家族の「チカラ」で思いを達成
長女の采杷(ことは)さんが通えるピアノ教室をインターネットで探していた佐藤友子(ゆうこ)さん。平日は病院グループの運営に携わる事務ををされているため、土曜日のレッスンで、家から通えるところを検索したところ、永田香代野先生の教室がヒット。さっそくご主人の秀比古さんと二人の娘さんと一緒に門を叩いたのが、2015年の6月でした。
「実は、小さい頃からピアノを習いたかったのですが、両親はあまり関心がなく、その環境にありませんでした。学校の演奏会で役割が当たる時は、いつも打楽器を選んで、人の演奏を聴く専門でした」という友子さん。本心では憧れつつもピアノを習うことを声に出せなかったと言います。コンサートやライブに行くと、自分で楽器を演奏でき、人生の中に音楽があるのは豊かなこと…とずっと思っておられた友子さんは、いつの日か子どもができたら一緒に習えるのでは、と想いを抱かれていました。そろそろいいかなと思って教室を探し、永田先生に出会ったことで、火がつきました。「お子さんが小さすぎる場合は、まずお母さんからどうぞ」と教室案内に書かれていたのが、目にとまり、その場で決断されます。「私でもいいでしょうか、と尋ねたら、先生は、もちろんです」と。
スズキの教室であることを知らずに入られた友子さん。「お恥ずかしいことに、永田先生のところに伺って初めてスズキを知ったのです。鈴木先生の著書『愛に生きる』をいただいて、子どもの環境が大切というところにとても共感して、それで続けてみようと思いました」
友子さんのように仕事もバリバリされ、子育ても奮闘中のママさんが、自分の夢を実現されるためには、やはり家族のチカラが必要です。友子さんは、ご主人の絶大なる理解とサポートを得ることができました。
「レッスンの間は、二人の子どもを見ていてもらわないといけませんので、その時間は予定を入れず、一緒にレッスンに行ってくれますから、とても助かっています」
取材当日、秀比古さんは、娘さんたちと静かに本を読んだり、お絵描きをしたり、レッスン中のママの邪魔にならないようにされていました。時々、1歳半のさんがママの後ろに近づくと、そっと手を差し伸べられて、離れるのを待ったり、細かな気配りも申し分ありません。
「子どもが生まれたら、親と子でピアノを弾くことを妻が思い描いていたことは、何となく感じていたのですが、教室を具体的に目の当たりにしたことで、ストーリーが繋がりましたね。結婚10年以上経ってから、こういう生活になるとは思いませんでしたが、相当やりたかったんだなと。仕事や子育てに忙しくても続いているのは、その思いの強さにあったことに共感しましたし、この教室なら実現できるとピンときたわけです。それに私自身、キーボードを弾いていて、娘がピアノをいつの日か始めたら、発表会に行くのが夢でした。まさか妻が始めるとは思っていなかっただけに、これを逃したら大変と思った次第です」と秀比古さん。
友子さんにとって、練習時間を作り出すことは、なかなか大変なことです。土曜日のレッスンのために、毎週、意識して金曜日をピアノの練習日として大切にされています。子どもたちを9時までに寝かしつけ、そのまま一緒に睡眠。夜中の2時、3時に起き出して、ピアノを弾き始めます。これが佐藤家の生活のリズムにぴったり。一軒家で、音の問題もなく、子どもさんたちも起きてくることがありません。秀比古さんも、娘さんたちが起きている間はなかなか集中できないパソコン作業に、この時間をあてられます。まさに、金曜日の夜中はゴールデンタイムというわけです。
以前に比べて、家で流れる曲が変わった佐藤家。毎日、指導曲集第1巻のCDが朝ごはんの時の定番になりました。友子さんがピアノを弾かれると子どもたちはすぐに寄っていくようになりました。「3歳になった采杷は、自分も先生にピアノを教わっている意識があるので、ライバル心を燃やし、〝ピアノを弾きたい、弾きたい〟と横から鍵盤を叩いて邪魔をしたりしています」
秀比古さんは、采杷さんがキラキラ星変奏曲の「アイスクリームのリズム(タカタカタッタ)」を一人で弾けるようになったことが最近の嬉しかったこと。「家でも先生の真似をして、挨拶をさせられます。〝1月のレッスンを始めます〟と言って、始めます」と友子さん。確実にレッスンの効果が出始めたご様子。
「人生に音楽があるのは、とても豊かなことだと思います。これから子どもたちが自然に何かを選んで、やりたい、と言いだしたら嬉しいですね。将来、私を追い抜いて、ピアノを教えてくれるのが楽しみ。それまでは、ママとして今をがんばりたい。半年早く始めたアドバンテージは守りたいですから」
そのためにも秀比古さんは、なるべく練習する時間ができるように家事も積極的に分担されています。
