初等科でヘンデルの『ブーレ』を、初等科でメンデルスゾーンの『歌の翼に』を2曲同時に卒業録音したのですが、皆さんの前で名前を呼ばれて卒業証書をクラスの皆さんの前で授与された時、実はちょっとウルっときましたね。がんばってきて、良かったなぁと。でも4巻のブラベーのソナタは、とても苦労しました(笑)」。スズキの卒業制度は、生徒のやる気と集中力を高め、終わったあとの達成感もあって、とても素晴らしい制度です。齊藤さんにとっても、とてもいい目標になっていることがわかります。
フランクのあとにトライしたい曲は? と尋ねると、シャミナーデの「コンチェルティーノ」、そしてフルート科指導曲集第8巻にあるフォーレの「ファンタジー」と、曲名がすらすらと出てきました。齊藤さんの歩みは、これからも続きます。そして、それがクラスのとても大きな財産、要(かなめ)と植田先生は目を細めていらっしゃる姿が、印象的でした。
「これから楽器を始める人たちへ」
〜齊藤真理さんからのメッセージ
先生とは、お友だち感覚でお付き合いいただいております。とにかく、レッスンを受けること、自分で練習をすること、そしてお客様を前にしてソロで演奏したり、フルート・アンサンブルをしたり、すべてが楽しいですね。
植田先生にお願いして、2015年8月末に私の職場にもいらしていただき、演奏をお願いしたことがありました。その時に、一緒にフルート二重奏をさせていただきました。曲は、グルックの「精霊の踊り」と「いい日旅立ち」の2曲。入所者の皆さんにとても喜んでいただき、嬉しかったですね。
これから始めようとされる皆さんも、基礎から教えてくださるスズキ・メソードのしっかりした教え方はとても役立つと思いますし、なによりも子どもたちと一緒にグループレッスンで斉奏をすることは、喜びなんです。フルートをやっていて楽しい瞬間です!