この日のレッスン曲は、第1巻の「アレグレット1」、「さようなら」、「アレグレット2」、復習曲として「ロング・ロング・アゴー」や「おともだち」をお稽古。「佐藤さんは、柔軟性があって、リズム感があるし、カンもいいですね。指の形もとてもいい」と永田先生。「夜中の努力が出ていますね」とも。本当に、その通りでした。
この日のレッスンでは、新年1月9日に藤沢市民会館小ホールで行なわれた「第5回アンサンブル発表会」向けに《オー・ソレ・ミオ》の連弾のお稽古もありました。友子さんにとっては、生まれて初めての発表会。緊張感は、いやが上にも高まります。発表会が終わった1月、改めて初めてのピアノ発表会の感想を伺いました。
「永田先生の〝大丈夫〟という言葉を信じて会場に行ったのですが、会場全体の雰囲気に、やはり場違いな感じがして、引き返したくなりました。でも、会が進むにつれて、緊張もあると思うのに子どもたちがとてもがんばって演奏している可愛らしい姿と、演奏会を支えている会員の皆さんやご家族の方たちの一生懸命さやお互いを見守る温かさがとても強く感じられて、そのような場に参加できたことが嬉しかったですね。舞台に上がる直前に采杷が、突然、「自分もタカタカタッタを演奏する」と言い出しました。〝今日はママの番だから、采杷はダメ〟と言ってもきかず、〝鍵盤には触らない、隣で見守るお役目〟ということで、先生にお願いして一緒に舞台に上がることに。後に主人く、最初は会場も〝?〟という感じでしたが、永田先生の機転で、〝付き添いは采杷ちゃん〟のアナウンスをしていただいたことで伝わったようです。ただ、ピアノ椅子に座ったのが采杷ではなく私だったことで、一瞬会場がザワザワとなったとか」
「結果的には、采杷に一緒に舞台に上がって、私が助けられました。先生も演奏直前に冗談を言って緊張を和らげてくださって、演奏はあっという間に終わりました。そして、終わった安心感の中で、そのあとの子どもたちの演奏を十分楽しみ、とてもよい記念になりました」
秀比古さんの感想です。
「演奏順番前は自分の本番のように、どきどきしたのを覚えています。初めてだから、間違ってしまって観客に聴き苦しい演奏になるのではと思っていたのですが、思ったより上手で、堂々と弾いていたのが印象的でした。采杷が付き添いで一緒にステージに出させてもらい、そちらも心配でしたが、観客に手を振る余裕で、ほっとしました」とのこと。
当日に至るまでのサポートも実に細やかだったようです。
「具体的な作業はありませんでしたが、〝ドレスを何着ていけばいいだろうか〟の相談を受けたり、《オー・ソレ・ミオ》を練習している時に、〝もう少し強くたたいて音が大きく聴こえた方が堂々としていていいよ〟とか、〝イタリアの青い空を想像して〟と言いました。正月明けは、練習できるように子どもの世話をよくみましたね」
友子さんの集中力と秀比古さんの支えで見事に初デビューを飾ることができたわけです。
応援に来られた友子さんの職場の先輩からは「小さな子どもたちが皆しっかり舞台に立ち、当然のことのようにえて演奏できることに、とてもびっくりした」と感想が寄せられたそうです。それを聞いて、友子さんは「スズキって、不思議なところだなぁ」と改めて魅力にとりつかれたご様子。近い将来、親子での共演も楽しめるかもしれません。
発表会後の友子さんは、家事に子育て、そして仕事 と 相変わらず慌しい日々と、夜中のゴールデンタイム&金曜日の一夜漬け集中練習で土曜のレッスンに通っていらっしゃるそうです。
「上達の程度は一進一退です!? 指導曲集第1巻の18曲目、《クリスマス デイ・シークレット》の練習に入ったのですが、最初、自力では〝できる気がしない〟と思っておりましたが、先生から丁寧に指の運び、練習の仕方を教えていただくと、段々とできるようになってきました! 〝きちんと基本を習う、方法を学ぶ〟ということはすごいなあと改めて思っております」と友子さん。
「長女は、発表会を機会に、少し舞台度胸がついたような気がします。内弁慶で、保育園の発表会などで人前に出ると泣いていた子が、今年のひな祭り発表会では堂々と演技しており、嬉しく思いました。次女は1歳半になり、私のレッスンの途中に鍵盤を触りにくるようになりました」
「これから楽器を始める人たちへ」
〜佐藤友子さんからのメッセージ
大人の方は、始めるきっかけも、レベルも皆さん違うと思いますが、私がピアノのレッスンに通い始めたきっかけは、幼い頃に自分ができなかったピアノを、長女がもしやりたいと言ったらさせてあげたいという思い・・・でした。
それが今は、誰に強制されるものでもなく、誰かと比べるものでもなく、自分のためにできる、このレッスンを楽しんでいます。
小さな子と肩を並べて習い事をするのは、やはりちょっと恥ずかしい気持ちもありますが、その気持ちを上回って、大人になると「できない」と口に出すことが段々難しくなる中、私にとってピアノは「できないからこそ習い」、「少しずつでも進歩する自分を感じることができる素敵な機会」となっています。